月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 月江戸に来る前は、時代劇を観ることもあったし、大奥を題材にした作品を読むこともあった。
 現代日本ではあり得ない未知の世界で成り上がるなんて、現代っ子な私には絶対無理だ。だからこそ、興味を引かれたのかもしれない。

 本丸にある絢爛豪華な男性禁制の大奥。その圧巻の姿を前にして、出るのは感嘆のため息ばかりだ。

 まさか立ち入れる日が来るとは。
 まあ、ここは月江戸であって、私の知っている江戸時代ではないのだけど。

 色彩豊かな襖絵には金箔銀箔が惜しげもなく使われている。これを汚したり壊したら弁償は難しそうだなんて、庶民的なことをつい考えてしまう。そうして進む廊下は、不思議と落ち着く上質な香りで満たされていた。お香だろうか。
 すれ違う女中の華やかさに息を飲むばかりで、私は場違いな気がしてくる。

 月江戸が異世界だからか、はたまた将軍様の好みが反映しているからか、すれ違うどの女中もアイドル並みに顔面偏差値が高い。
 眼福といえる女の園だけど、なんだか突き刺さる視線が痛いな。もしかして、新しい女中だと思われているのかな。

 月江戸の大奥も、将軍の寵愛を勝ち取ろうと骨肉の争いが繰り広げられるのかもしれない。──契約結婚が蒼司とでよかった。もしも、大奥に入れとかいわれたら、逃亡するしかなかったわ。

 通された座敷で待っていたのは、美しい梅の打掛を羽織った儚げな美女だった。

「桜にございます。お会いできて嬉しゅうございます」

 袖から見える白い指は、今にも折れてしまいそうなほど細い。
 病弱だと聞いてはいたけど、本当に風が吹いたら倒れてしまいそうだ。だけど、透き通るような美しさで、将軍様が放っておかないのも頷ける。

「はじめまして、凛です」
「──蒼司は元気ですか? 凛殿に辛く当たったりしておりませんか?」

 目を細めて微笑む表情に、蒼司の顔が重なった。やっぱり姉弟なんだと思うと、少しだけ緊張がほぐれた。

「親切にして頂いてます」
「そうなのですか? あの子は女心がわからないから、心配だわ」
「桜様の体調をとても心配しておりました」
「私の? いい加減、姉離れをして欲しいものですね」

 少し驚いた顔をした桜の方は、ふと視線を横にずらして襖を見ると口元を緩めた。

「ふふっ。私の可愛い姫、彩葉(いろは)を紹介しますね」
「……姫?」
「入っていらっしゃい」

 桜の方は優しく襖へ声をかけると、二歳くらいの女の子が顔を出した。小さな足でとてとてと歩み寄り、桜の方にぴっとりとくっつく姿は愛らしくて守ってあげたくなる。