月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 異世界にやってきて将軍家の危機を救えっていわれ、すぐに納得できる人はいるのだろうか。
 私には無理だ。

 月江戸っていうくらいだから、きっと江戸時代に似た世界よね。つまり、将軍様の危機は命を狙われてるとか、そういう陰謀系だろう。

 剣道をやっていたわけでも、霊感とかそういうのを持っているわけでもない。武士や陰陽師だって、物語の中にいる存在でしかない。それに、私は女神様に特殊スキルをもらったわけじゃ──あ、なんか耐性は凄いんだっけ?

 体に異物が入っても大丈夫みたいなことを女神様はいってたけど、その程度だ。身体が丈夫以外なにもない私に、できることなんて想像つかない訳で。

「……あの、私は大したことできないかと」
「ご心配には及びません。貴女様は、我らの祈りによって遣わされた。全ては月の思し召しにございます」
「で、でも……」
「突然のことでお疲れでしょう。まずは場所を移動しましょう」

 粛々と話を進める父親は静かに立ち上がる。
 すると、蒼司が私に手を差し伸べた。大きな手はその綺麗な顔に似合わない武骨さがあって、掌には見てわかる固そうなタコがある。神社の神主さんみたいな格好しているけど、この人も刀を扱えるのかな。

 手に触れるのを戸惑っていると「立てますか?」と声をかけられる。それに頷きながらそっと指を置くと、指先を握りしめられ、じんわりと温もりが伝わってきた。

 心地よい衣擦れの音がして、私の巫女装束が揺れた。

「本日より、巫女様には我が東雲家にてお過ごしいただくことになります」
「巫女様におきましては、ご不安なことが多いことと思います。困りごとがございましたら、蒼司になんなりとお申し付けください」
「……で、でも」

 蒼司を見上げると、切れ長の瞳が少し細められる。薄い唇が微かに上がり、見つめられるだけでドキッとした。
 すごく綺麗な顔で微笑む人だ。見とれそうになった優しい笑みに、合コンの席で気を遣うように声をかけてきた彼の笑みが重なった。ちょっと似ているかも──ドキドキしていいると「巫女様」と声がした。
 
 はっとして振り返ると、そこで父親が穏やかに微笑えんでいる。
 親子そろってめちゃくちゃ顔がいい。その笑みに見とれちゃうんですけど。

「三か月後に、祝言を挙げることになります」
「──え?」

 突然の言葉に理解が追い付かず、首を傾げて「祝言?」と繰り返す。そうして、にこにこする父親を見ること数秒。脳裏に「結婚」の文字が浮かんだ。

「しゅ、祝言って、え、私が!?」