宮古馬

 一七時になるとクラスごとにミーティングが行われる。集合場所から離れた地点にいたため、馬担当の生徒たちはイーゼルや馬の写真を手早くまとめて資源科の学科棟へ駆けていく。後の短い時間は清隆たちが受け持つことにした。それと入れ違いに、新たな客が二人の前に現れたのだ。
 見るからに外国人だった。中国か韓国か、国籍など外見から清隆は判断できないが日本のすぐそばの国が出身なのだろう。見たところ三〇代半ば、結婚して夫婦で旅行に来ているといった様子だ。隣に立っていた拓三が夫婦を認めるや否や、前へと歩み出て大きく手を振り払う仕草をしてみせた。
「あと一〇分ほどで入り口が閉じられる。今日はもう店仕舞いなんだ、悪いが帰ってくれ」
 農業校はその特色ゆえに敷地が広い。入り口からほとんど反対のこの場所に来てしまったのでは確かに閉業時間までに外へ出られないかもしれない。だからと言って、純粋に校内を見て回っていそうな夫婦に高圧的な態度を取る必要もないのだが。
「こんにちは。台湾から来ました」
 笑顔を振りまいて女性の方が挨拶をした。日本語が話せるのか、と一瞬拓三は驚いたようだったがすぐに元の態度に戻る。
「どこから来たのかは関係ない。ここはあともうちょっとで閉まる。見物ならまた明日にしてくれ」
「明日に、飛行機で帰るんです」今度は男性が言った。
「馬の近くに行ってもいいですか」
 男性は手を合わせて懇願した。拓三が快諾するはずもない。
「それなら運が悪かったな。今日はもうおしまいなんだ。明日も来れないようなら、来年参加してくれ」
 数分前までの楽しげな空気は一変し、一触即発とまでは行かないが中々剣呑な空気が場を支配し始めた。生徒たちがいなくて幸いだったと、清隆は内心安堵していた。まさかこのタイミングで訪れるとは思っていなかった。
「お願いです、私たち、沖縄好きなんです。沖縄の馬がいると聞いてやってきました。見せてくれませんか」
 二人の視線は拓三の背後、宮古馬の太平号に注がれていた。彼らの視界を塞ぐように拓三は立つ位置を変えた。
「清隆、お前からも何か言ってやってくれ」
「拓三さん、ちょっとくらい良いじゃないですか。馬、見てもらいましょうよ」
「この後に及んでお前、何を呑気に言いやがる。迷惑な客に足止め喰って生徒たちの帰る時間が遅くなるんじゃないのか」
「それは、確かに困りますね」
「そうだろう。だったら手伝え、こいつらを学校の外に放り投げるぞ」
 腕まくりしようとした拓三の肩に手を当てて、清隆は首を振った。
「いえ、拓三さん。馬を見てもらいましょう。その方が、この二人も未練なくきっぱりと学校を出てくれるはずです」
 拓三の顔には信じられないという文字が浮かび上がってくるようだった。この若造は何を言っているのだ、とも。