月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 ふと、ひんやりとした石のような感触がした。
 恐る恐る目を開けると、私は磨かれた黒い石の上に寝ていた。この石って、お墓に使われる御影石よね。
 異世界転生って、お墓からスタートするものなの?──ぞっとして、飛び起きると「お目覚めですか」と真っ直ぐな声が静寂を震わせた。

「お待ちしておりました、巫女様」

 かけられた声は少し低いけど耳触りのいい声だった。
 よかった。まさかの墓から脱出と思ったけど、そうじゃなかったみたい。

 胸を撫で下ろして声がした方を振り返ると、神主さんのような斎服を着た青年がいた。左目には黒い眼帯をかけている。右目は切れ長の瞳で、薄暗い明かりを反射して不思議な光を放っている。まるで星空のようなラピスラズリを思わせる美しい瞳だ。
 あまりのイケメンぶりに、驚いて硬直していると、青年は少し眉をひそめた。

「ご気分が優れませんか?」
「まだ、巫女殿は意識がはっきりしないご様子か?」
「父上……そのようです」

 別の声がして、同じような斎服を着た年上の男性が近づいてきた。父上ってことは、このイケメンのお父さんよね。ああ、確かによく似たイケオジだわ。

 二人ともとても親近感を感じる日本人らしい顔つきをしている。異世界って聞いてたから、金髪碧眼の貴族や騎士が出てくると思ってたけど──ぼんやりしていると、イケオジが私の前に膝をついた。

「月の巫女様、此度(こたび)は我らの呼びかけに応じいただき、至極恐悦に存じます」

 ぼんやり考えていて、ハッとした。
 そうだった。女神様が、巫女を呼び寄せる人に手を貸すよういってたじゃない。
 おずおずと「あ、あの」と声を出すと、青年が少し目を見開いた。

「言葉は通じるようですな」
「え、ええ……ここは、どこですか?」

 とりあえず言葉が通じるなら、説明をちゃんとしてもらわないと。
 胸の前で手を握りしめていると、驚いた親子が一度顔を見合った。それからイケオジが静かに告げる。

「ここは藤堂将軍が治める月江戸幕府にございます」
「月、江戸? 藤堂……?」

 一瞬、脳裏に日本史の教科書がよぎった。私が知る江戸幕府は徳川家が治めたものだし、藤堂家っていったら、豊臣秀吉に仕えていた藤堂高虎くらいしか出てこないんだけど……月江戸?
 そういえば、女神様もそんなようなこと、いっていたような気がする。ここって、江戸っぽい異世界ってことかしら。