十畳はあるかな。壁に美しい梅の掛け軸が飾られ、花瓶にも花が活けられている。だけど、どこか殺風景な部屋だ。きっと、ここは日頃誰も使っていなかった客間みたいなものなんだろう。
「こちらが寝所になります。──若様、奥方様がお戻りになりました」
女中の言葉にドキッとした。
もしかして、女中とか下働きの人たちには、すでにお嫁さんを迎えたって説明しているのかな。
襖の向こうは、四角い行燈の柔らかな灯りで照らされていた。そのすぐ側には布団が二つ並んでいるし、出迎えてくれた蒼司も薄い着物一枚に着替えている。
布団の上に座っていた蒼司は、読んでいた冊子を伏せるとこちらを見た。
「下がってよい。なにかあれば声をかける」
女中にかけられた声は、どこか義務的で冷たささえ感じた。だけど、それが当たり前なのか、顔を伏せていた彼女は静かに退室していった。
二人きりになり、緊張が増す。
これは契約結婚なんだから、本当に夫婦の真似事をするわけじゃない。──そうよね?
蒼司に向かうようにして布団の上へと腰を下ろす。慣れない正座で居心地が悪く、もじもじしていると、静かな声が「足を崩されてはどうですか」といってくれた。
「それとも、もうお休みになりますか?」
「えっ、あの、その……お布団、近くないですか?」
寝たいけど、ちょっと近すぎるのが気になる。
驚いた顔をした彼は、口元に少し笑みを見せて「そうですね」と呟いた。
「女中が気を利かせたようです」
「……もう、私のことは結婚相手だって伝えているんですね」
「巫女の召喚は極秘事項ですから、屋敷の者には近々嫁を迎えることになると伝えておりました」
「極秘……」
「東雲は武家にして武家にあらず。おかしなことが起きても他言無用。それを守れぬ者はおりませんが、誰彼かまわずでもありません」
つまり、見知らぬ女が急に嫁いできても「東雲の嫁だから」で納得してもらえるってことか。便利だけど、それが罷り通るって少し怖いわ。
ここで働く人たちは、私のことをどう思うんだろう。
「その月江戸では、巫女様を私の妻として迎えるのがもっとも安全です。凛様をお守りするためです」
「……私を、守る?」
やっぱり、危険なことがあるのだろうか。
布団に足を滑り込ませ、不安から布団の端を握りしめていると「ご心配なさらず」と再び優しい声がかけられた。そういわれても、心配なものは心配だ。
「こちらが寝所になります。──若様、奥方様がお戻りになりました」
女中の言葉にドキッとした。
もしかして、女中とか下働きの人たちには、すでにお嫁さんを迎えたって説明しているのかな。
襖の向こうは、四角い行燈の柔らかな灯りで照らされていた。そのすぐ側には布団が二つ並んでいるし、出迎えてくれた蒼司も薄い着物一枚に着替えている。
布団の上に座っていた蒼司は、読んでいた冊子を伏せるとこちらを見た。
「下がってよい。なにかあれば声をかける」
女中にかけられた声は、どこか義務的で冷たささえ感じた。だけど、それが当たり前なのか、顔を伏せていた彼女は静かに退室していった。
二人きりになり、緊張が増す。
これは契約結婚なんだから、本当に夫婦の真似事をするわけじゃない。──そうよね?
蒼司に向かうようにして布団の上へと腰を下ろす。慣れない正座で居心地が悪く、もじもじしていると、静かな声が「足を崩されてはどうですか」といってくれた。
「それとも、もうお休みになりますか?」
「えっ、あの、その……お布団、近くないですか?」
寝たいけど、ちょっと近すぎるのが気になる。
驚いた顔をした彼は、口元に少し笑みを見せて「そうですね」と呟いた。
「女中が気を利かせたようです」
「……もう、私のことは結婚相手だって伝えているんですね」
「巫女の召喚は極秘事項ですから、屋敷の者には近々嫁を迎えることになると伝えておりました」
「極秘……」
「東雲は武家にして武家にあらず。おかしなことが起きても他言無用。それを守れぬ者はおりませんが、誰彼かまわずでもありません」
つまり、見知らぬ女が急に嫁いできても「東雲の嫁だから」で納得してもらえるってことか。便利だけど、それが罷り通るって少し怖いわ。
ここで働く人たちは、私のことをどう思うんだろう。
「その月江戸では、巫女様を私の妻として迎えるのがもっとも安全です。凛様をお守りするためです」
「……私を、守る?」
やっぱり、危険なことがあるのだろうか。
布団に足を滑り込ませ、不安から布団の端を握りしめていると「ご心配なさらず」と再び優しい声がかけられた。そういわれても、心配なものは心配だ。

