宮古馬

 清隆は喉をついて出そうになった言葉を飲み込んだ。「天然記念物は全て貴重であるとするのは間違いです」と、危うく言いそうになった。話の肝はそこでないのだから飲み込んで正解だったろう。
 学科長としばらくの間、うんうん唸りあった。腕組みする男性教師の頭を見やると、中心から髪の毛が薄くなってきているのが観察できる。顔は若いがこの先生ももうだいぶ歳を重ねているんだなと、三年講師をしてきて今更知った。
 時計の秒針が一周半したところで、妙案が突如として天から降ってきた。もしかすると、あれが適任なのではなかろうか。
「天然記念物、ですか。そういうことなら与那国馬とか宮古馬でどうでしょう」
「馬ですか」
「そうです、馬なら珍しがってくれるんじゃないでしょうか」
 突然の発想をそのまま口にしたが、学科長は気に入ってくれたようだ。馬というのにはちっとも注目していなかった、と期待以上のリアクションを示してくれる。
「僕の知り合いの農家に宮古馬を飼育している人がいるんです。その人に頼んで了承してもらえれば、すぐに連れてきてくれるはずです」
「そうですか。その人とは、本島に住んでいる方なのですか?」
 本部町だと答えると、ここでも彼は大いに喜ぶ。この農業校があるのは名護市だから、本部町と言えば目と鼻の先である。
「それでは今日にでも、話を取り次いでもらえないでしょうか」
 清隆は右手を握り親指を立てて見せる。馬ならやってきた客に喜んでもらえるかもしれない。
 そのような流れがあり、帰宅してからすぐに拓三に電話をしてことのあらましを話した。宮古馬を二日の間借りることはできないものかと頼んでみると、拓三はこれを拒否する。同じ農家として長い付き合いをしている。彼がこうした行事を応援している人物だというのは知っていたから意外だった。
「理由を聞いても構いませんか?」
 そんなもの一つに決まっていると、つまらなそうに拓三は言った。
「今年の来場客には外国人が混ざっているんだろう? それが気に食わん」
 外国人、と清隆は口の動きだけで反芻してみた。その響きに特段人を苦しませる成分が含まれているようには感じられない。そんな清隆の『わかっていない』雰囲気を読み取ったか、拓三は詳しく話をしてくれる。
「去年の農業祭、俺ももちろん参加したさ、客としてな。だがそこには外国人がいたよ。何名かで集まって、ぎゃあぎゃあ騒いでいた。ゴミを捨ててもお構いなし、限りのある食事場所で長居して他の人を困らせるし、あまつさえ販売員を担当していた学生を異国語で説教している者までいたとあっては、到底好きになれん。俺の言ってること、間違いだと思うか」