「これには呪詛が込められている」
「……呪詛?」
女中を下がらせた蒼司は、畳の上から手紙を拾い上げた。
聞きなれない言葉に背筋が寒くなる。
「夏山になく郭公、心あらば物思ふ我に声なきかせそ……」
低い声が空気を震わせた瞬間、その手にあった手紙が青い火を灯した。驚いてとっさに「蒼司さん!?」と声を上げたが、彼は表情を変えずそれを握り込んだ。
焦げとは違う臭いが立ち上がる。それは気分が悪くなりそうなほどの異臭を放った。
口元を着物の袖で押さえ、蒼司へ視線を向けると、そこには焦ることなく佇む姿があった。
薄い唇が静かに唱え、私の焦りを晴らすように涼やかな声が響いた。
「六根清浄、急急如律令」
まるでドラマやアニメの中のように、蒼司の髪がふわりと揺れ、手に握られた手紙から銀色に輝く光が立ち上がった。
銀の光が、青い火を飲み込むように包み込んでいく。そのまま輝きが強まり、青い火はついに跡形もなく消えた。すると不思議なことに、辺りから異臭までもが消え去った。
なにが起きたのか。呆然としながら蒼司の手を見ていたが、ハッとしてその手を掴んだ。
「──手!」
「どうした……?」
「ど、どうしたって、さっき火を掴んでたじゃない。火傷を……あれ?」
手紙を奪い取って見た掌には、火傷の跡どころか赤み一つなかった。代わりに、焼け焦げた手紙の欠片がいくつか残っている。
「やはり、凛は月の加護をもらった巫女なんだな」
私の手をそっと離した蒼司は、少し安堵するように笑った。
「……急に、なに?」
「火といったではないか。狐火が見えたのだろう?」
「きつね、び?」
問い返す私に蒼司は頷き、焼け焦げて畳に落ちた欠片を拾い上げる。それを手紙に挟んで畳むと、懐に差し込んだ。
「火種のないところに現れる青い火をそう呼ぶ」
「……もしかして、お墓に現れたりする、とか?」
ぞっとして肩を強張らせると、さらっと「そうだな」と軽い答えが返ってきた。
まったく身近になかった超常現象を目の当たりにするなんて。凄い、ラッキーだなんて思えるほど、私はオカルト好きな訳でもない。むしろ、怖いんだけど。
怯えながら「呪われるの?」と訊くと、蒼司は「問題ない」とはっきり告げた。
蒼司に手を引かれ、縁側へと出た。
板の間に腰を下ろして庭を眺め、梅雨空のしっとりとした空気を吸い込む。そうすると、胸の内がほんの少しだけ落ち着いた。
「この文は、蠱毒をまぜた墨で書かれている。その術が発動したようだ」
「こどく?」
聞きなれない言葉が続き、緊張感の漂うこの場に合わない声で訊き返してしまった。
きょとんとした顔をしていたのかもしれない。私を見た蒼司は少し驚いた顔をしたかと思えば、笑って「巫女でも知らぬか」と呟いた。
生憎、ハリボテ巫女なんでと内心呟くと、特に嫌がる素振りもなく説明してくれた。
「壺に様々な毒をもつ生き物を入れ、食わせ合わせる。そうして最後に残ったものが、最も強い毒となる。それを呪《まじな》いに使うのが、陰陽道にある術の一つだ」
生き物を食わせ合わせ──映像は想像したくないな。きっと地獄絵図だろうし、おぞましいものだってことはすぐに理解できた。
その毒が燃えたから変な匂いがしたのかと納得した直後、ちょっと待てと即座に思う。だって、私は毒の耐性を女神様にもらってるけど、蒼司さんは……
「ど、毒って、蒼司さん、大丈夫なの!?」
「……呪詛?」
女中を下がらせた蒼司は、畳の上から手紙を拾い上げた。
聞きなれない言葉に背筋が寒くなる。
「夏山になく郭公、心あらば物思ふ我に声なきかせそ……」
低い声が空気を震わせた瞬間、その手にあった手紙が青い火を灯した。驚いてとっさに「蒼司さん!?」と声を上げたが、彼は表情を変えずそれを握り込んだ。
焦げとは違う臭いが立ち上がる。それは気分が悪くなりそうなほどの異臭を放った。
口元を着物の袖で押さえ、蒼司へ視線を向けると、そこには焦ることなく佇む姿があった。
薄い唇が静かに唱え、私の焦りを晴らすように涼やかな声が響いた。
「六根清浄、急急如律令」
まるでドラマやアニメの中のように、蒼司の髪がふわりと揺れ、手に握られた手紙から銀色に輝く光が立ち上がった。
銀の光が、青い火を飲み込むように包み込んでいく。そのまま輝きが強まり、青い火はついに跡形もなく消えた。すると不思議なことに、辺りから異臭までもが消え去った。
なにが起きたのか。呆然としながら蒼司の手を見ていたが、ハッとしてその手を掴んだ。
「──手!」
「どうした……?」
「ど、どうしたって、さっき火を掴んでたじゃない。火傷を……あれ?」
手紙を奪い取って見た掌には、火傷の跡どころか赤み一つなかった。代わりに、焼け焦げた手紙の欠片がいくつか残っている。
「やはり、凛は月の加護をもらった巫女なんだな」
私の手をそっと離した蒼司は、少し安堵するように笑った。
「……急に、なに?」
「火といったではないか。狐火が見えたのだろう?」
「きつね、び?」
問い返す私に蒼司は頷き、焼け焦げて畳に落ちた欠片を拾い上げる。それを手紙に挟んで畳むと、懐に差し込んだ。
「火種のないところに現れる青い火をそう呼ぶ」
「……もしかして、お墓に現れたりする、とか?」
ぞっとして肩を強張らせると、さらっと「そうだな」と軽い答えが返ってきた。
まったく身近になかった超常現象を目の当たりにするなんて。凄い、ラッキーだなんて思えるほど、私はオカルト好きな訳でもない。むしろ、怖いんだけど。
怯えながら「呪われるの?」と訊くと、蒼司は「問題ない」とはっきり告げた。
蒼司に手を引かれ、縁側へと出た。
板の間に腰を下ろして庭を眺め、梅雨空のしっとりとした空気を吸い込む。そうすると、胸の内がほんの少しだけ落ち着いた。
「この文は、蠱毒をまぜた墨で書かれている。その術が発動したようだ」
「こどく?」
聞きなれない言葉が続き、緊張感の漂うこの場に合わない声で訊き返してしまった。
きょとんとした顔をしていたのかもしれない。私を見た蒼司は少し驚いた顔をしたかと思えば、笑って「巫女でも知らぬか」と呟いた。
生憎、ハリボテ巫女なんでと内心呟くと、特に嫌がる素振りもなく説明してくれた。
「壺に様々な毒をもつ生き物を入れ、食わせ合わせる。そうして最後に残ったものが、最も強い毒となる。それを呪《まじな》いに使うのが、陰陽道にある術の一つだ」
生き物を食わせ合わせ──映像は想像したくないな。きっと地獄絵図だろうし、おぞましいものだってことはすぐに理解できた。
その毒が燃えたから変な匂いがしたのかと納得した直後、ちょっと待てと即座に思う。だって、私は毒の耐性を女神様にもらってるけど、蒼司さんは……
「ど、毒って、蒼司さん、大丈夫なの!?」

