この呪詛は声に出すことで発動するって、蒼司がいっていた。私が和歌に興味なかったら、女中さんに読んでもらったか、蒼司に持っていったはずだ。それでも騒動になるだろうけど、狙い通りに発動はしないわよね。
「私を呪いたい敵は、和歌であれば私が声に出して読むって考えた……?」
「……凛が和歌に興味をもつと知る者が、協力者ということか」
「かもしれない。私が和歌の話をしたのは……桜さんの女中さんたちよ」
女中たちの顔を思い浮かべ、胸が痛んだ。あの中に、敵と通じる人がいるなんて思いたくない。思いたくないけど、私を桜の方から遠ざけようとしているのかも。例えば、桜の方に毒を盛ろうとしている──だとしたら、私がどうにかしないと。
優しく微笑む桜の方を思い出し、膝の上で手を握りしめた。
「もう一度、大奥に向かいます」
「しかし……」
「皆さんに和歌を書いてもらうのはどうかな。そうすれば、文字を見比べられるし」
「和歌を?」
「そう。桜さんに勉強会を開いてもらって、女中の皆さんからオススメの和歌を書いてもらうの。不勉強だから、学ばせて欲しいって建前で」
提案すると、蒼司の顔が曇った。手紙をくしゃりと握りしめ、厳しい目を私に向けている。
もしかして大奥でボロを出すんじゃないか、心配しているのかな。文字の手習いを続けたおかげで、だいぶ、この時代っぽい文字も書けるようにはなったんだけど、凄く時間がかかるんだよね。和歌を一首書くくらいなら誤魔化せる気もするけど。
「だ、大丈夫よ。ほ、ほら、文字は少し前に怪我をしていたとか、なんとか嘘でもついて書かないように」
「……そういう心配をしているのではない」
小さなため息が聞こえた。
握りしめていた手紙を畳んで懐に戻す蒼司は、私に向き直ると、そっと手を重ね合わせてきた。
熱い手が、私の手の甲をそっと撫でる。
「そなたをまた危険な目に合わせるのかと思うと……」
「危険って、和歌を書いてもらうだけだし」
「そうだが……私たちの予想が正しければ、敵の懐に入るも同じだろう」
手が握りしめられ、深い息を吸った蒼司は私を見つめた。その目があまりにも綺麗で、胸が高鳴る。
「わ、私は月の巫女だから、大丈夫よ」
胸の高鳴りを気づかれたくなくて、笑って誤魔化しながら手を引こうとした。だけど、蒼司はその指を掴んで離してくれない。それどころか手を引くと、私を胸へと引き寄せた。
頬が着物の合わせに触れ、ふわりと優しい花の香りが鼻腔をくすぐる。
「……心配してくれて、ありがとう。でもね、たぶん……私が動かないといけないの。なにもしないで、もしものことが起きたら、巫女としてここに来た意味がないでしょ?」
「凛……そうだが、しかし──」
「しかしもカカシもないの! 蒼司さんは心配性ね。私には女神様の加護があるんだから大丈夫よ」
蒼司の胸をぐっと押して顔を見上げると、真剣な眼差しが私を捕らえた。
「なら、女中の書く和歌を手に入れるだけだと約束をしてくれ。なにか怪しい動きを見たとして、深追いはしないと」
大奥の中では助けてやれないからと、蒼司はやるせない思いを表すように眉をひそめた。
「私を呪いたい敵は、和歌であれば私が声に出して読むって考えた……?」
「……凛が和歌に興味をもつと知る者が、協力者ということか」
「かもしれない。私が和歌の話をしたのは……桜さんの女中さんたちよ」
女中たちの顔を思い浮かべ、胸が痛んだ。あの中に、敵と通じる人がいるなんて思いたくない。思いたくないけど、私を桜の方から遠ざけようとしているのかも。例えば、桜の方に毒を盛ろうとしている──だとしたら、私がどうにかしないと。
優しく微笑む桜の方を思い出し、膝の上で手を握りしめた。
「もう一度、大奥に向かいます」
「しかし……」
「皆さんに和歌を書いてもらうのはどうかな。そうすれば、文字を見比べられるし」
「和歌を?」
「そう。桜さんに勉強会を開いてもらって、女中の皆さんからオススメの和歌を書いてもらうの。不勉強だから、学ばせて欲しいって建前で」
提案すると、蒼司の顔が曇った。手紙をくしゃりと握りしめ、厳しい目を私に向けている。
もしかして大奥でボロを出すんじゃないか、心配しているのかな。文字の手習いを続けたおかげで、だいぶ、この時代っぽい文字も書けるようにはなったんだけど、凄く時間がかかるんだよね。和歌を一首書くくらいなら誤魔化せる気もするけど。
「だ、大丈夫よ。ほ、ほら、文字は少し前に怪我をしていたとか、なんとか嘘でもついて書かないように」
「……そういう心配をしているのではない」
小さなため息が聞こえた。
握りしめていた手紙を畳んで懐に戻す蒼司は、私に向き直ると、そっと手を重ね合わせてきた。
熱い手が、私の手の甲をそっと撫でる。
「そなたをまた危険な目に合わせるのかと思うと……」
「危険って、和歌を書いてもらうだけだし」
「そうだが……私たちの予想が正しければ、敵の懐に入るも同じだろう」
手が握りしめられ、深い息を吸った蒼司は私を見つめた。その目があまりにも綺麗で、胸が高鳴る。
「わ、私は月の巫女だから、大丈夫よ」
胸の高鳴りを気づかれたくなくて、笑って誤魔化しながら手を引こうとした。だけど、蒼司はその指を掴んで離してくれない。それどころか手を引くと、私を胸へと引き寄せた。
頬が着物の合わせに触れ、ふわりと優しい花の香りが鼻腔をくすぐる。
「……心配してくれて、ありがとう。でもね、たぶん……私が動かないといけないの。なにもしないで、もしものことが起きたら、巫女としてここに来た意味がないでしょ?」
「凛……そうだが、しかし──」
「しかしもカカシもないの! 蒼司さんは心配性ね。私には女神様の加護があるんだから大丈夫よ」
蒼司の胸をぐっと押して顔を見上げると、真剣な眼差しが私を捕らえた。
「なら、女中の書く和歌を手に入れるだけだと約束をしてくれ。なにか怪しい動きを見たとして、深追いはしないと」
大奥の中では助けてやれないからと、蒼司はやるせない思いを表すように眉をひそめた。

