白石町のその辺りは、あまり栄えているという積極的な表現を用いるべきではない、ひっそりと静かな環境でありましたが、代わりに、公園や保育園、ちょっと車で運転すれば空港も遠くはないという立地でしたので大いに満足でした。コンビニだってあるし、スーパーマーケットも、これは幾分遠いのですが、とにかく生活に困らなそうな、優しい環境だと思われました。
私が三〇歳の年齢になると、子供が一人産まれました。立派な、それこそ玉のような男の子でした。私の腹から出てきた瞬間から、まるで憤怒しているかのようにけたたましい鳴き声をあげていました。そこに立ち会っていた者全員が、鳴き声に一歩後ずさったような気もいたします。後年に至りその鳴き声の、なんと言いましょうか、異様さみたいなものは、あれはあの子の持っていた特質をまるっきり発揮した形だったのではないかと疑ってしまいます。私はこの子に、我が息子に牙を剥かれたのですから。
あの子と、夫と、私と三人の、後に思い返してみれば終わりの始まりとでも言うべきか、地獄の共同生活が開始されました。子供の名前は、『秀太』と言います。『川田秀太』というのが息子のフルネームです。申し遅れましたが、私の名は『川田育美』と言います。夫の名前は、書きたくありません。後述しますが、彼のことを手紙に書くと、どうも手が震えてくるのです。なるべくあの人の存在は思い出したくありません。だから、極力手紙には書かない。誠に失礼かもしれませんが、どうか社会的弱者の求るせめてもの許諾と振り切って、許してください。
さて、息子の秀太ですが、産まれてきて最初の三年の間は、それはもう可愛くて仕方がなく、私はいつまで経ってもあの人に譲らないような、ずっと抱き抱えて放さないような溺愛の具合でした。可愛くて仕方ない。ああ、どうしてあのようにただ、単純にものを考えてしまっていたのか私にはわかりません。とにかく、私とあの人とは、協力をして秀太の世話に奔走しました。私は息子の生まれて間もない頃には仕事を休んで、その間に保育園を探そうと言う算段でした。先述しましたが、付近には一つ保育園があります。あそこなら歩いて通える距離であるし、私はそこに秀太を日中、預かってもらおうと計画を立てていたのですが、これがまず、失敗に終わります。園児をこれ以上迎えることは、担当する先生の数からして到底無理だと電話で教えられました。そこをどうにかしてもらえませんかと幾らか交渉、いや、粘ってみたのですが駄目でした。最後には半分憤ったような口調で荒々しく通話を切られ、がちゃんと一際大きい受話器を置く音が耳を貫きました。私はこの段階でもう泣きそうな、心細い思いをしました。
私が三〇歳の年齢になると、子供が一人産まれました。立派な、それこそ玉のような男の子でした。私の腹から出てきた瞬間から、まるで憤怒しているかのようにけたたましい鳴き声をあげていました。そこに立ち会っていた者全員が、鳴き声に一歩後ずさったような気もいたします。後年に至りその鳴き声の、なんと言いましょうか、異様さみたいなものは、あれはあの子の持っていた特質をまるっきり発揮した形だったのではないかと疑ってしまいます。私はこの子に、我が息子に牙を剥かれたのですから。
あの子と、夫と、私と三人の、後に思い返してみれば終わりの始まりとでも言うべきか、地獄の共同生活が開始されました。子供の名前は、『秀太』と言います。『川田秀太』というのが息子のフルネームです。申し遅れましたが、私の名は『川田育美』と言います。夫の名前は、書きたくありません。後述しますが、彼のことを手紙に書くと、どうも手が震えてくるのです。なるべくあの人の存在は思い出したくありません。だから、極力手紙には書かない。誠に失礼かもしれませんが、どうか社会的弱者の求るせめてもの許諾と振り切って、許してください。
さて、息子の秀太ですが、産まれてきて最初の三年の間は、それはもう可愛くて仕方がなく、私はいつまで経ってもあの人に譲らないような、ずっと抱き抱えて放さないような溺愛の具合でした。可愛くて仕方ない。ああ、どうしてあのようにただ、単純にものを考えてしまっていたのか私にはわかりません。とにかく、私とあの人とは、協力をして秀太の世話に奔走しました。私は息子の生まれて間もない頃には仕事を休んで、その間に保育園を探そうと言う算段でした。先述しましたが、付近には一つ保育園があります。あそこなら歩いて通える距離であるし、私はそこに秀太を日中、預かってもらおうと計画を立てていたのですが、これがまず、失敗に終わります。園児をこれ以上迎えることは、担当する先生の数からして到底無理だと電話で教えられました。そこをどうにかしてもらえませんかと幾らか交渉、いや、粘ってみたのですが駄目でした。最後には半分憤ったような口調で荒々しく通話を切られ、がちゃんと一際大きい受話器を置く音が耳を貫きました。私はこの段階でもう泣きそうな、心細い思いをしました。


