月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 東雲家に来てから数日が過ぎた。
 すぐに大奥潜入が始まるのかと思いきや、東雲家の役割についてや月江戸のことを蒼司に教わる日がしばらく続いた。

 急を要するの状況とはいえ、ぼろが出てもいけないからと、話し言葉や歩き方まで徹底して教わる日々だった。結婚することを忘れるくらい勉強の日々で、少し楽しくなっちゃったくらいだ。
 それこそ、寝る直前まで蒼司は歴史の読み聞かせまでしてくれて、枕を並べながら毎晩わくわくした。

 驚くことに、その歴史のほとんどは私が知っている日本史に酷似していた。奈良とか平安時代もあったみたいだし、月江戸の前は戦国の世だったとか。
 異世界と思ってたけど、もしかしたら、どこかで歴史が変わった日本なのかも……そんな風に思うと、少しだけ近しいものを感じることができた。

 そうして日を重ね、大奥取締役である清方という女性に会うため月江戸城に向かったのは桜も散り、青葉が美しく輝く晴れた日だった。

 どんな女性なのだろう。歴史ドラマでいうところの、春日局とかお万の方よね。
 姿を思い描いてみるけど、手厳しい美魔女しか想像できない。

 取締役は大奥でもっとも権力があって、下手な大名よりも実権を握ってるなんていわれるけど、怖い人じゃないといいな。
 不安を少し抱きながら、私は蒼司の後ろについていった。

 月江戸城を囲う堀にはいくつもの橋がかけられている。その一つである菖蒲橋を越える時、ひらりひらりと桜の花びらが名残惜しげに降ってきた。
 まだ残ってたんだ。
 見上げると、石塀から青葉を生い茂らせる枝がわさりと垂れ下がっていた。その向こうには大きな松の木が見え、天守閣と思われるお城がいくつも見える。

 江戸城もそうだけど、敷地の中にいくつものお城があるものね。桜が満開の時期は、もっと圧巻の美しさだったろうな。

「蒼司さん、あれがお城ですか?」
「あちらは三の丸ですね。その向こうが二の丸。さらに奥に見えるのが本丸」

 いわれるがまま奥を見ると、三の丸なんて比じゃない荘厳な天守閣がそびえ立っている。真っ白な外観は、姫路城にだって負けない美しさだ。

 思わず感嘆の声をこぼしていると、口元を緩めた蒼司が「凛、口が開いているよ」といった。まるで、親戚の子どもを見て微笑んでいるような顔だ。
 そんなに子どもっぽい顔をしてお城を見ていたかな。恥ずかしく思いながら砂利道を進み、さらに門をくぐった先の景色に、私はさらに感嘆の声をあげた。

 どこまでも続きそうな桜並木が風に揺れる姿に息を飲んだ。