私は平気を装い、踵を返して料理の支度を再開させるのですが、とてつもない、もう味噌汁に毒でも入れてしまうかという衝動にさえ駆られるほどでした。
こんなことが、何度もあったのです。秀太は周りの人たちには、笑顔を作ってみせます。人を笑わせるのが大好き、など保育園の通知帳には記載されているほどでした。何の冗談かと思っていたのですが、どうやら先生たちの方が秀太のことをよく知っているようです。私には、いえ、私たち両親には見せてくれない花を彼は色鮮やかに開花させているのです。我が息子のことを、怖いと感じました。
それから月日が経ち、ようやく小学校五年生になった頃に私たちへも笑顔を向けてくれるようになりました。とてもぎこちない、他人行儀な笑みでしたがそれでも変化が起こったことに感激し、またも、一〇歳の我が子に抱きついて放し宅ないような、あの気持ちが奮い起こされました。さすがにあの頃から歳をとっていますから、そんなことはしませんでした。
息子が中学生に入ると、やはりというべきか、世間一般的に言われているあの思春期とやらが開始されました。あの子はもう一度、家ではほとんど無表情な子になってしまいました。何を訊いても、何を言ってもうんもすんもなく、日曜日には終日出掛けて帰ってくるのも門限である一八時ぎりぎりになる回数が増えて行きました。私は、あの子には携帯電話を一台持たせていますから門限の過ぎた瞬間には電話を入れるよう言い含めています。あの子にもそれはよく了解された約束であったらしく、門限だけは守ってくれる良い子ではあるのですが、別の面では一切、私たち両親に見向きもしない不良息子に育っていくのでした。
もちろん、私たちは戸惑いました。どうすればあの子の笑顔を取り戻せるのだろうか、そもそも何が原因でこうなってしまったのだろうと連日連夜話し合いの日々が続きました。
「部活をさせてないでいるのが、ストレスになっているのじゃないかな」
ある雨の降っている木曜日の夜、食卓にだけ明かりをつけて二人きりの会議をしていると、夫がそう言い出します。私の方針として、部活動には加入させていませんでしたのでそれが不良なってしまった理由ではないか、と言っているのです。
「そんな、だって」
反論を試みようとしましたが、できませんでした。秀太は、外で遊んできては毎度のごとく服を泥まみれにしてきます。おそらく外で遊びたくて仕方がないのでしょう。部活に入れないストレスを発散させる方法を探しているのかもしれません。
「それに、塾に通わせているのも原因かもしれない」
また唐突に、夫はそのように言い出します。まるで私の決めた教育方法に異議があるとでも言いたげな口調でした。この時ばかりは、私も口を開きます。
こんなことが、何度もあったのです。秀太は周りの人たちには、笑顔を作ってみせます。人を笑わせるのが大好き、など保育園の通知帳には記載されているほどでした。何の冗談かと思っていたのですが、どうやら先生たちの方が秀太のことをよく知っているようです。私には、いえ、私たち両親には見せてくれない花を彼は色鮮やかに開花させているのです。我が息子のことを、怖いと感じました。
それから月日が経ち、ようやく小学校五年生になった頃に私たちへも笑顔を向けてくれるようになりました。とてもぎこちない、他人行儀な笑みでしたがそれでも変化が起こったことに感激し、またも、一〇歳の我が子に抱きついて放し宅ないような、あの気持ちが奮い起こされました。さすがにあの頃から歳をとっていますから、そんなことはしませんでした。
息子が中学生に入ると、やはりというべきか、世間一般的に言われているあの思春期とやらが開始されました。あの子はもう一度、家ではほとんど無表情な子になってしまいました。何を訊いても、何を言ってもうんもすんもなく、日曜日には終日出掛けて帰ってくるのも門限である一八時ぎりぎりになる回数が増えて行きました。私は、あの子には携帯電話を一台持たせていますから門限の過ぎた瞬間には電話を入れるよう言い含めています。あの子にもそれはよく了解された約束であったらしく、門限だけは守ってくれる良い子ではあるのですが、別の面では一切、私たち両親に見向きもしない不良息子に育っていくのでした。
もちろん、私たちは戸惑いました。どうすればあの子の笑顔を取り戻せるのだろうか、そもそも何が原因でこうなってしまったのだろうと連日連夜話し合いの日々が続きました。
「部活をさせてないでいるのが、ストレスになっているのじゃないかな」
ある雨の降っている木曜日の夜、食卓にだけ明かりをつけて二人きりの会議をしていると、夫がそう言い出します。私の方針として、部活動には加入させていませんでしたのでそれが不良なってしまった理由ではないか、と言っているのです。
「そんな、だって」
反論を試みようとしましたが、できませんでした。秀太は、外で遊んできては毎度のごとく服を泥まみれにしてきます。おそらく外で遊びたくて仕方がないのでしょう。部活に入れないストレスを発散させる方法を探しているのかもしれません。
「それに、塾に通わせているのも原因かもしれない」
また唐突に、夫はそのように言い出します。まるで私の決めた教育方法に異議があるとでも言いたげな口調でした。この時ばかりは、私も口を開きます。


