「すぐに浄化したから大事ない」
「……浄化? あ、さっきの呪文! なんとかきゅうきゅう……?」
「六根清浄、急急如律令──今すぐ身体を清めよといった意味だ」
やっぱり、あれも陰陽術だったんだ。アニメとかで見たような感じだったな。
感心しながら聞いていると、蒼司は懐にしまっておいた手紙を出した。
「触って、大丈夫なの?」
「心配するな。もう効果は失われている。凛……この和歌を読んだのだろう?」
「ええ、意味はよくわからなかったけど」
広げられた手紙に恐る恐る視線を向けると、ちょうど「郭公」の部分が焦げて抜け落ちていた。
「凛が月の巫女であったがゆえ、術は発動しなかったのだろう」
「……どういうこと?」
「これは和歌を読み上げると、狐火が上がり、毒が煙となって体に入る仕組みだと考えられる。凛は月に遣わされた者だから、下界の呪いが届かなかったのだろう」
「届かなかった……」
いわれて指を見た。確かに、なんだか静電気みたいなものを感じたし、身体が拒絶していたようだったな。もしかして、女神様がくれた耐性の影響なのかもしれない。
それにしても、まるで時限装置ね。まあ、私はあの煙を吸ったところで、たぶん問題ないんだろうけど。
「この手紙を確かめた人が読まなくて良かったね」
「東雲家で文の中身を検める者は、陰陽術に心得がある者だから、やたらに文の中身を音にはせん」
「なるほど……つまり、蒼司さんは罠だとわかって読んだってこと!?」
驚いて尋ねれば「当然だ」と返ってきた。驚きと同じくらい呆れてため息をつくと、蒼司は左目を覆う眼帯に指をかけた。
「蒼司さん?」
「術を使った者を探れるかもしれん」
露になったその左目は、白濁とした色を失ったものだった。もしかして、失明しているのかもと思ったけど、その瞳はラピスラズリのような濃紺色の右目と一緒に、焼け焦げた手紙へと向いている。
「慎みて我が眼に眠りし霊神に願い奉る」
部屋に響いた声は、まるで水面に落ちた水滴が波紋を広げるよう静かに、だけど確かな音となって私の耳に触れた。
「札に刻まれし縁を示したまえ」
音が重なるような錯覚に目眩を覚えた。すると、不思議と、手紙から文字が浮かび上がった。
幻想的な光景に呆然としていると、文字が一瞬赤くなる。だけど次の瞬間には、輝きを失って紙へと戻っていった。
かさっと音とともに手紙が板の間へと落ち、低いうめき声がした。
「……蒼司、さん?」
「なるほど。私を知る者の仕業か……」
苦しそうな表情で呟く蒼司は深く息を吸い、その左目を抑えていた。
なにが起きたのか、わからない。だけど、痛そうにいているのは伝わってくる。
「目が痛いの?」
心配になって手を伸ばすと、蒼司は私の手から逃れるように少し身を引いた。
私を見る驚いた目に、ほんの少し心が痛む。拒絶ではないけど、そこに壁を感じてしまった。
ああ、失敗した。
そうだよね。いくら仮初めの夫婦だからって、そんな簡単に触れたりしたらダメだよね。
無意識に触れようとしていたことを後悔し、そっと手を下ろすと「心配をかけてすまない」と謝る声がした。
「痛そうだったから……大丈夫なの?」
手を引っ込めて尋ねると、頷いた蒼司は左目からそっと手を退けた。ずいぶん充血していて、やっぱり痛そうだ。
「……浄化? あ、さっきの呪文! なんとかきゅうきゅう……?」
「六根清浄、急急如律令──今すぐ身体を清めよといった意味だ」
やっぱり、あれも陰陽術だったんだ。アニメとかで見たような感じだったな。
感心しながら聞いていると、蒼司は懐にしまっておいた手紙を出した。
「触って、大丈夫なの?」
「心配するな。もう効果は失われている。凛……この和歌を読んだのだろう?」
「ええ、意味はよくわからなかったけど」
広げられた手紙に恐る恐る視線を向けると、ちょうど「郭公」の部分が焦げて抜け落ちていた。
「凛が月の巫女であったがゆえ、術は発動しなかったのだろう」
「……どういうこと?」
「これは和歌を読み上げると、狐火が上がり、毒が煙となって体に入る仕組みだと考えられる。凛は月に遣わされた者だから、下界の呪いが届かなかったのだろう」
「届かなかった……」
いわれて指を見た。確かに、なんだか静電気みたいなものを感じたし、身体が拒絶していたようだったな。もしかして、女神様がくれた耐性の影響なのかもしれない。
それにしても、まるで時限装置ね。まあ、私はあの煙を吸ったところで、たぶん問題ないんだろうけど。
「この手紙を確かめた人が読まなくて良かったね」
「東雲家で文の中身を検める者は、陰陽術に心得がある者だから、やたらに文の中身を音にはせん」
「なるほど……つまり、蒼司さんは罠だとわかって読んだってこと!?」
驚いて尋ねれば「当然だ」と返ってきた。驚きと同じくらい呆れてため息をつくと、蒼司は左目を覆う眼帯に指をかけた。
「蒼司さん?」
「術を使った者を探れるかもしれん」
露になったその左目は、白濁とした色を失ったものだった。もしかして、失明しているのかもと思ったけど、その瞳はラピスラズリのような濃紺色の右目と一緒に、焼け焦げた手紙へと向いている。
「慎みて我が眼に眠りし霊神に願い奉る」
部屋に響いた声は、まるで水面に落ちた水滴が波紋を広げるよう静かに、だけど確かな音となって私の耳に触れた。
「札に刻まれし縁を示したまえ」
音が重なるような錯覚に目眩を覚えた。すると、不思議と、手紙から文字が浮かび上がった。
幻想的な光景に呆然としていると、文字が一瞬赤くなる。だけど次の瞬間には、輝きを失って紙へと戻っていった。
かさっと音とともに手紙が板の間へと落ち、低いうめき声がした。
「……蒼司、さん?」
「なるほど。私を知る者の仕業か……」
苦しそうな表情で呟く蒼司は深く息を吸い、その左目を抑えていた。
なにが起きたのか、わからない。だけど、痛そうにいているのは伝わってくる。
「目が痛いの?」
心配になって手を伸ばすと、蒼司は私の手から逃れるように少し身を引いた。
私を見る驚いた目に、ほんの少し心が痛む。拒絶ではないけど、そこに壁を感じてしまった。
ああ、失敗した。
そうだよね。いくら仮初めの夫婦だからって、そんな簡単に触れたりしたらダメだよね。
無意識に触れようとしていたことを後悔し、そっと手を下ろすと「心配をかけてすまない」と謝る声がした。
「痛そうだったから……大丈夫なの?」
手を引っ込めて尋ねると、頷いた蒼司は左目からそっと手を退けた。ずいぶん充血していて、やっぱり痛そうだ。

