「宮古馬は沖縄の在来種です。年々数はちょっとずつ増えてきているとは言えまだ四八頭しかいない。多くの人に知ってもらえれば応援もしてくれるでしょう。認知が広がれば、保護や飼育に前向きな人たちも現れて援助をしてくれるかもしれない。馬にとっても拓三さんにとっても、大きな一歩になると思うんです」
これに加え、清隆は沖縄県民の馬を知らないという事実を拓三に語った。授業を受け持っている教子たちが沖縄の馬について全く知らないこと、しかもそれが農業校の学生で鶏や犬を扱う動物向けのクラスであることなども提示した。ヤンバルクイナのようにプロモーションに力を入れなくては、増えるものも増えない。どうか協力してくれないか。
散々語って聞かせても、拓三の顔色は変わるところがなかった。一度だけ眉がぴくりと動いたが、それ以外だとコップの水を手に取る意外に動作らしいものもなく、まるで面接を受けているような錯覚に陥ってしまう。段々と二人の間で交わされるキャッチボールの数も減り始め、どちらもが口を開かなくなった時にはどうしようかと頭がほとんど真っ白になった。謦咳に接する機会を得ましたことは最上の喜びでありますなどと言えば良いのか、と最近覚えたことわざの活用方法の模索に入った時だ。それまで清隆の話に意見を返すばかりだった拓三の方から話し始めた。
「清隆、お前は勘違いをしている。そもそも俺は、宮古馬を増やそうなどとは考えていない。俺はただ、今ウチにいるあの一頭と生活できればそれで良いんだ。天然記念物だから飼っているわけじゃない、代々ウチで飼育してきている思い出みたいなものなんだ。交配がうまく行かない時期が重なって、ついにはあいつだけになってしまった。もう畑作業に使うつもりもない、短い俺に残された時間の中一緒にいてくれればそれ以上望むものはないんだ。清隆、お前は立派に自立して稼げるようになった。色々教えてきた立場からすると大変喜ばしい成長だ。昔は厳しいことも言ってきた、これからは対等な立場としてお前のことをできる限り助けてやりたいが、こればっかりは叶わない願いだ。どうか、わかってくれ」
降り始めた小雨のような、妙に静かな言い方だった。きつく叱られた頃を思い出して、ほんの少しだけ目頭が熱くなった。鬼教官とも呼べそうな拓三からのお願いを聞いてしまって、清隆もそれ以上説得を試みることができなかった。
これに加え、清隆は沖縄県民の馬を知らないという事実を拓三に語った。授業を受け持っている教子たちが沖縄の馬について全く知らないこと、しかもそれが農業校の学生で鶏や犬を扱う動物向けのクラスであることなども提示した。ヤンバルクイナのようにプロモーションに力を入れなくては、増えるものも増えない。どうか協力してくれないか。
散々語って聞かせても、拓三の顔色は変わるところがなかった。一度だけ眉がぴくりと動いたが、それ以外だとコップの水を手に取る意外に動作らしいものもなく、まるで面接を受けているような錯覚に陥ってしまう。段々と二人の間で交わされるキャッチボールの数も減り始め、どちらもが口を開かなくなった時にはどうしようかと頭がほとんど真っ白になった。謦咳に接する機会を得ましたことは最上の喜びでありますなどと言えば良いのか、と最近覚えたことわざの活用方法の模索に入った時だ。それまで清隆の話に意見を返すばかりだった拓三の方から話し始めた。
「清隆、お前は勘違いをしている。そもそも俺は、宮古馬を増やそうなどとは考えていない。俺はただ、今ウチにいるあの一頭と生活できればそれで良いんだ。天然記念物だから飼っているわけじゃない、代々ウチで飼育してきている思い出みたいなものなんだ。交配がうまく行かない時期が重なって、ついにはあいつだけになってしまった。もう畑作業に使うつもりもない、短い俺に残された時間の中一緒にいてくれればそれ以上望むものはないんだ。清隆、お前は立派に自立して稼げるようになった。色々教えてきた立場からすると大変喜ばしい成長だ。昔は厳しいことも言ってきた、これからは対等な立場としてお前のことをできる限り助けてやりたいが、こればっかりは叶わない願いだ。どうか、わかってくれ」
降り始めた小雨のような、妙に静かな言い方だった。きつく叱られた頃を思い出して、ほんの少しだけ目頭が熱くなった。鬼教官とも呼べそうな拓三からのお願いを聞いてしまって、清隆もそれ以上説得を試みることができなかった。


