「巫女様が本物か試させていただきました」
「……試した?」
「はい。将軍家の危機に召喚の儀を執り行うのは習わしにございますが、巫女が召喚に応じなかったという記載もあります。とんだ失礼をいたしました」
つまり、私がここに現れるかどうかは、やってみないとわからなかった……てことよね。それってもしかして、巫女が現れたって嘘をついて適当な娘を連れて来ることも可能だったのでは──あ、そういうこと?
「もしかして、私がどこかの町娘じゃないかって疑ったんですか?」
そう尋ねてみると、清方様は悪びれる様子もなく微笑んだ。
「巫女様のおっしゃられたように、祈るだけで解決するのであれば、陰陽師や寺の僧にやらせればいいことにございます。考えもなしに『祈りましょう』などいうようでしたら、月へお帰り頂きました」
月にお帰り──つまり、この月江戸には必要ないってことよね。もしかして、斬られていたりして。考えたら、清方様の笑顔が恐ろしくなった。
「巫女様がお越しにならなくとも、この件は東雲家にご助力を頂くこととなっておりましたが、召喚にお応えくださりましたこと、心より御礼申し上げます」
再び頭を下げた清方様は、髪のひと房も乱さずに顔を上げて「さて」と呟いた。そうして次に告げた一言は、将軍家の危機に現実味を持たせるものだった。
「件の騒動は呪いなどではなく、毒によるものと私は疑っております」
「毒……それなら、毒を持ち込んでる人を探し出せばいいんですよね?」
「その通りでございます。私どもで調べたのですが、毒は巧妙に隠されている様子。発見には至っておりません」
愁いを帯びた清方様の瞳が薄く伏せられた。
大奥取締役って相当の権力者よね。将軍にお世継ぎができるよう、常に最善策を考えている。その為、唯一こうして大奥の外へ出て各方面と連携が取れる女性でもある。その分、背負うものも多いんだろうけど。
私のお母さんとそう歳も変わらなそうなのに──現代日本でいうところの、やり手女社長って感じなのかも。きっと、気苦労も絶えないのだろう。
お母さんが笑いながら「お帰りなさい」ってキッチンで出迎えてくれた日々が、脳裏をよぎった。
力になってあげた方がいいのかも。私にできること、あるのかな。
「……毒を見つけて欲しい、ってことですか?」
「左様にございます。幸いにも、凛様が月の巫女であられることを知る大奥の者は、私と東雲の姫──桜の方様だけにございます」
「桜の方様?」
「蒼司殿の姉君にございます」
蒼司にお姉さんがいるって話は、初耳だ。
驚いて蒼司を振り返ると、こくんと小さく頷かれた。
「……試した?」
「はい。将軍家の危機に召喚の儀を執り行うのは習わしにございますが、巫女が召喚に応じなかったという記載もあります。とんだ失礼をいたしました」
つまり、私がここに現れるかどうかは、やってみないとわからなかった……てことよね。それってもしかして、巫女が現れたって嘘をついて適当な娘を連れて来ることも可能だったのでは──あ、そういうこと?
「もしかして、私がどこかの町娘じゃないかって疑ったんですか?」
そう尋ねてみると、清方様は悪びれる様子もなく微笑んだ。
「巫女様のおっしゃられたように、祈るだけで解決するのであれば、陰陽師や寺の僧にやらせればいいことにございます。考えもなしに『祈りましょう』などいうようでしたら、月へお帰り頂きました」
月にお帰り──つまり、この月江戸には必要ないってことよね。もしかして、斬られていたりして。考えたら、清方様の笑顔が恐ろしくなった。
「巫女様がお越しにならなくとも、この件は東雲家にご助力を頂くこととなっておりましたが、召喚にお応えくださりましたこと、心より御礼申し上げます」
再び頭を下げた清方様は、髪のひと房も乱さずに顔を上げて「さて」と呟いた。そうして次に告げた一言は、将軍家の危機に現実味を持たせるものだった。
「件の騒動は呪いなどではなく、毒によるものと私は疑っております」
「毒……それなら、毒を持ち込んでる人を探し出せばいいんですよね?」
「その通りでございます。私どもで調べたのですが、毒は巧妙に隠されている様子。発見には至っておりません」
愁いを帯びた清方様の瞳が薄く伏せられた。
大奥取締役って相当の権力者よね。将軍にお世継ぎができるよう、常に最善策を考えている。その為、唯一こうして大奥の外へ出て各方面と連携が取れる女性でもある。その分、背負うものも多いんだろうけど。
私のお母さんとそう歳も変わらなそうなのに──現代日本でいうところの、やり手女社長って感じなのかも。きっと、気苦労も絶えないのだろう。
お母さんが笑いながら「お帰りなさい」ってキッチンで出迎えてくれた日々が、脳裏をよぎった。
力になってあげた方がいいのかも。私にできること、あるのかな。
「……毒を見つけて欲しい、ってことですか?」
「左様にございます。幸いにも、凛様が月の巫女であられることを知る大奥の者は、私と東雲の姫──桜の方様だけにございます」
「桜の方様?」
「蒼司殿の姉君にございます」
蒼司にお姉さんがいるって話は、初耳だ。
驚いて蒼司を振り返ると、こくんと小さく頷かれた。

