月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 それなら、今、目の前にいる彼らも武士……でも髪型が、頭頂部を剃る月代(さかやき)スタイルではない。父親は(まげ)こそ結っているけど、幕末に増えた前髪を剃らない総髪スタイルだ。青年にいたっては長い黒髪を後ろで束ねただけだし。
 しげしげと観察をしていると、床に膝をつく父親が頭を下げた。

「ご挨拶が遅れました。私は東雲玄嗣(しののめげんし)と申します。その者は(せがれ)蒼司(そうじ)。私どもは将軍家の陰陽師にございます」
「……玄嗣さんと蒼司さん、ですね。私は凛、月宮凛です」
「お名前をお聞かせいただき、ありがとうございます」

 武士だと思っていたら、陰陽師だったなんて。
 そういえば、陰陽寮って明治に入るまではあったのよね。どうしても、平安時代のイメージが強いんだけど。

 あらためて二人の装束を見ると、なるほどと思えた。アニメやマンガに出てくる安倍晴明を彷彿とさせる姿だ。ますます、この世界が異世界なんだなと感じる。もしかして、私、妖と戦えとかいわれるんじゃないわよね。
 ぬらりひょんとか玉藻の前が出てきても、どうしようもないと思うんだけど。

 不躾に二人を見ていたのをどう感じたのか「色々と不安でしょう」と、青年──蒼司が気遣うように声をかけてきた。

「あの……私のことを巫女と呼んでましたが……その、私、急に巫女になれといわれても、元々、ただの学生でして」

 学生っていって通じるのかな。元々巫女ではないって、わかってもらえたらいいのだけど。
 控えめな声でいったものの、再び顔を見合わせた二人はすぐに私へと視線を向けてニコリと笑った。

「ご心配には及びません。巫女様にはご不便のないように、お世話をさせて頂きますゆえ」
「お、お世話だなんて、そんな大袈裟な」
「いいえ、月の巫女様は将軍家の危機をお救いくださるお方。その御身にもしものことがあっては一大事にございます」
「……将軍家の、危機?」
「はい。将軍家の危機に月の巫女を呼ぶのが、月江戸陰陽寮の習わしにございます。そうして、遣わされたのが貴女様です」

 穏やかな口調でとんでもないことをいう父親を呆然と見ながら、女神様の輝く姿を思い出した。
 女神様、そういう大切なことはいっておいてよ!

 ちょっと荷物を持ってあげて、くらいの温度だったよね。将軍家の危機ってどういうこと。だいぶスケールが大きい手助けじゃない。私になにができるっていうのよ!?