月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 ごそごそと動く気配がすると、肩のあたりをとんとんと優しく手が叩いた。まるでそれは、子どもをあやすような手つきだ。

「お市の方が残した辞世の句に、郭公が出てくる」
「……敵に囲まれた城で娘たちを逃がした後、柴田勝家とともに自害した時の?」

 肩を叩いてた手がぴたりと止まる。そうして「ああ」と頷くと、また同じように優しくとんとんっと叩き始めた。

「さらぬだに打ぬる程も夏の夜の、別れを誘ふ郭公かな」
 
 静かに空気を震わせた一句。
 眠る間もなく短い夏の夜に、この世との別れを告げるのか──敵軍に囲まれたお市の複雑な感情が、ホトトギスへと向けられているようで、見たこともない戦場の火が焼く夜空を想像させた。
 深く息を吸い、肩を叩いていた蒼司の手を握りしめる。

「お市にとって、ホトトギスは死を告げる鳥だったのね」
「……ああ、そうだ。お市の方だけではない。柴田勝家の辞世の句にもホトトギスはいる」
「そうなんだ。だから、今日届いた和歌のホトトギスも……」
「死にたくないなら、その声を聞かせるな。近づくなという警告だろう」

 私の手を握り返しながら、蒼司は低く告げた。それに一度はなるほどと思ったけど、なにかが引っ掛かった。
 死にたくないなら?──なんだかそれって、視点がブレている気がする。

「でも……それだと、私がホトトギスなのっておかしくない?」
「どういうことだ?」
「だって『心あらば物思ふ我に声なきかせそ』って、ホトトギスに心があるなら、思い悩む私に声を聞かせるなって、意味よね?」
「そうなるな」
「ホトトギスが死を告げる鳥なら、死を恐れているのは和歌を詠んだ人になる筈でしょ?」

 私の疑問に蒼司は少し唸ると黙り込んだ。
 この和歌は、万葉集のような古い和歌集から引っ張ってきたものかもしれない。だとしたら、警告するのに丁度いいものを選んだだけとも考えられる。

 でも、それだけじゃないような気が、どうしてもする。なにか、別の目的でこれを選んだんじゃないのかな。

 夏山になく郭公、心あらば物思ふ我に声なきかせそ──本来の意味は多分「夏山に鳴くホトトギスよ、思いやる心があるなら、物思いに心悩ませる私にその声を聞かせないでおくれ」かな。

 どう解釈しても、そこに死の鳥なんて意味を私は感じられない。どんなに想像しても、夏山を眺めて悩んでいる人の背中しか見えない。この人はなにを悩んでいるのかしら。

 国語の授業で和歌が苦手だったことを、今更ながらに後悔する。もしも、古典の先生がこれを読んだらなにを想像したんだろう。時代背景、読み手の人間像、社会情勢──情報が足らなすぎる。
 どんなに考えても読み解くことが出来ず、口からこぼれるのは、ため息ばかりだ。

「……蒼司さん、あの和歌って古いものかな?」
「おそらくは、万葉集あたりから引っ張ってきたのだろう」