月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 東雲家の前で停まった駕籠(かご)から降り、門をくぐった時だった。足がズキッと痛んだ。

「──痛っ」

 思わず立ち止まって小さく呻くと、前を歩いた蒼司が立ち止まった。振り返り、心配そうな表情を浮かべて近づく。

「どうした?」
「……その、慣れない履物で擦れたみたいで」

 痛みを感じるのは草履(ぞうり)の鼻緒が当たる親指と人差し指の間。絹の足袋(たび)を履いているといっても、二十一年間ほぼ靴の生活だった私にとって、草履はだいぶハードルの高い履物だったみたい。

 屋敷の玄関はもう見えているというのに、そこに辿り着くのがものすごく遠く感じる。いっそうのこと、草履を脱いで裸足で歩きたいくらいだ。
 もう一頑張りするしかないか。
 ため息をついて足元を見た時だった。

「私はそんなに頼りないか?」
「えっ──!?」

 蒼司の尋ねる声に顔を上げると、身体がふわりと浮いた。
 驚きすぎて、理解が追いつかずに息を飲んだ。
 目の前には綺麗な顔がある。視線が近すぎることに緊張が走った。
 抱き上げられている。そう気づくと、緊張はとたんに羞恥心へと変わっていく。だって俗にいう、お姫様抱っこ状態なんだもの。

 ま、待って。ここが江戸と似た世界だというなら、男女が並んで歩くことすら問題視されると思うんだけど。こんな堂々と接触していいの!?
 慌てた私が身じろぐと、涼しい瞳がこちらを見て「大人しくしていなさい」と(たしな)めるようにいった。

「そ、蒼司さん……あ、あのっ、人前でこのような姿を見せるのは」
「屋敷の敷地内だから気にすることはない。それより、擦り傷を侮るな」

 さらりと返す蒼司は大股でさっさと歩きだす。そのまま周囲を気にする様子もなく、玄関を上がると梅御殿へと向かった。
 私はといえば、視線を感じてさらに顔を上げられそうもない。

「……重くないですか?」
「凛は小さいからな。そう気にするような重さではない」

 いくら私の身長が一五四センチと低くても、痩せ型って訳じゃない。どちらかというと安産型でお尻だって小さくない。着物だって重さがあるし、長い付け毛もあるから体重は割増だろう。でも、蒼司はそんなことを感じさせない涼しい顔で歩いている。

 私の知っている江戸時代の男性と違って、蒼司の身長って高いんだよね。たぶん、一七五センチくらい。陰陽師っていってたけど刀も使うのか、腕も筋肉質でしっかりしてる。だから、こうして抱き上げられても安定感があって、ちっとも不安を感じない。
 不安はないけど、あまりの近さにドキドキと心拍数が上がっていく。