「凛の故郷は、月江戸と似ているのか?」
私の話に興味を示した蒼司は、少し子どもっぽくも見えた。もしかしたら、彼は私が思うよりも好奇心が強い人なのかもしれない。なによりも、私のことを知ろうとする姿が、私の心を揺さぶった。
話していいのかな。私の話、聞いてくれるのかな。
「……私が生まれる何百年も前にあった江戸幕府が、月江戸にとても似てるの。その生活や文化と、私が生活していた時代はだいぶ違って、武士はいないしお城もほとんど残ってないけど」
しかも、江戸城の一部は皇居になっている、なんて話したら驚くかな。
「武士はいないのか。何百年……途方もない話だな」
「だから、今でも夢を見ている気分っていうか……」
いいかけて鼓動が早くなる。
真剣な眼差しを向ける蒼司に、あの夜、始まらずに終わった恋の相手が重なった。
路線バスのヘッドライトの中、自分の男運のなさを実感したじゃない。また、同じ思いをするつもり?
それに、もしかしたらここは、私が都合よく作り出した夢の中かもしれない。恋が叶ったら、夢が覚めて私は──
蒼司から視線をそらし、美しい庭へと顔を向ける。
「どうしたのだ、凛?」
「本当の私は……死の間際にいて夢を見てるのかも」
「死の間際?」
「……私、ここに来る前、バスに轢かれたの」
「ばす?」
「ああ、えっと……駕籠とか牛車よりももっと大きい乗り物で、人を何十人も運べるの。それに轢かれたから、夢が覚める時がきたら私は」
女神様の告げたもう一つの道、昇天という言葉が脳裏をよぎって、背筋が震えた。
自分で肩を抱くようにして縮こまると、肩に大きな手が置かれた。
何事かと思って横を見ると、辛そうに眉を潜めた蒼司と視線が合い、強い力で引き寄せられた。
温かい手に髪が撫で付けられ。
頬に触れる温もりから、規律正しい鼓動が聞こえてきた。
「怖い思いをしたのだな」
優しい声に胸が苦しくなった。
だけど、実際のところどうだったんだろう。直前のショックもあって、頭の中が真っ白だったからな。恐怖よりも、自分の運のなさを恨んでいた気がする。
「心配することはない。ここは夢の中ではない。現実だ」
「現実……」
「凛、もう大丈夫だ。これからは、私がそなたを守ろう」
優しい言葉に胸が痛んだ。
蒼司の優しさに甘えたらどんなに楽だろう。一瞬そう思ったけど、私って本当に頑固みたい。
恋愛結婚にこだわり過ぎてるのかな。それとも、用意された恋愛へほいほい乗っかることに抵抗があるのか。
綺麗な顔を見上げると、心が痛む。
私じゃなくて、もっと素直で可愛い子が巫女だったら、蒼司も楽だっただろうな。
蒼司の胸をそっと押して距離をとると、微塵も気を悪くした様子でない彼は優しく微笑んだ。
「大奥で疲れたのだろう。さあ、座敷に戻り休もう」
手を引かれて縁側を進みながら、心の内で「本当に疲れた」と呟いた。
出会ってから一ヵ月と経っていないのに、もう半年ぐらい過ごしたような気分だ。
ああ、こうなると女神様はわかっていたから、私に丈夫な体を与えたのかもしれない。毒じゃなくても、こんなに疲れていたら、食べ物に当たりそうだもの。
私の話に興味を示した蒼司は、少し子どもっぽくも見えた。もしかしたら、彼は私が思うよりも好奇心が強い人なのかもしれない。なによりも、私のことを知ろうとする姿が、私の心を揺さぶった。
話していいのかな。私の話、聞いてくれるのかな。
「……私が生まれる何百年も前にあった江戸幕府が、月江戸にとても似てるの。その生活や文化と、私が生活していた時代はだいぶ違って、武士はいないしお城もほとんど残ってないけど」
しかも、江戸城の一部は皇居になっている、なんて話したら驚くかな。
「武士はいないのか。何百年……途方もない話だな」
「だから、今でも夢を見ている気分っていうか……」
いいかけて鼓動が早くなる。
真剣な眼差しを向ける蒼司に、あの夜、始まらずに終わった恋の相手が重なった。
路線バスのヘッドライトの中、自分の男運のなさを実感したじゃない。また、同じ思いをするつもり?
それに、もしかしたらここは、私が都合よく作り出した夢の中かもしれない。恋が叶ったら、夢が覚めて私は──
蒼司から視線をそらし、美しい庭へと顔を向ける。
「どうしたのだ、凛?」
「本当の私は……死の間際にいて夢を見てるのかも」
「死の間際?」
「……私、ここに来る前、バスに轢かれたの」
「ばす?」
「ああ、えっと……駕籠とか牛車よりももっと大きい乗り物で、人を何十人も運べるの。それに轢かれたから、夢が覚める時がきたら私は」
女神様の告げたもう一つの道、昇天という言葉が脳裏をよぎって、背筋が震えた。
自分で肩を抱くようにして縮こまると、肩に大きな手が置かれた。
何事かと思って横を見ると、辛そうに眉を潜めた蒼司と視線が合い、強い力で引き寄せられた。
温かい手に髪が撫で付けられ。
頬に触れる温もりから、規律正しい鼓動が聞こえてきた。
「怖い思いをしたのだな」
優しい声に胸が苦しくなった。
だけど、実際のところどうだったんだろう。直前のショックもあって、頭の中が真っ白だったからな。恐怖よりも、自分の運のなさを恨んでいた気がする。
「心配することはない。ここは夢の中ではない。現実だ」
「現実……」
「凛、もう大丈夫だ。これからは、私がそなたを守ろう」
優しい言葉に胸が痛んだ。
蒼司の優しさに甘えたらどんなに楽だろう。一瞬そう思ったけど、私って本当に頑固みたい。
恋愛結婚にこだわり過ぎてるのかな。それとも、用意された恋愛へほいほい乗っかることに抵抗があるのか。
綺麗な顔を見上げると、心が痛む。
私じゃなくて、もっと素直で可愛い子が巫女だったら、蒼司も楽だっただろうな。
蒼司の胸をそっと押して距離をとると、微塵も気を悪くした様子でない彼は優しく微笑んだ。
「大奥で疲れたのだろう。さあ、座敷に戻り休もう」
手を引かれて縁側を進みながら、心の内で「本当に疲れた」と呟いた。
出会ってから一ヵ月と経っていないのに、もう半年ぐらい過ごしたような気分だ。
ああ、こうなると女神様はわかっていたから、私に丈夫な体を与えたのかもしれない。毒じゃなくても、こんなに疲れていたら、食べ物に当たりそうだもの。

