顔を上げ、女神様を真っすぐに見つめた。今、私が使える手をすべて使おう。
「……女神様、図々しいのは承知ですが、こう、もっと便利なスキルとか貰えないんですか?」
「だいぶ図々しい娘よの」
「そ、そうですが……今のままじゃ、私が毒を口にすることはほぼないと思うんです。丈夫な体はありがたいけど、これじゃ、もしもの時に桜さんを助けられません」
いっそうのこと、私が大奥に入れば簡単に片付いた問題なんじゃないかとさえ思う。
「そもそもですが! 転生するなら月の巫女になるよりも、どこぞの側室に生まれ変わらせれば、よかったんじゃないですか?」
「なかなかいうの。しかし、東雲家が求めるのは召喚に応じる巫女と決まっておる」
「そんなの無視したらいいじゃないですか」
「妾とて、無秩序に転生させている訳ではない。何事も理があるゆえの」
ふむと頷いた女神様は「全ては心次第」と呟くと、扇子をパチンと閉じた。
「……心?」
女神様の扇子の先が、私の胸をとんっと突いた。
ドクンッと鼓動が跳ね上がる。
胸の奥から熱が沸き起こるような感覚に喉を鳴らし、おもむろに女神様へと視線を移動した。
「そなたは我が巫女に選ばれし乙女。成せると思えば、願いは叶うものじゃ」
妖艶な笑みを浮かべた女神様が輝き始める。
白い世界がさらに真っ白になっていき、私は女神様の光に飲み込まれていった。
「どういう意味……女神様?」
眩さに目を凝らして女神様を探すと、頭の中に穏やかな声が「求めし物は心の中に」と響いた。
◇
ハッとして飛び起きると、部屋は清々しい光に満ちていた。
私は布団へと体を横たえていたし、窓からは陽射しが入り込んでいる。横を見れば、もう一組の布団は整然と畳まれていた。
「……朝?」
少し乱れた胸元を手繰り寄せて布団から出ようとした時、襖の向こうから「若奥様、失礼します」と声がした。返事をする間もなく襖が開き、そちらに視線を移すと、若い女中が驚いた顔をした。
「お目覚めになられたのですね! 今すぐ、若旦那様をお呼びいたします」
「え?……あ、あの──」
満面の笑みで女中は襖を閉じると、少し慌てたような足音が聞こえてきた。
蒼司を呼びに行く前に、着替えを手伝って欲しかったんだけどな。
布団から立ち上がろうとしたけど、どうにも足が重たい。まるで鉛でも入っているようだ。
そっと脹脛《ふくらはぎ》を触ってみると、だいぶ浮腫んでいるようだった。慣れない着物姿と草履で歩いたり、正座をする生活ですっかり体が疲れていたのかもしれない。
ひとまず、乱れた胸元を蒼司に見られるのは恥ずかしいし、なんとか襟の合わせだけでも直しておこう。
もたもたと胸元を整えていると、今度はバタバタと足音が聞こえてきた。いつも静かな梅御殿とは思えない様子に、なにがあったのかと思っていると、襖がぱんっと開け放たれた。
「──凛、やっと起きたのだな」
血相を変えた蒼司が、ほっと息をつく。
「……女神様、図々しいのは承知ですが、こう、もっと便利なスキルとか貰えないんですか?」
「だいぶ図々しい娘よの」
「そ、そうですが……今のままじゃ、私が毒を口にすることはほぼないと思うんです。丈夫な体はありがたいけど、これじゃ、もしもの時に桜さんを助けられません」
いっそうのこと、私が大奥に入れば簡単に片付いた問題なんじゃないかとさえ思う。
「そもそもですが! 転生するなら月の巫女になるよりも、どこぞの側室に生まれ変わらせれば、よかったんじゃないですか?」
「なかなかいうの。しかし、東雲家が求めるのは召喚に応じる巫女と決まっておる」
「そんなの無視したらいいじゃないですか」
「妾とて、無秩序に転生させている訳ではない。何事も理があるゆえの」
ふむと頷いた女神様は「全ては心次第」と呟くと、扇子をパチンと閉じた。
「……心?」
女神様の扇子の先が、私の胸をとんっと突いた。
ドクンッと鼓動が跳ね上がる。
胸の奥から熱が沸き起こるような感覚に喉を鳴らし、おもむろに女神様へと視線を移動した。
「そなたは我が巫女に選ばれし乙女。成せると思えば、願いは叶うものじゃ」
妖艶な笑みを浮かべた女神様が輝き始める。
白い世界がさらに真っ白になっていき、私は女神様の光に飲み込まれていった。
「どういう意味……女神様?」
眩さに目を凝らして女神様を探すと、頭の中に穏やかな声が「求めし物は心の中に」と響いた。
◇
ハッとして飛び起きると、部屋は清々しい光に満ちていた。
私は布団へと体を横たえていたし、窓からは陽射しが入り込んでいる。横を見れば、もう一組の布団は整然と畳まれていた。
「……朝?」
少し乱れた胸元を手繰り寄せて布団から出ようとした時、襖の向こうから「若奥様、失礼します」と声がした。返事をする間もなく襖が開き、そちらに視線を移すと、若い女中が驚いた顔をした。
「お目覚めになられたのですね! 今すぐ、若旦那様をお呼びいたします」
「え?……あ、あの──」
満面の笑みで女中は襖を閉じると、少し慌てたような足音が聞こえてきた。
蒼司を呼びに行く前に、着替えを手伝って欲しかったんだけどな。
布団から立ち上がろうとしたけど、どうにも足が重たい。まるで鉛でも入っているようだ。
そっと脹脛《ふくらはぎ》を触ってみると、だいぶ浮腫んでいるようだった。慣れない着物姿と草履で歩いたり、正座をする生活ですっかり体が疲れていたのかもしれない。
ひとまず、乱れた胸元を蒼司に見られるのは恥ずかしいし、なんとか襟の合わせだけでも直しておこう。
もたもたと胸元を整えていると、今度はバタバタと足音が聞こえてきた。いつも静かな梅御殿とは思えない様子に、なにがあったのかと思っていると、襖がぱんっと開け放たれた。
「──凛、やっと起きたのだな」
血相を変えた蒼司が、ほっと息をつく。

