その晩、布団に入ってから和歌のことを考えていた。
夏山になく郭公、心あらば物思ふ我に声なきかせそ──どうしてこの和歌だったんだろう。
ホトトギスは夏の季語だから、今の季節に合っているといえば合っている。声を聞かせるなっていうのは、私に近づくなって意味なのかな。
それに、どうして呪詛を込めたのが、ホトトギスなのか。
古来から和歌に詠まれることが多い鳥だし、時期だからとか、連想しやすい鳥だからとか、簡単な理由かもしれない。だけど、それだけじゃないような気もする。
寝付けずに寝返りを打つと、横から「眠れぬか?」と声がした。
月明かりが差し込んでいれば、うっすらと綺麗な顔が見えたのだろう。だけど今夜は生憎と雨が降っていて、蒼司の顔をよく見ることはできない。それでも、私が寝付けないことを察してくれた彼の顔が、優しく微笑んでいるような気がした。
「和歌のことを考えていたの」
「郭公か?」
「うん……あの和歌って私に向けたものでしょ?」
「そうだろうな」
「夏山に鳴く郭公が、私よね? なんでホトトギスなのかなって」
「ああ、それはおそらく……ホトトギスは、華国の故事では死を表す鳥であるからだろう」
静かな声に息を飲む。
予想外の回答だ。夏の鳥だからとか、そういった風流なものではなかったのか。死を表す鳥に呪詛を込めたって考えたら、今更になって背筋が震えた。
「死を表すって、そんな怖い鳥だった?」
「夜に鳴く上、その口の中が赤いことで血を吐く鳥だといわれる。赤い口が死を連想させるのだろう。辞世の句に詠まれることもあるな」
「辞世の句って、あれよね、死を前にして残す最後の言葉。……織田信長は『是非に及ばす』だったかな?」
ふと高校で習った歴史の授業を思い出した。
織田信長の辞世の句を「人間五十年」と勘違いされるが、それは信長が好んだ小唄の一節なんだとか。──懐かしいことを思い出していると「信長公を知っているのか?」と驚いたように蒼司が尋ねた。
「知ってるっていうか、私の国では有名な武将で……え、こっちにもいるの?」
「いるというか……戦国の英傑として知らぬ者はいないだろう」
言い切る蒼司の声は、英雄へ憧れる少年のようで高揚感を滲ませていた。
「こっちでも、織田信長は明智に討たれたの?」
「……どうであろう。織田の末裔はそういっているが、証拠はない」
「そうなんだ。それも私たちの国と同じなんだね」
「では、お市の方も──」
「もちろん、知ってるよ。織田信長の妹姫よね」
私の返事に、蒼司は「不思議なこともあるな」と和らな声でいった。
本当にそうだ。全く知らない異世界に来たと思っていたのに、もしかしたら私たちはどこかで繋がっているんじゃないかと思えてくる。
夏山になく郭公、心あらば物思ふ我に声なきかせそ──どうしてこの和歌だったんだろう。
ホトトギスは夏の季語だから、今の季節に合っているといえば合っている。声を聞かせるなっていうのは、私に近づくなって意味なのかな。
それに、どうして呪詛を込めたのが、ホトトギスなのか。
古来から和歌に詠まれることが多い鳥だし、時期だからとか、連想しやすい鳥だからとか、簡単な理由かもしれない。だけど、それだけじゃないような気もする。
寝付けずに寝返りを打つと、横から「眠れぬか?」と声がした。
月明かりが差し込んでいれば、うっすらと綺麗な顔が見えたのだろう。だけど今夜は生憎と雨が降っていて、蒼司の顔をよく見ることはできない。それでも、私が寝付けないことを察してくれた彼の顔が、優しく微笑んでいるような気がした。
「和歌のことを考えていたの」
「郭公か?」
「うん……あの和歌って私に向けたものでしょ?」
「そうだろうな」
「夏山に鳴く郭公が、私よね? なんでホトトギスなのかなって」
「ああ、それはおそらく……ホトトギスは、華国の故事では死を表す鳥であるからだろう」
静かな声に息を飲む。
予想外の回答だ。夏の鳥だからとか、そういった風流なものではなかったのか。死を表す鳥に呪詛を込めたって考えたら、今更になって背筋が震えた。
「死を表すって、そんな怖い鳥だった?」
「夜に鳴く上、その口の中が赤いことで血を吐く鳥だといわれる。赤い口が死を連想させるのだろう。辞世の句に詠まれることもあるな」
「辞世の句って、あれよね、死を前にして残す最後の言葉。……織田信長は『是非に及ばす』だったかな?」
ふと高校で習った歴史の授業を思い出した。
織田信長の辞世の句を「人間五十年」と勘違いされるが、それは信長が好んだ小唄の一節なんだとか。──懐かしいことを思い出していると「信長公を知っているのか?」と驚いたように蒼司が尋ねた。
「知ってるっていうか、私の国では有名な武将で……え、こっちにもいるの?」
「いるというか……戦国の英傑として知らぬ者はいないだろう」
言い切る蒼司の声は、英雄へ憧れる少年のようで高揚感を滲ませていた。
「こっちでも、織田信長は明智に討たれたの?」
「……どうであろう。織田の末裔はそういっているが、証拠はない」
「そうなんだ。それも私たちの国と同じなんだね」
「では、お市の方も──」
「もちろん、知ってるよ。織田信長の妹姫よね」
私の返事に、蒼司は「不思議なこともあるな」と和らな声でいった。
本当にそうだ。全く知らない異世界に来たと思っていたのに、もしかしたら私たちはどこかで繋がっているんじゃないかと思えてくる。

