月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 お盆を挟むようにして蒼司の横に腰を下ろし、小皿をすかさず確認した。ひそかに、おやつの甘味を楽しみにしているんだよね。今日のお菓子は──

「……羊羹?」
「凛の故郷にもあるのだな」
「うん。お母さんも大好きで、よく買って食べたよ」

 お菓子の中でも、とびきり餡子が好きなこともあって羊羹に目がないのよね。
 嬉しさに頬を緩めていると、目を細めた蒼司は「そうか」と頷いて小皿を手に取った。差し出されたそれを受け取り、添えられた黒文字を摘まむ。

「蒼司さんも、羊羹好きなの?」
「そうだな。疲れている時はこれがよく効く」
「ふふっ。それわかるな」

 黒文字で羊羹を小さく一口に切ろうとすると、弾力が感じられた。きっと蒸し羊羹だろう。練り羊羹や水羊羹よりもずっしりしていて、なんとなく田舎のお婆ちゃんの味って印象なんだよね。
 口に入れたねっとりとした餡子の味わいが口に広がると、心がほぐれていくようだった。

「凛は本当に美味しそうに食べるな」
「……そうかな?」
「ああ。姉上は食が細かったからな。板前も料理の作りがいがあると喜んでいる」

 いわれて今朝の食事を思い出した。
 お野菜の煮物に焼き魚、餡かけ豆腐、お味噌汁。健康そうないかにも和食といった食事だ。特に餡かけ豆腐が美味しいんだよね。大豆の甘さに出汁のきいた餡がからんで、いくらでも食べられちゃう。

「板前さんのお料理美味しいから、太っちゃいそうだな」
「凛は痩せすぎだろう。気にせずもっと食べればいい」

 いわれたことに驚き、笑いながらお茶を啜る蒼司をじっと見つめてしまった。すると、私を振り返った彼は不思議そうに「どうした?」と訊ねる。

「……私、痩せてる?」
「姉上と比べたら健康そうではあるが、それでも痩せてるだろう。倒れないか心配でならないぞ」
「嘘……だって、少しはダイエットしろっていわれてたよ」
「だいえっと、とは?」
「えっと、身体を動かして痩せなさいってことだけど」
 
 帯の上からお腹周りを触り、手にしていた皿を縁側に下ろして頬を触ってみた。
 ふにふにとやわらかい手触り。二重顎にはなっていないけど、モデルみたいにシュッとしている訳じゃない。鏡に映る顔を思い出しながら、ぺたぺたと肌を触っていると、蒼司に指を握られた。

「身体を動かすなら、もっと食べねばな」
「……本当に、太っていないと思う?」
「もちろん。女中たちも、着物を着せる時に凛の腰が折れないか心配だといっておったぞ」
「え、ええっ!? それはさすがに、いいすぎかと」

 大きな口で笑う蒼司は、私の指をやわやわと握りしめて「折れそうな指だ」と呟いた。

「ふくよかなくらいが愛らしいものだ」

 見つめる瞳が優しく微笑んでいる。
 本当に蒼司は私を甘やかすのが上手だな。

 いつもなら、その一口に罪悪感を覚えるだろう羊羹だけど、気付けば皿から消えていた。
 月江戸に来て不安ばかりだけど、こうして蒼司と縁側で庭を眺めながらお茶をするひと時は本当に安らぐ。
 しとしとと雨を降らせていた雲が切れ、ほんの少し陽射しが差し込んだ。