「──蒼司さんに追いつくのが大変なんです。もう少し気を遣って歩いてもいいと思います!」
出てきた言葉は、なんてワガママな言い分だろうか。いっておいて、恥ずかしさが募る。
慌てて蒼司から視線を逸らすと、女中が微笑ましいといわんばかりの顔になった。すると、彼は気を悪くするどころか、いっそう楽しそうに笑った。
「……そんなに、おかしいですか?」
「いや、すまぬ。昔、姉上にもそう叱られたことがあってな」
「お姉さん……桜さんにですか?」
ふと興味が湧いて蒼司を振り返ると、優しく微笑む瞳と視線が重なった。
蒼司が縁側の向こうを指差し、釣られるようにそちらを見た。
「幼い頃、姉上と梅の木に登ったことがある」
「梅御殿っていわれる由来の、梅の木に?」
眺めた庭では、梅の木が青々とした枝葉を広げていた。
青々とした枝葉を広げる梅の木は、幹も立派で古木といっていいほど大きい。背丈は低いから子どもでも登れそうだけど、着物姿の女の子が登るのは少し大変だろう。桜の方って、意外と度胸があったんだな。
ただ驚いて梅の木を眺めていると、蒼司が「七つくらいだったか」と懐かしむようにいった。
梅の木に向けられる彼の目には、木に登る幼い姉弟の姿が映っているのかもしれない。
「あれ? 桜さんって身体が弱いんじゃ……」
「ああ、父上に見つかって叱られた。あの時は、縁側で寂しそうに空を眺める姉上を見たら、もっと高いところで見せてやりたくなってな」
「それで木に登ったの?」
「少しでも高いところに行けば空へ届くと、幼いなりに考えたんだ」
懐かしそうに語る顔が、なんだか少しだけ幼く見えた。
「私が登るのを見て、姉上は『少しは気を遣いなさい』と怒ってな。それでもついてきて、木の上から空を見た時は……嬉しそうに笑っていた」
昔話にじっと耳を傾けながら、梅の木を眺めていると、蒼司の話す声がぴたりと止まった。なにか思うことがあったのだろうか。幼い頃を思い出しているのかもしれない。
わずかな沈黙が気になって様子を窺おうと、そっと視線を巡らせたら、蒼司と目が合った。庭を眺めているとばかり思っていたのに、彼はいつの間にか私を見つめていた。
細められる瞳は優しい。まるで小鳥を慈しむような眼差しだ。その意味がわからず、言葉を返せずにいると、薄い唇が弧を描いて「どうして思い出したのだろうな」と呟いた。
出てきた言葉は、なんてワガママな言い分だろうか。いっておいて、恥ずかしさが募る。
慌てて蒼司から視線を逸らすと、女中が微笑ましいといわんばかりの顔になった。すると、彼は気を悪くするどころか、いっそう楽しそうに笑った。
「……そんなに、おかしいですか?」
「いや、すまぬ。昔、姉上にもそう叱られたことがあってな」
「お姉さん……桜さんにですか?」
ふと興味が湧いて蒼司を振り返ると、優しく微笑む瞳と視線が重なった。
蒼司が縁側の向こうを指差し、釣られるようにそちらを見た。
「幼い頃、姉上と梅の木に登ったことがある」
「梅御殿っていわれる由来の、梅の木に?」
眺めた庭では、梅の木が青々とした枝葉を広げていた。
青々とした枝葉を広げる梅の木は、幹も立派で古木といっていいほど大きい。背丈は低いから子どもでも登れそうだけど、着物姿の女の子が登るのは少し大変だろう。桜の方って、意外と度胸があったんだな。
ただ驚いて梅の木を眺めていると、蒼司が「七つくらいだったか」と懐かしむようにいった。
梅の木に向けられる彼の目には、木に登る幼い姉弟の姿が映っているのかもしれない。
「あれ? 桜さんって身体が弱いんじゃ……」
「ああ、父上に見つかって叱られた。あの時は、縁側で寂しそうに空を眺める姉上を見たら、もっと高いところで見せてやりたくなってな」
「それで木に登ったの?」
「少しでも高いところに行けば空へ届くと、幼いなりに考えたんだ」
懐かしそうに語る顔が、なんだか少しだけ幼く見えた。
「私が登るのを見て、姉上は『少しは気を遣いなさい』と怒ってな。それでもついてきて、木の上から空を見た時は……嬉しそうに笑っていた」
昔話にじっと耳を傾けながら、梅の木を眺めていると、蒼司の話す声がぴたりと止まった。なにか思うことがあったのだろうか。幼い頃を思い出しているのかもしれない。
わずかな沈黙が気になって様子を窺おうと、そっと視線を巡らせたら、蒼司と目が合った。庭を眺めているとばかり思っていたのに、彼はいつの間にか私を見つめていた。
細められる瞳は優しい。まるで小鳥を慈しむような眼差しだ。その意味がわからず、言葉を返せずにいると、薄い唇が弧を描いて「どうして思い出したのだろうな」と呟いた。

