月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 それからお粥を食べながら、手紙に何を書くか話した。
 今年もヒヨドリが巣作りをした。雛が育つのを楽しみにしている。そんな話を書くつもりだと聞き、しばらく庭のことを思い浮かべながら、あんかけ豆腐を口に運んだ。

「凛はなにを伝えたいのだ?」
「……大奥で、おかしなことはないか訊きたいんだけど」

 さすがに毒の噂話がないかと訊くのは物騒よね。
 首を傾げていると、湯呑の茶を啜った蒼司が「それは難しいかもな」といった。

「難しい?」
「大奥には、外へ情報を持ち出してはならぬ決まりがある」
「……それを破ったら、処罰とかあるんですか?」
「当然ある。こちらから送る便りも検分される。大奥から出されるものもな」

 さすが、将軍に近い場所なだけはある。──感心している場合じゃない。これじゃ、中に入って聞き出すのだって一苦労だし、毒が蔓延しているかもって忠告すらできないてことよね。

 箸をお膳に置いて、小さく肩を落とす。やっぱり、大奥に足を運び続けておかしな場所を見つけるしかないのかな。
 お膳をじっと見たまま考えていると、蒼司が「言葉遊びをするか」と呟いた。

「言葉遊び……狂歌ですか?」
「それでは短いな」
「短い?」
「そうだな……例えばだ。今年もヒヨドリが巣を作りに来たと書けば、庭のことを思うだろう。だが、言葉を変えて新たなヒヨドリが飛来した。梅の庭を迷う姿はなんと愛らしいことか──」

 私の目をじっと見ながら、蒼司はすらすらと語り始めた。

「──ヒヨドリを籠に閉じ込めては憐れだが、どうしたら守れるであろう。と書けば、凛のことを暗に伝えたと、姉上であれば気付けよう」

 紡がれた言葉が、私のことをいっていたと聞かされた瞬間、頬が熱くなった。
 それはまるで愛の言葉のようで、今まで付き合った男がいったどの「好きだ。愛している」よりも温かさが伝わってきた。

 蒼司が紡ぐ言葉の意味を考えると、胸が高鳴ってしまう。
 言葉遊びだって、いっていたじゃない。そこに、彼の本音はなくて、お洒落に言葉で遊んだだけなんだろうけど。
 胸の前で手を握りしめ、呼吸を整えた。 

「えっと……言葉に含みを持たせて、他のことを連想させるのね?」
「そういうことだ。直接危険を伝えずとも、姉上に注意するよう促すことはできるだろう」

 ぽっぽと熱くなる頬を手で押さえると、蒼司が目を細めて「言霊ともいうからな」と呟いた。

「姉上はきっと、凛の祈りを受け取って下さる」
「……はい」

 あなたの言葉が恥ずかしくて頬が熱いんですよ。とはいえず、口を閉ざして手紙の内容を考えるふりをした。

 蒼司の紡いだ言葉が本心だと、思ったらいけない。だって、まだ出会って数週間よ。そんな簡単に恋に落ちるなんて、ある訳がない。だけど、本心だと嬉しいと思う私もいる。
 勘違いしちゃダメだ。私は巫女。これは契約──

 そっと見た筆を取る蒼司の横顔は悔しいくらい綺麗で、静かな清流を思わせる。その川が荒れ狂うことはあるのだろうか。
 紡がれる言葉が本心だったら。そう考えている時点で、もう私は蒼司に心を奪われているのかもしれない。

 この日を境に、桜の方へ何度か手紙を出すことになった。その都度、丁寧な手紙が返ってきて、大奥はいつも通り穏やかな時間がすぎていると記されていた。