◇
翌早朝、集まった女中たちの手により、美しい小袖を着せられた。桃色の生地には絢爛豪華な花や毬の刺繍が施されていて、着物なんて成人式にしか着たことがない私だって、高価なものだって十分わかる装束だ。
鏡の前に座るとお化粧をされ、髪を櫛でとかされ──鏡に映った女中たちが、困った顔をした。ああ、たぶん私の髪形をどうしようか考えているのね。
「かもじをお付けしてよろしいでしょうか?」
「……かもじ?」
「はい。付け毛にございます」
いわれて、ああと頷けた。
現代日本ではボブカットやショートカットはお洒落だけど、ここが私の知ってる江戸時代と似たここなら、このヘアースタイルはありえない、てことね。
切り揃えられた毛先を摘まみ、さてどうしたものかと思う。
エクステみたいな感じだといいんだけど、結婚式の和装みたいな島田髷だと重たそうだ。慣れない着物で重たいカツラをつけられたら、まっすぐに歩けないと思う。
「そのままでよいではないか」
声がした方を振り返ると、深い藍の狩衣に着替えた蒼司が立っていた。昨日見た斎服にも似ているけど、色の印象もあって、さらに落ち着いて見える。
朝日の下で見る整った容姿に、目は釘づけとなった。
左目を黒い眼帯で隠していても、その美しさは失われていない。こんなイケメンが本当に私の旦那様になるなんて……今でも、不思議な気分だ。
鏡に映る自分の顔をまじまじと見て、さてどうしたものかと考える。
短い私の髪を蒼司が「そのままでいい」というのに反して、女中たちは眉をひそめて困っている。きっと、彼女たちの反応が月江戸では自然なんだろう。とすれば、この髪型では蒼司に恥をかかせかねないってことよね。それは、お世話になってる身とすれば望ましくない。
改めて鏡を覗き込んだ。
丁寧に塗られた白粉に赤い唇。花魁みたいな濃い化粧じゃないけど、しっとりとした色白に仕上げられている。ピンク色をした綺麗な着物姿だけど、ぱっつんボブカットでは違和感が残る。
子どもっぽいというか、色気がないというか──一言でいうなら、残念な仕上がりというべきか。
「ですが、若様……このようなお姿で、屋敷の中を歩かれるのは……」
「私は気にしない 。それに、髪など時を重ねれば自然と伸びる」
腰を下ろした蒼司は鏡の中の私を見て「そうであろう?」と同意を求めた。
「そうですが……この長さは失礼なんですよね?」
「失礼というか、そう短いのは尼僧くらいであろうな。禿ですらもう少し長かろう」
翌早朝、集まった女中たちの手により、美しい小袖を着せられた。桃色の生地には絢爛豪華な花や毬の刺繍が施されていて、着物なんて成人式にしか着たことがない私だって、高価なものだって十分わかる装束だ。
鏡の前に座るとお化粧をされ、髪を櫛でとかされ──鏡に映った女中たちが、困った顔をした。ああ、たぶん私の髪形をどうしようか考えているのね。
「かもじをお付けしてよろしいでしょうか?」
「……かもじ?」
「はい。付け毛にございます」
いわれて、ああと頷けた。
現代日本ではボブカットやショートカットはお洒落だけど、ここが私の知ってる江戸時代と似たここなら、このヘアースタイルはありえない、てことね。
切り揃えられた毛先を摘まみ、さてどうしたものかと思う。
エクステみたいな感じだといいんだけど、結婚式の和装みたいな島田髷だと重たそうだ。慣れない着物で重たいカツラをつけられたら、まっすぐに歩けないと思う。
「そのままでよいではないか」
声がした方を振り返ると、深い藍の狩衣に着替えた蒼司が立っていた。昨日見た斎服にも似ているけど、色の印象もあって、さらに落ち着いて見える。
朝日の下で見る整った容姿に、目は釘づけとなった。
左目を黒い眼帯で隠していても、その美しさは失われていない。こんなイケメンが本当に私の旦那様になるなんて……今でも、不思議な気分だ。
鏡に映る自分の顔をまじまじと見て、さてどうしたものかと考える。
短い私の髪を蒼司が「そのままでいい」というのに反して、女中たちは眉をひそめて困っている。きっと、彼女たちの反応が月江戸では自然なんだろう。とすれば、この髪型では蒼司に恥をかかせかねないってことよね。それは、お世話になってる身とすれば望ましくない。
改めて鏡を覗き込んだ。
丁寧に塗られた白粉に赤い唇。花魁みたいな濃い化粧じゃないけど、しっとりとした色白に仕上げられている。ピンク色をした綺麗な着物姿だけど、ぱっつんボブカットでは違和感が残る。
子どもっぽいというか、色気がないというか──一言でいうなら、残念な仕上がりというべきか。
「ですが、若様……このようなお姿で、屋敷の中を歩かれるのは……」
「私は気にしない 。それに、髪など時を重ねれば自然と伸びる」
腰を下ろした蒼司は鏡の中の私を見て「そうであろう?」と同意を求めた。
「そうですが……この長さは失礼なんですよね?」
「失礼というか、そう短いのは尼僧くらいであろうな。禿ですらもう少し長かろう」

