「凛よりも、もっと幼い頃であったのにな 。そう思うたら、おかしくなってしまったという訳だ」
慈しむような眼差しを見ていたら、ふと幼い頃の記憶が蘇った。
初めて浴衣で行った夏祭り。
一人っ子だった私は両親と手を繋いで歩きながら、姉妹で走っていく子を見て「どうして私にはお姉ちゃんや妹がいないの」て訊いたことがあった。
兄弟姉妹が、ずっと羨ましかった。
「……私には兄弟がいなかったから、羨ましいな」
まだ痛む足の指を摩りながら視線を下げた。
風が吹き抜け、梅の枝を揺らしたのか。ざわざわと葉がこすれ合う音が聞こえてきた。それが遠い記憶に残る祭りのざわめきを思い起こさせる。
そうだ。あの夏祭りでも、同じように足の指を擦りむいたんだ。
お母さんは草履じゃなくてサンダルにしなさいっていったのに、カッコ悪いって意地を張って、草履を買ってもらったのよ。でも、やっぱり鼻緒が擦れて足が痛くなって「歩きたくない」って泣いてワガママをいって。そんな私を、お父さんはおんぶしてくれたんだ。
りんご飴を買ってもらって、お父さんの大きな背中から見上げた打ち上げ花火を見た。大きな炸裂音に驚きながらも、全然不安じゃなかった。
次々に幼い思い出が浮かんできて、じわりと涙がにじんだ。
蒼司の昔話を聞いていたはずなのに。いつの間にか私の脳内は、両親のことでいっぱいになっていた。
膝を抱え、膨れ上がる悲しみを堪えるように「お父さん、お母さん」と呟くと、髪が撫でつけられた。
「国を思い出させてしまったか」
響いた低い声は、申し訳なさを滲ませる。
「……ご両親もさぞ寂しい思いをされていることだろう。すまぬ」
「謝られても……どうせ帰れないし」
ぽろりとついて出た言葉は、なんて意地が悪いのだろう。だけど、そんなことを気にする余裕もなく、悲しみを堪えるのに必死だった。
いつか、親とは死に別れるもの。それがほんのちょっと早まっただけ。私が先に死んじゃっただけ──考えれば考えるほど、私は一人ぼっちなんだって再確認をしてしまう。
ぐずぐずと鼻を鳴らしていると、ふわりと花の香りがした。
「凛、誠にすまぬことをした」
耳の側で蒼司の優しい声が響く。
縮こまっていた私の身体を全て覆うようにして、蒼司の両腕が包んでくれていた。
「……謝るくらいなら、私を、元の世界に帰して」
それが叶わないことも、わかっている。それでも、寂しさから逃げたいあまりに、そう願っていた。
肩を抱きしめる腕に力がこもり、花の香りをより傍に感じた。
「私が両親の分まで、そなたを慈しもう」
言葉と同じくらい優しい声が、耳に触れて胸を震わせた。
ともすれば孤独に気づいて落ちてしまいそうになるのが怖くて、必死に蒼司の袖を掴みながら顔を上げた。
綺麗な顔に夕方の柔らかな日が差し込み、ラピスラズリのような瞳が輝く。
今まで、こんなに真っすぐ私を見つめてくれた男の人はいない。どうして、そんなに揺らがない眼差しを向けてくれるの。
「会ったばかりなのに、どうして……私が、巫女だから?」
「……凛、そなたの国で婚姻がどういうものか知らないが、この月江戸では、決められた相手を慈しむのが当然のことだ」
「じゃあ……私じゃなくても、蒼司さんはその人を愛せるんですね」
また意地悪なことを訊いている。
こんな可愛げのない女を好きになってくれるわけ、ないよね。
「……そうかもしれない。だが、私の前に現れたのは他でもない、凛、そなただ」
どこまでも優しい蒼司は、私を抱きしめながら「私がそなたの支えとなる」といった。
慈しむような眼差しを見ていたら、ふと幼い頃の記憶が蘇った。
初めて浴衣で行った夏祭り。
一人っ子だった私は両親と手を繋いで歩きながら、姉妹で走っていく子を見て「どうして私にはお姉ちゃんや妹がいないの」て訊いたことがあった。
兄弟姉妹が、ずっと羨ましかった。
「……私には兄弟がいなかったから、羨ましいな」
まだ痛む足の指を摩りながら視線を下げた。
風が吹き抜け、梅の枝を揺らしたのか。ざわざわと葉がこすれ合う音が聞こえてきた。それが遠い記憶に残る祭りのざわめきを思い起こさせる。
そうだ。あの夏祭りでも、同じように足の指を擦りむいたんだ。
お母さんは草履じゃなくてサンダルにしなさいっていったのに、カッコ悪いって意地を張って、草履を買ってもらったのよ。でも、やっぱり鼻緒が擦れて足が痛くなって「歩きたくない」って泣いてワガママをいって。そんな私を、お父さんはおんぶしてくれたんだ。
りんご飴を買ってもらって、お父さんの大きな背中から見上げた打ち上げ花火を見た。大きな炸裂音に驚きながらも、全然不安じゃなかった。
次々に幼い思い出が浮かんできて、じわりと涙がにじんだ。
蒼司の昔話を聞いていたはずなのに。いつの間にか私の脳内は、両親のことでいっぱいになっていた。
膝を抱え、膨れ上がる悲しみを堪えるように「お父さん、お母さん」と呟くと、髪が撫でつけられた。
「国を思い出させてしまったか」
響いた低い声は、申し訳なさを滲ませる。
「……ご両親もさぞ寂しい思いをされていることだろう。すまぬ」
「謝られても……どうせ帰れないし」
ぽろりとついて出た言葉は、なんて意地が悪いのだろう。だけど、そんなことを気にする余裕もなく、悲しみを堪えるのに必死だった。
いつか、親とは死に別れるもの。それがほんのちょっと早まっただけ。私が先に死んじゃっただけ──考えれば考えるほど、私は一人ぼっちなんだって再確認をしてしまう。
ぐずぐずと鼻を鳴らしていると、ふわりと花の香りがした。
「凛、誠にすまぬことをした」
耳の側で蒼司の優しい声が響く。
縮こまっていた私の身体を全て覆うようにして、蒼司の両腕が包んでくれていた。
「……謝るくらいなら、私を、元の世界に帰して」
それが叶わないことも、わかっている。それでも、寂しさから逃げたいあまりに、そう願っていた。
肩を抱きしめる腕に力がこもり、花の香りをより傍に感じた。
「私が両親の分まで、そなたを慈しもう」
言葉と同じくらい優しい声が、耳に触れて胸を震わせた。
ともすれば孤独に気づいて落ちてしまいそうになるのが怖くて、必死に蒼司の袖を掴みながら顔を上げた。
綺麗な顔に夕方の柔らかな日が差し込み、ラピスラズリのような瞳が輝く。
今まで、こんなに真っすぐ私を見つめてくれた男の人はいない。どうして、そんなに揺らがない眼差しを向けてくれるの。
「会ったばかりなのに、どうして……私が、巫女だから?」
「……凛、そなたの国で婚姻がどういうものか知らないが、この月江戸では、決められた相手を慈しむのが当然のことだ」
「じゃあ……私じゃなくても、蒼司さんはその人を愛せるんですね」
また意地悪なことを訊いている。
こんな可愛げのない女を好きになってくれるわけ、ないよね。
「……そうかもしれない。だが、私の前に現れたのは他でもない、凛、そなただ」
どこまでも優しい蒼司は、私を抱きしめながら「私がそなたの支えとなる」といった。

