宮古馬

「お前もこいつらの味方をするのか。そうか、そもそもお前がここで太平号を見せ物にしようと持ちかけたんだったな。生き物は大切にすると言っていたのはお前の方だったはずなのに、一体いつから変わってしまったんだ? 清隆、さっさと手伝え。馬に触り出していらん時間を過ごすことになる」
「それは違います」と、清隆は言った。
「拓三さん、それは違います」
「生き物は大切にしないという意味か」
 清隆の手を振り解き、『敵』から一時視線を外して拓三は振り返った。
「そうじゃないです。僕が言いたいのはつまり、あなたの方こそ一体いつから変わってしまったのか、そういうことです。昔のあなたはこうまでして動物から人を遠ざけようとはしなかったはずです。子供だろうが大人だろうが、動物に乱暴したら引き剥がして説教をする、それが拓三さんだったはずです。でもあなたは変わってしまった。ちょっと外国人に意地悪をされたからと言って、海の向こうの人たち全員を敵だと思い込んでいる。生き物にちゃんと愛を持って接することができるのは日本人だけじゃないんですよ。ドイツにだって、アメリカにだって、台湾にだって常識のある、しっかりした人は大勢います。そういう人たちには優しくするべきだと思うんです。もちろん悪意を持って近づく人間にならどう対応したっていいですよ。追い払うというなら僕も協力します。ですから一度だけ、一度だけでいいから歩み寄ってみませんか」
 老人の体には力が入っていなかった。ここで台湾人の夫婦が横を通過していっても、拓三は気付けないのではなかろうかと思えてくるほどだ。
「清隆、しかしだな」
「僕が今、生き物を大切にしようと心がけるきっかけになったのは、拓三さん、あなたにあるんです。かつてのあなたが僕を変えてくれたんです。人が変わっていくのは仕方のないことかもしれませんが、変わってほしくない部分もどこかにある。僕から見た拓三さんは、変わってほしくないところが変わりつつあるんです。だから何度でも言います、あと一度だけで良い、歩み寄ってあげてください。お願いします」
 もしここまで言って変化がなければ、その時は諦めよう。もし本当に諦めたとして、自分が拓三のことを好きでいられるか不安を覚えたが、きっと全ては時間を使えば解決できるはずだ。変わってしまった拓三でも、きっとまた好きになれるはずだ。
 これから先も自分が尊敬していた拓三のままでいるのか、それとも長い人生の果てに多少形が変わってしまうのか。決定的な分岐点はここだと清隆は思った。