月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 心音が聞こえているんじゃないかと心配して身を固くすると、肩に感じる手のぬくもりを意識してしまった。
 手を繋いで寝た初めての晩が、脳裏をよぎる。

 出会った日から、蒼司は私に優しい。どうして、ここまで親切にしてくれるのか。

 私に、好きになってもらう努力をする、みたいなこともいっていた。巫女様が不快に思わないよう努力する的な、お仕事モードなのかな。そう考えると、とたんに距離を感じてしまう。
 距離──まともな恋愛をしてこなかった私に、男性の、それも結婚相手との適切な距離は難しすぎる。

 縁側を進みながら庭へと視線を移し、座敷に下ろされるまで、ずっと悶々としていた。
 そんなに複雑に考えないで甘えちゃえばいい。そう囁きが聞こえたけど、それを受け入れるのはまだ勇気がなかった。

 座敷に辿り着くとすぐに、蒼司は畳に下ろした私の足袋を脱がした。

「あ、あの、蒼司さん──!?」
「暴れるでない」

 男性に足を持たれ、指の股をしげしげと見られるなんて羞恥プレイもいいところだ。
 もやもやと悩んでいたことが吹き飛び、代わりに羞恥心でいっぱいになる。

 私の足、変な形していないかな。足の爪、ちゃんと切っておけばよかった。汗かいたり変な匂いがしていないかな。
 恥ずかしさに顔を真っ赤にしていると、蒼司さんはほっと安堵のため息をついた。

「これくらいなら、すぐによくなる」

 なんと返していいかわからずに黙っていると、桶と手拭いを持ってきた女中が蒼司と入れ替わるようにして、擦り傷の手当てをしてくれた。

「若奥様、少し染みますがご辛抱ください」
「は、はい……ううっ」

 傷を拭われる痛みよりも、女中に足を拭かれることの方が恥ずかしくて、思わず小さく呻き声を零した。傷によく効くという軟膏を塗られる間、じっと身動きせずに我慢していると、小さな笑い声が聞こえてきた。
 振り返ると、微笑ましいものを見るような目で、蒼司が私を見ていた。

「歩く時も、そう(しと)やかにしておればよいのだ」
「……え?」
「凛は大股で歩くからな。鼻緒が指に食い込んで擦れたのだろう」

 子どもを見るような眼差しが、私の羞恥心を煽る。
 確かに、慣れない草履で指を怪我するって、この時代の淑女じゃあり得ないことだろう。でも、私は令和の時代を生きていたんだよ。草履なんて、七五三と成人式くらいしか履いたことないんだもの。慣れている訳ないじゃない。

 そう思ったら癪に障るわけで。なにか、言い返せることはないか必死に考えた。