「え、じゃありません! 毒を食らえば、その身が侵されるのですよ!」
「あぁ、まあ……でも、ほら、私は月の巫女だし、女神様の恩恵があるから──」
「その恩恵で死なないと断言できるのですか!?」
怒りの言葉に、そうだったと気づく。私が毒に耐性あるって、蒼司は知らないんだった。
「あ、あのね、その心配はないの。私、女神様に毒の耐性を貰っているから」
「……耐性?」
「そう。毒だけじゃなくて、身体に合わないものを食べても、浄化されるんだって。ほら、住んでいた世界と違うから、身体に合わないものでお腹壊して死なないようにって」
慌てて説明すると、蒼司は再び深く息を吸い込んだ。今度は険しい表情を緩めるようにして、もう一呼吸繰り返す。
「……怒鳴ってしまって、悪かった。だがな、凛」
眉間のしわを緩めた蒼司は、私に向き合うともう一度深く呼吸をする。
「そなたが苦しまぬ保証はないのだろう?」
「それは……わからないけど」
いわれて確かにと思う。耐性があっても、全く症状が出ないとは限らないのか。
体内で浄化ができるみたいな話だったけど、どのくらい時間がかかるものなんだろう。パパッと消えるなら、苦しみそうにもないけど。
初めて女神様に会った時を思い出しながら首を傾げていると、今度は深いため息が聞こえてきた。
「凛が苦しむようなとこを、見たくはない」
「……私だって苦しみたいわけじゃないけど、毒を盛られたら敵を捕まえやすいでしょ? いっそうのこと、女中として潜入──」
「あってはならぬ」
頑として譲らない蒼司に「だよね」と曖昧に笑って言葉を飲んだ。
私を餌にするの、いい案だと思うんだけど。蒼司と結婚する訳だから、大奥に入って女中として働くっていうのも無理があるのか。
未だ剣呑とした空気をまとう蒼司は、両膝の上で拳が白くなるほど手を握りしめている。
心配してくれてるんだよね。
「それじゃあ……私たちが毒に気付いてることをもう少し強く匂わせるのはどう?」
「匂わせる?」
訊き返す声が、ふっと軽くなった。怒っていた眼差しも緩み、握りしめられていた拳も解かれた。
胸の内で安堵しながら頷く。
「そう。もっと東雲家に目を向けさせるの。お義父様も、蒼司さんも立派な陰陽師でしょ。『敵になるのか』ってもっと強く圧をかけるのはどう?」
「……それでこちらに矛先を向けてくれればよいが」
落ち着きを取り戻した蒼司は、左の眼帯に触れながら庭へと視線を移した。
なにを見て考えているのか。もしかしたら、ここではないどこかを見ているのかも。
そう思わせるような真剣な眼差しの先へと、私も顔を向けた。
庭では、少し湿り気を帯びた風が吹き、紫陽花が満開を迎えている。
時折しとしとと降る雨は優しくて、現代では見ることがなくなった梅雨空が広がっている。まるで、絵に描いたような静かな昼下がりだ。
「蒼司さん、紫陽花に毒が含まれているのは知っていますか?」
「あぁ、まあ……でも、ほら、私は月の巫女だし、女神様の恩恵があるから──」
「その恩恵で死なないと断言できるのですか!?」
怒りの言葉に、そうだったと気づく。私が毒に耐性あるって、蒼司は知らないんだった。
「あ、あのね、その心配はないの。私、女神様に毒の耐性を貰っているから」
「……耐性?」
「そう。毒だけじゃなくて、身体に合わないものを食べても、浄化されるんだって。ほら、住んでいた世界と違うから、身体に合わないものでお腹壊して死なないようにって」
慌てて説明すると、蒼司は再び深く息を吸い込んだ。今度は険しい表情を緩めるようにして、もう一呼吸繰り返す。
「……怒鳴ってしまって、悪かった。だがな、凛」
眉間のしわを緩めた蒼司は、私に向き合うともう一度深く呼吸をする。
「そなたが苦しまぬ保証はないのだろう?」
「それは……わからないけど」
いわれて確かにと思う。耐性があっても、全く症状が出ないとは限らないのか。
体内で浄化ができるみたいな話だったけど、どのくらい時間がかかるものなんだろう。パパッと消えるなら、苦しみそうにもないけど。
初めて女神様に会った時を思い出しながら首を傾げていると、今度は深いため息が聞こえてきた。
「凛が苦しむようなとこを、見たくはない」
「……私だって苦しみたいわけじゃないけど、毒を盛られたら敵を捕まえやすいでしょ? いっそうのこと、女中として潜入──」
「あってはならぬ」
頑として譲らない蒼司に「だよね」と曖昧に笑って言葉を飲んだ。
私を餌にするの、いい案だと思うんだけど。蒼司と結婚する訳だから、大奥に入って女中として働くっていうのも無理があるのか。
未だ剣呑とした空気をまとう蒼司は、両膝の上で拳が白くなるほど手を握りしめている。
心配してくれてるんだよね。
「それじゃあ……私たちが毒に気付いてることをもう少し強く匂わせるのはどう?」
「匂わせる?」
訊き返す声が、ふっと軽くなった。怒っていた眼差しも緩み、握りしめられていた拳も解かれた。
胸の内で安堵しながら頷く。
「そう。もっと東雲家に目を向けさせるの。お義父様も、蒼司さんも立派な陰陽師でしょ。『敵になるのか』ってもっと強く圧をかけるのはどう?」
「……それでこちらに矛先を向けてくれればよいが」
落ち着きを取り戻した蒼司は、左の眼帯に触れながら庭へと視線を移した。
なにを見て考えているのか。もしかしたら、ここではないどこかを見ているのかも。
そう思わせるような真剣な眼差しの先へと、私も顔を向けた。
庭では、少し湿り気を帯びた風が吹き、紫陽花が満開を迎えている。
時折しとしとと降る雨は優しくて、現代では見ることがなくなった梅雨空が広がっている。まるで、絵に描いたような静かな昼下がりだ。
「蒼司さん、紫陽花に毒が含まれているのは知っていますか?」

