カテイの手紙

 その日も父母の来訪があって、私はいつも以上に張り切って食事の用意をしていました。日曜日の夕方で、夫は仕事に出ていました。私と私の父母、そして秀太。はたから見ていれば幸せの形そのものだったのでしょうが、私からすればあまり良い気のしない組み合わせです。近所の子を持つ親御さんを何人か招いて接客している方がずっと気が楽です。
 私の父と母は、もうすっかり秀太の虜になっていました。秀太にいつのまにやら買い込んでいた玩具やお菓子などを与えて、にっこり笑うところを見てやろうという魂胆なのでしょう。食事の前だから菓子を与えるのをやめてくれと頼みますが、視線を秀太に合わせたままで大丈夫よ、とだけ母は返事します。父に至っては、返事すら母に任せきりの状態でした。私はあんなに可愛がってくれていただろうか、というある種の孤独感が胸に去来して、背筋の寒い思いがしました。
 どれだけ言って聞かせても秀太への支給は止まらない様子だったので、私はさすがに諦めました。いつもは残さず食事を食べてくれている息子です、私の両親の前なのだしこういうこともあって良いかと切り替えました。料理をしていると、不意に背後の方でやけに大きな驚き声と、それから後に笑い声がどっと起こりました。ぎょっとして振り向くと、私の両親に挟まれて秀太が何かしているようです。台所の火を止めて一旦そこに近づいてみると、秀太が祖父母を笑わせているところでした。テレビが点いていて、番組内で観客を笑わせている芸人の真似を、秀太はしていたのです。そのあまりの滑稽さと可愛らしさから、祖父母の二人は大して面白くもない、全く不出来の孫の芸に腹を抱えて笑うふりをしていました。秀太はその様を眺め、一人にやにやとご満悦です。
 正直に記しますと、この時、この三人に向けてそれはもう大きなショックを受けました。ショックを受けた次の瞬間には、諦めと、怒りと、嫉妬という性質が異なる三つの炎が点火されました。それあはくまで小さなもので、例えるなら箱から取り出して火をつけたマッチくらいのものなのです。ですが、興醒め。いや、興醒めというか、落胆というか、睥睨というか、とにかく悪しき心の虫が心中でざわざわ動き出すのを感じる次第なのでした。
 私は表では笑顔を取り繕い、「何をしているのですか」など知らぬ顔で尋ねます。三名からの返答は、ありませんでした。母は腹を抱えて床を叩き、父は尻餅をついたみたいな格好で天井を仰いでいます。秀太はその真ん中で、両手をあげ両足を広げ、バカみたいな格好で突っ立っていました。この子が誰かにおどけてみせるのは、これが初めてでした。今まで、ただの一度も他人にふざけて見せる子ではなかったのです。にわかに腹と背中に汗が流れます。