もしも満開だったら、きっと幻想的なトンネルになってるわ。次の春に見ることができたらいいな。
のんきなことを考えながら桜並木を越えると、階段を進んだ先に赤い橋が見えた。そこを渡り、内堀を越えた先にあるのが二の丸。ここに政務を行う部署もあるらしい。義父や蒼司も、日頃はお勤めしているのかもしれない。
赤く輝く銅板で装飾された堅牢な門を潜る。
すれ違う家紋入りの肩衣に袴姿の武士たちを見て、時代劇の撮影現場に紛れ込んだ気分というか、観光気分すら感じていた。
さらに進んだ城の中も、まるでドラマで見たような絢爛豪華なものだった。
緊張しながら進む廊下は草の香りが優しい畳張りで、すぐ横を見れば美しい花と雲が描かれた襖が並んでいる。
そうか、この時代って部屋がくっついていて、襖で仕切られていたのよね。壁で仕切られてない座敷が並んでいるのって、なんだか不思議だ。
物珍しさにきょろきょろしていると、蒼司が「凛、落ち着いて」と小さくいった。
もしかして、田舎者丸出しだったかな。恥ずかしくなって頬が熱くなると、優しく微笑まれた。
緊張しながら辿り着いた座敷で、美しい女性──大奥取締役の清方と対面した。
歴史ドラマに出てくるような絢爛豪華な碧い打掛を羽織った姿は、ピリッとした空気をまとっている。深く頭を下げて「お待ち申し上げておりました」と告げる所作は、格の違いが伝わるほど動きに無駄がない。
「清方殿、こちらが月の巫女様にございます」
義父に紹介され、慌てて頭を下げながら「凛です」と挨拶をすると、清方様が「頭を上げてください」と静かに告げた。顔を上げると、真っ直ぐに私を見る厳しい瞳があった。笑み一つない表情に、緊張が増すばかりだ。
本当に緊急事態なんだって、伝わってくる。
ドラマの撮影現場にいるような浮ついた気分が、一瞬で消え去った。
「早々に話へ入らせて頂いても、よろしいでしょうか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
空気の張りつめた中、静かな声がことの顛末について話し始めた。
問題の一つは、御台所──将軍の正室が御子を授からないことらしい。
お輿入れした時は十五歳だった。そのため、三年はご懐妊がなくても仕方ないことだと見守っていたそうだ。だけど、輿入れから五年経っても御子を授かる様子がない。それどころか、大奥の女房たちの間で流産が続いている。
のんきなことを考えながら桜並木を越えると、階段を進んだ先に赤い橋が見えた。そこを渡り、内堀を越えた先にあるのが二の丸。ここに政務を行う部署もあるらしい。義父や蒼司も、日頃はお勤めしているのかもしれない。
赤く輝く銅板で装飾された堅牢な門を潜る。
すれ違う家紋入りの肩衣に袴姿の武士たちを見て、時代劇の撮影現場に紛れ込んだ気分というか、観光気分すら感じていた。
さらに進んだ城の中も、まるでドラマで見たような絢爛豪華なものだった。
緊張しながら進む廊下は草の香りが優しい畳張りで、すぐ横を見れば美しい花と雲が描かれた襖が並んでいる。
そうか、この時代って部屋がくっついていて、襖で仕切られていたのよね。壁で仕切られてない座敷が並んでいるのって、なんだか不思議だ。
物珍しさにきょろきょろしていると、蒼司が「凛、落ち着いて」と小さくいった。
もしかして、田舎者丸出しだったかな。恥ずかしくなって頬が熱くなると、優しく微笑まれた。
緊張しながら辿り着いた座敷で、美しい女性──大奥取締役の清方と対面した。
歴史ドラマに出てくるような絢爛豪華な碧い打掛を羽織った姿は、ピリッとした空気をまとっている。深く頭を下げて「お待ち申し上げておりました」と告げる所作は、格の違いが伝わるほど動きに無駄がない。
「清方殿、こちらが月の巫女様にございます」
義父に紹介され、慌てて頭を下げながら「凛です」と挨拶をすると、清方様が「頭を上げてください」と静かに告げた。顔を上げると、真っ直ぐに私を見る厳しい瞳があった。笑み一つない表情に、緊張が増すばかりだ。
本当に緊急事態なんだって、伝わってくる。
ドラマの撮影現場にいるような浮ついた気分が、一瞬で消え去った。
「早々に話へ入らせて頂いても、よろしいでしょうか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
空気の張りつめた中、静かな声がことの顛末について話し始めた。
問題の一つは、御台所──将軍の正室が御子を授からないことらしい。
お輿入れした時は十五歳だった。そのため、三年はご懐妊がなくても仕方ないことだと見守っていたそうだ。だけど、輿入れから五年経っても御子を授かる様子がない。それどころか、大奥の女房たちの間で流産が続いている。

