月の導きで眼帯の陰陽師と結婚させられました

 おかしそうに笑う蒼司を見ながら、脳裏に花魁の側にいる女児を思い浮かべた。確かに、禿と呼ばれる彼女たちだって、もう少し長かったと思うわ。
 女中たちが慌てた様子で「若様、口が過ぎます」と顔を青くする。でも、納得してしまった私もおかしくなって「確かに」なんて呟いたもんだから、女中たちは目を白黒させた。

 私を覗き込むようにして驚いた顔が鏡に映っている。その形のいい唇が緩まり、楽しそうに「そのままでよい」と繰り返すもんだから、女中たちは顔を青くして泡を吹きそうだ。
 さすがに、可哀想になってきたな。郷に入っては郷に従えっていうし。
 ちらりと、女中が持っている付け毛へと視線を向けた。

「あの……髷にしなければ、付け毛も試してみたいです」
「誠にございますか? では、おすべらかしで飾らせていただきます」

 おすべらかし?──脳裏に疑問符を浮かべながらも口を閉ざし、鏡の前で姿勢を正した。

 私の顔を見る女中たちの顔が輝き、いそいそと用意が始まる。
 丁寧に梳かれた髪に長い付け毛が施される。それを首のあたりでまとめて結い、後ろに垂らす。公家のお姫様がしているような髪型だ。

 背中に髪を滑らせて結ぶから、おすべらかしなのか。結構な長さだから充分に邪魔で重たいけど、頭の上で大きく結われる髷よりは歩きやすそうだ。

「若奥様の御髪はとても美しいですから、しばらくの辛抱にございますよ」

 年長そうな女中が、髪を丁寧に結びながらそういった。励ましてくれたのかしら。
 私の髪が短い理由を蒼司はどう伝えてるのか。ちょっと気になりながら「ありがとう」って返事をすると、女中は目に涙を浮かべて頷いた。
 自分の意思で髪を短く切ったなんていったら、卒倒しそうね。

 用意が整う頃、迎えが来た。
 慌てて立ち上がると、少し痺れていた足がいうことをきかず、よろけてしまった。それに、すかさず手を伸ばした蒼司が支えてくれる。
 意図せず寄り添う形になった私たちを見た玄嗣──義父は驚いた表情をする。

「凛様、見違えました」

 笑顔を浮かべ、私と蒼司を見る姿に、二度と会うことのない私の父が重なった。もしも、お父さんが私たちを見たら、同じように少し驚いたような、戸惑った顔をしたかもしれない。

「それでは、家の者たちを紹介しましょう」
「あ、あの、玄嗣さん……いいえ、お義父様」

 おずおずと声をかけると、義父はびっくりした顔をした。

「その……蒼司さんと結婚をするのですから、堅苦しい話し方はやめて頂けると、嬉しいです」
「だそうです、父上。私も昨晩、凛と呼んで欲しいと頼まれました」

 気持ちを察してくれた蒼司が、私の背を支えるように寄り添ったまま、後押しするような言葉を添えてくれた。
 義父は困惑した顔で「しかし」と呟いたが、女中の視線に気づいたのか、小さく息をついて「努力しよう」と笑ってくれた。

 それから、私は東雲家の人たちに紹介された。
 遠縁の娘で、京にある神職を務める一族の者ということになっているようだ。京都なんて、中学の修学旅行で行ったくらいなんだけど、大丈夫かな。京言葉なんて知らないし。
 祝言については、西と東では生活も違うことも多いから、早々と引っ越してもらって慣れた後に行う。という設定らしい。むちゃくちゃな……と思ったけど、案外、そろって納得してくれていた。

 いろいろな心配をよそに、東雲家の人たちは私を快く受け入れてくれた。もしかしたら、東雲家だから少し変なことも受け入れちゃう環境なのかも。
 なるほど、巫女を守るためか。

 それから、新しい着物をあつらえるために身体の採寸をしたり、反物を選んだりと目まぐるしく午前中が過ぎた。