宮古馬

 話は少し遡る。発端は、清隆が教えている農業校の行事にあった。沖縄県北部にあるその農業校では、毎年農業祭という催しがある。一年に一度、生徒が成果物発表を兼ねて野菜や果樹といった生産物を校内で販売するのだ。ただの直売所のような販売方式ではなく、年に一回のお祭りのような形式をとっている。
 資源科は鶏肉や果樹、食品化学科はケーキのような菓子類、土木科は園芸展示、そして福祉課は来場した子連れの客から一時的に子供を預かり面倒を見ると言った具合に、それぞれの学科の特徴を活かした祭りである。これ自体が授業の一貫であり、土日の二日にわたり開催されるこの催しに出席しない生徒に単位は与えられない。生徒も教師も一丸となり取り組む大きな行事なのだ。
 清隆は普段外部講師のような形で資源学科の実技を教えている。学校の敷地内にある小規模な水田や温室にて、生徒に実践的な指導を行うのだ。ある時は田植えをし、ある時は一日中畑のあちこちを除草して周り、またある時には収穫したパッションフルーツを分け合い試食してみる。農業専門校らしいカリキュラムと、沖縄らしい教材を用いて将来の農業従事者獲得を目指しているのだ。
 学科長という立場に置かれている教師から、ある日こう言われた。
「今年の農業祭はもっと動物にフォーカスしようと思っているんです。清隆さんにもぜひ協力して欲しくて、何かこう、珍しい動物を飼育されている知り合いなどはいないでしょうか」
 そう尋ねられ、最初清隆は首を捻るしかなかった。動物を扱う、という話はわかるが、珍しい生き物など飼育しているわけではない。清隆自身もそうだし、知り合いの農家だって多くがそうだ。第一何をもって珍しいと定義するのかもあやふやだ。体色が珍しいのであればそれは目立つだろう。あるいはそうでなく、遺伝子学的に珍しい進化を遂げた種を持ち込めば良いのだろうか。専門家の目で見なければそこらの動物と変わりのないような『珍しい』生き物は確かにいるが、果たしてそれを見た客が喜んでくれるものか。
 もう少しだけ具体的にならないか、と清隆は尋ねてみる。すると学科長は「面白い」という単語を選んできた。珍しいが面白いにすげかわったところで、やはり結果は同じである。
「どんな生き物が欲しいのかわかりませんが、先生もご存知の通りこの辺りで珍しい、面白いと言える生き物を飼育・管理している者はいないでしょう。もしよければ、うちに五年も綺麗な卵を産み続けた採卵鶏がいるんですが、それでどうでしょう」
 学科長は首を振った。思ったような回答を得られなかったためなのか、それとも採卵鶏程度ではお気に召さなかったのか。
「こう、天然記念物とか、いないもんですかね。そういう貴重な動物なら注目を集められるかと思うのですが」