月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 そういえば、私が巫女だと桜の方も知っているんだった。東雲家の娘ってことは、巫女を召喚した意味だって知っているのかもしれない。
 だとしても、大奥内に不穏な動きがありますなんて、ストレートに訊く訳にはいかないか。さてどうしよう。

 まずは、大奥に頻繁に出入りする理由が欲しいところだ。
 戸惑ってもじもじする素振りをしながら、傍に控える女中たちを盗み見た。どの人も穏やかそうな美人さんばかりだ。でも、この中に毒を持ち込んでいる女中がいるかもしれないのよね。
 桜の方が気づかないようにして近づいている可能性だってある。

 やっぱり、堂々と不穏な動きがあるなんて口にするのは危険だ。となれば、まずは仲を深めるのが上策。
 ここは女ばかりだとすると……近づく話題は、恋の相談あたりが妥当かな。
 
「義姉上様……その、将軍様はお優しいですか?」
「ええ、いつも私の体調を気遣って下さるわ。でも、どうして?」
「それは……」

 言い出しにくい素振りを見せて、小袖の端を少し握って言葉を濁す。
 話題が大奥内のことに及ぶのを気にしたのか、女中たちの視線が私に集中した。それは好機の眼差しか、それとも警戒なのか。

「あの……お恥ずかしい話、蒼司さんと親しくなるには、どうしたらよいか……夫婦(めおと)というのが、よくわからないと申しますか」

 恥じらう乙女のように俯いて声を小さくすると、桜の方だけではなく、女中からも「まあ」と驚く声が聞こえた。

「お母上は、お教えにならなかったのですか?」
「母は……両親は、とても仲のよい夫婦です。その、好きな人だから幸せだと申してました。でも、私は蒼司さんと会ったばかりですし……」
「突然、婚姻が決まったのでしたね。それは不安でしょう」
「なので、将軍様との間に姫を授かった義姉上様に、殿方をお慕いするのはどうすればよいか、お教えいただきたく……。大奥に入られて、将軍様からご寵愛を賜るのに、どういった努力をされたのでしょうか?」

 聞き出したいのは大奥内のことだけど、将軍様の足が遠のいているって話も気になるところだ。
 この相談が、そこに繋がるといいのだけど。

 半分本音を混ぜて尋ねると、桜の方は驚きに目を見開いた。そうして、少し考えるような素振りを見せ、膝に座らせた彩葉姫の髪を撫でながら「そうね」と呟く。

「私は元々、御右筆(おゆうひつ)として清方様のお手伝いをしていたの」
「御右筆……書状などを書かれるお勤めですね。義姉上様の書は美しいのでしょうね」
「ふふっ、ありがとう。私は上様や御台所様のお付きではなかったけど、清方様と親しくしていたおかげで、見初めていただけたのよ」

 桜さんが懐かしむように微笑むと、女中の一人が「将軍様と和歌のご趣味も合いますのよ」と会話に入ってきた。