月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 規律正しい心音が耳に届き、薄い着物からただようお香の優しい香りが鼻腔をくすぐった。

「大奥に行かせたくない私の気持ちをわかってくれぬか?」
「……え?」
「月の加護があるとわかっていても、心配なのだ」
「蒼司さん……どうして、そんなに心配してくれるんですか?」
 
 優しさに勘違いしそうになる。身を委ねてしまいたくなる。だけど、蒼司の胸に手を寄せて少し押し返した。
 見上げると、うっすらと寂しさを浮かべた顔がすぐ傍にあった。

「ずっと待っていたんだ」
「……待っていた?」

 距離を取ったのに、蒼司は私をさらに引き寄せ、ズレた掛布団を私の肩へとかけた。
 蒼司の体温ですっかり温まった布団に包まれ、胸が苦しくなる。

「まだ、私の母のことを話していなかったな」

 突然の言葉に瞬くと、蒼司は「少し話に付き合ってくれるか?」と尋ねてきた。それに頷くと、私の髪を撫でながら語り始めた。

「私が五つの時、母はこの世を去った。ある妖《あやかし》から私を守って命を落としたのだ」

 突然の告白に息を飲む。蒼司の着物に寄せた手は、無意識にその合わせを握りしめていた。

「その時、母が呼び寄せたモノの欠片が、私の左目に宿っている」
「左目……」

 白濁とした瞳を思い出し、胸の奥がざわめいた。

「母の記憶は曖昧だが……祖母からよく、お前の母は芯の強い女だったと聞かされた。曲がったことが嫌いで、慢心などしない。大層できた嫁だったと」

 懐かしむように語る蒼司の指が、私の頬をそっと撫でる。

「母との思い出はほとんど記憶にないが、一つだけ鮮明に覚えていることがある」
「……覚えていること?」
「ああ……死ぬ間際、私へ残した言葉だ」

 深く息を吸う蒼司は、当時を思い出しているのだろうか。少しの間、口を閉ざした。
 頬に添えられたままの手に触れると、指先が握りしめられる。

「私は母になれてよかった。玄嗣様の妻になれてよかった」

 わずかに震える声が、胸に染み渡る。

「私の手を握った母は『あなたの嫁を見れないことが心残りだ。慈しみなさい』……そういった」

 慈しみなさい。その一言にどれだけの思いをのせたのだろう。
 蒼司が私へ向ける優しさの向こうに、静かに佇む女性の影が見えるようだ。

「父上は後妻を迎えなかった。亡き母が私たち姉弟の母であり、我が妻の代わりはいないといわれてな」
「……蒼司さんのお母様は、とても素敵な女性だったのね」
「よく覚えていないのが残念だが、美しい人だった……父上が母を慈しんだように、私も嫁いできた者を慈しもうと決めていた」

 私の手を放した蒼司は、再び私を引き寄せる。肩が少し痛くなるほど抱き締める姿は、どこか甘える子どものように思えた。

「待っていたんだ」

 大きな背中に手を回し、そっと撫でる。

「凛、そなたを失いたくはない」

 熱い吐息に胸が焦がされるようだった。