宮古馬

 また、一部の人は沖縄にて恐竜を連想するかもしれない。これについても清隆は頭を抱えたくなってしまう。前提として、恐竜のいた時代に沖縄の島々は完成しておらず海の底にあるのだ。一部はすでに陸に上がっていたかもしれないが、どっちにしても恐竜が生息できる環境は整っていないだろう。県内のいくつかのテーマパークは亜熱帯独自の植物(主にヒカゲヘゴ)などを頼りに本来沖縄に存在しない世界観を作ろうと画策した。その結果が作り物の恐竜展示である。試しにその手の施設の従業員に聞いてみてほしい。ここで見つかった恐竜の化石とはどんなものですか、と。絶対返答に窮するであろう。
 残念なことに、若者を中心に沖縄の多くの人がこれらの知識を持ち合わせていない。
 以上のことから、清隆は地元である沖縄の生物についての正しい認識を広めたいと考え、そのきっかけに宮古馬を使いたいのだ。あるいは本当に、宮古馬のような生物にならそのようなことは可能であろう。以前彼は授業の中で実際に沖縄の在来種について生徒に質問をしてみたことがある。沖縄に馬はいるのか否か、と言った具合だ。帰ってきたのは皆が皆、馬は沖縄にはいないだろうというものだった。今島で飼われているのは全て県外、国外から持ち込まれたものだろうという意見ばかりである。
 教える側がしっかりとした段取りで挑めば、こうした現状をわずかにでも変えられるのではなかろうか。
 宮古馬についてあれこれ考えていると、やはり学科長にノーを突きつけるのは躊躇われる。もう少しだけでも奮闘してみるべきではないだろうか。
 清隆はもう一度拓三へ話を聞いてくれないかと交渉した。いや説得という方が近いかもしれない。どうしても宮古馬という存在は農業祭で役に立つ。沖縄で生きる人々や外からやってきた人たちの心に変化をもたらしてくれるかもしれない。そのような言葉を、思いつき次第次々に投げ込んでいった。
 一時間にも及んだ説得の結果は、一度面と向かって話をしてみようというところに落ち着いた。

 そういう流れがあったので、直に会って言葉を交わせば拓三もわかってくれるのではないかと希望を抱いていた清隆だったが、開口一番業界の先輩はきっぱりと断ろうという意思表示をしてしまった。
「拓三さん、もう少し考えてくれませんでしょうか」
 清隆が穏和な口調を心がけ頼んでみるものの、拓三は腕を組んで微塵も身動きをしなかった。唇はしっかりと結ばれている。
「地元の人間だけの集まりならいざ知らず、外国人のやってくる場所に愛馬を連れ出すなどあり得ん。交渉はやはり決裂だ」
 さっきは会えたのを嬉しそうにしていたのに、と心の内でぼやいてしまう。歯を見せて笑ったのは、久しぶりにゆっくり話す場が設けられたからなのだろうか。