月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 本当かどうかはわからないけど、毎回添えられている和歌と、優しい文字の流れを見ていると、心穏やかでいることが想像できた。

 時を同じくして、清方様と頻繁に連絡を取っている義父から、大奥で特に騒ぎが起きていないとも聞かされた。

 梅雨が訪れたある日のこと。
 その日も、届いた新しい手紙を蒼司と読みながら、縁側でほっと安堵の息をついた。

「桜さんの体調も悪くないようですね」
「そうだな……清方様と父上が面会しているのを知って、警戒されたのか」

 桜の方から届いた新しい手紙を見ながら、蒼司は眉をひそめている。その横で、甘い練きりを黒文字で一口に切りながら手を止めた。

 今日のおやつに出された練きりは、青梅の形をしている。こうして季節を楽しむのは、江戸時代に通じるものがある。桜の方と交わす手紙も、季節の候から始まる。
 現代日本にはなかった季節を楽しむことが、月江戸でも日常に浸透しているのね。

 口に運んだ練きりを飲み込み、優しい甘みにほっと小さく息をついた。

「このまま悪いことが起きないといいんだけど」
「……それでは根本的解決にはならぬな」

 湯呑のお茶を啜る蒼司の横顔を見ると、小さなため息が聞こえた。

 最近、こうしてため息をつくのを見ることが増えた気がする。私にはいつも微笑んでくれるけど、抱えているものが多いのだろう。跡取り息子なわけだし、お姉さんとは仲が良さそうだし。きっと、心配がつきないのよね。
 気苦労の一つでも、なんとか解決してあげたいところだけど……膠着状態じゃ、どうすることもできないよね。

「どうにか、動かせないかな」
「動かす?」
「敵に警戒させておくのは、むしろ危険な気もして……こうしてる間に、他の手を考えてるかもしれないし」
「そうだな。膠着状態が長引けば、こちらに対抗する用意をさせる可能性は高いだろう」
「警戒して手を変える前に、大奥からこっちに敵意を向けさせられないかな」

 練きりの切り口を見ながら考えていると、蒼司は小さく唸った。その横で、練きりをもう一口運ぶ。甘い餡をゆっくりととかしながら、繰り返しどうしたら毒を持つ人物を引っ張りだせるか考えてみた。
 一番簡単なのは、現行犯よね。
 でも、桜の方が毒を盛られるまで待つわけにはいかない。そこに上手く遭遇できるとも限らないし。

 口に入れた練りきりを飲み込み、息をつく。

「私が毒を盛られれば簡単なのに」

 ぽつり呟くと、湯呑が縁側に叩きつけられた。まだ温かいお茶が飛び跳ね、板の間を点々と濡らした。
 驚いて顔を上げると、蒼司が険しい顔をしている。

「蒼司さん?」
「なにを仰られるのですか!」

 突然の怒声に言葉を失った。
 蒼司は怒ると丁寧な言葉になる人なのか──どうでもいいことを考えながら、眉間にしわを寄せる綺麗顔を見つめた。
 なんで怒っているのだろう。

 すぐに理解が及ばずきょとんとしていると、蒼司は深く息を吸い込んで項垂れるように肩を落とした。

「御身を大切にしてください」
「……え?」