月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 やっと起きたって、私はそんなに朝寝坊したのだろうか。

「すみません、寝坊をしてしまったようで。あの、着替えをしたいのですが」
「なにをいっている! 今日は一日横になっていろ」

 少し語気を強めた蒼司は、私の横で腰を下ろすと髪に触れたきた。少し固い指先が乱れた横髪を撫でつける。

「で、でも、桜さんにお会いしに行かないと」
「無理をするでない。そなたは丸一日、目を覚まさなかったのだぞ」
「……え?」
「その息が止まるのではないかと心配であった」

 そっと私の頭を引き寄せ、腕の中に収めた蒼司は優しい手つきで髪を撫でる。

「慣れぬ地で、無理をさせたようだ。すまぬ」

 耳元で囁かれる声に、胸の奥が熱くなった。
 そのまま全てを委ねたら、もう布団から抜け出せなくなるんじゃないか。そう思えるくらい、優しい指先と声だ。
 甘えたら終わる。そんな気がして、蒼司の胸をぐっと押して顔を上げた。

「あ、あの、休ませてもらうかわりに……桜さんにお手紙を出す手伝いをしてくれない、かな?」
「姉上に?」
「会いに行けないなら、せめて手紙を……でもその、私、字がそんなに上手じゃないから……」

 恥ずかしさを堪えながら伝えると、驚いたような目が私をじっと見た。

「凛は慢心などせぬのだな」
「……え?」
「いや、なんでもない。文は私から出そう。そこに、凛からの言葉も寄せればいいだろう」

 文机を布団の横に寄せ、筆や(すずり)も用意しながら、蒼司は季節の便りを桜の方によく出していると教えてくれた。

「季節の便り?」
「この梅御殿は元々、祖母が使っていた離れで、私たちの遊び場だったので……姉上も、庭のことを思い出せば気も紛れるだろう」

 墨をすりながら、蒼司は表情に懐かしさを滲ませた。その横顔を眺めていると、襖の向こうから「薬茶と朝餉(あさげ)をお持ちしました」と声がかかる。

 朝餉と聞いた途端に、お腹がぐうっと鳴った。丸一日寝ていた胃も、すっかり目を覚ましたみたい。
 蒼司と視線が合い、とたんに恥ずかしくなった。
 優しい口元が緩み、手を止めた蒼司は襖の向こうへ「入れ」と声をかけた。

「凛は飯がまだだったな。文はその後でもよかろう」
「……ありがとうございます」

 恥ずかしさに頬が熱くなっていると、食事を持ってきた女中に「お顔のお色がようございます」といわれ、ますます火照ってしまった。