宮古馬

 いいえ。とりあえず清隆はそう返事しておいた。確かに去年、いや近年あのイベントでは外国人の姿が目立ってきている。県北部の田舎とは言え観光で飯を食おうとしている沖縄だから、大々的な催しにはたとえそれが学校の行事であったとしても入り込んでくる人間は一定数いるのだ。県が観光のための土地開発を進め、訪れてくれる観光客がお金を落とす。こうして沖縄は発展度合いを増しているところだ。学校側としても来場者が増えて活況を呈してくれる分にはありがたく思っているところだろう。
 ただし、一方で迷惑な観光客というのも存在している。招いた客人がどのように変容するかはいざトラブルが起こってみなければわからない。外国人を一律で入場規制すれば世間からの風当たりも強くなるだろうというので一概に拒絶もできないから、教師陣も頭を悩ませているところなのだろう。特に農業校には(これは清隆の偏見なのであるが)教師には高齢の者が多い。長く経験を積んだベテランが結構いる。見えないところで彼ら、彼女らが拓三のように顔をしかめているというのもまた事実としてあるのだろう。
 難しい問題だ、と携帯電話を耳に当てたまま清隆は視線を床まで下げた。外国人の問題行動を理由に断られては、こちらとしても説得がしにくい。明るい雰囲気に持っていくためにはどうするべきか思案していると、追い討ちのように拓三が毒を吐いた。
「俺の農場にもたまに観光客とやらが来るんだ。鶏の卵の無人販売をしている横で件の馬を置いていたところ人気が出てきたようでな。珍しい無人販売と馬が見られるって噂が広まって、やはりそこにも外国人がやってきた」
 そこまで聞いて、清隆は嫌な予感がした。果たしてその予感は的中する。
「あるアジア系の外国人が来た。そいつは子供を連れた母親だったんだが、子供を馬のそばに立たせて写真を撮ろうとしたんだ。一枚では飽き足らず、二枚も三枚も四枚も、五枚撮っても飽きが来なかった。ついには子供だけでなく自分も一緒に写ろうと、母親も馬に近寄ったんだ。すると子供はそれまで大人しかった馬を下に見たのか毛を抜くような動作をし始めたんだよ。体毛を引っこ抜いて遊ぼうとしたんだろうな。子供のやることだ、加減も何もあったものじゃない。馬は半ば本気で嫌がったが耐え難いわけではなかったみたいでその場を離れなかった。そこで母親が止めていればよかったのに、ついには子供が馬の足を拳で殴りつけても何の反応もなかった。ケータイの画面に夢中になって、せっせとシャッターを押していたよ」
「拓三さんは、どうしたんですか?」