雨の降る中を、古謝清隆は歩いていた。傘を差し、足元はゴムの長靴を履いている。長靴なので、うっかり水たまりに足を取られても問題ない。打ちつける雨粒が地面で激しく踊っているのも、問題とはならない。それに着ているのは普段農作業で着用している作業着なので、こちらも泥や雨粒などに襲われる心配をあまりしなくて済む類の服装だった。
あたりにはサトウキビ畑が一面に広がり、そろそろ収穫時期を迎えそうな緑の細長い葉や茎の部分が路上目がけて傾いている。降雨により重みが増した植物たちはきっと、風に吹かれれば路面に倒れ伏すだろう。これを除去するのも栽培をしている者の負うべき責任と言える。
清隆は空を仰いでみたが、あるはずの太陽は厚く空にのしかかる暗雲によりすっかり隠されてしまっていた。これが午後三時の空だとは到底思えず、殆ど無意識のうちに左腕の時計を見やった。時計は三時一二分を指し示していた。間違いなく、一五時過ぎの空である。
暗澹たる心持ちにさせてくる空の下で、清隆はため息を漏らした。ため息が出たのは、自らの置かれている状況に起因している。いくら泥や水からの影響を少しは気にしなくて良い服装だからといって、この衣服自体防水加工を施しているわけではなく、濡れれば当然不快感が勝るし泥が跳ねれば気分も落ち込む。これから大事な人と会って話をしようとしているのだからこれ以上服は汚したくない。
そんな彼のいる歩道のすぐそばを何度か車が通ってく。車道からできるだけ距離をとったところに移動した清隆だが、彼に路上で溜まった水が飛んでくることはない。何せここを通る車の運転手は皆老人ばかりだから速度を出さないのだ。今が激しい雨模様だからと言う話ではなく、晴天だったとしても法定速度を時速一〇キロほど下回ることだろう。普段心がけてくれている安全運転が、雨降りの中でも役に立っているわけだ。
使い古している長靴と肩が若干濡れた状態で、清隆は目的地へと到着した。近所の居酒屋であった。
彼が店内へ入ると、顔馴染みの店主が禿げた頭を光らせつつ奥の方から現れる。店主は手のひらを右の方へ差し出し、「もう着いてるよ」と短く言った。愛想の良い笑顔を振りまいている。
店主が指し示した先はテーブル席ではなく奥にある畳の席となっていて、清隆がこの店を訪れる際には必ずそこを使わせてもらっている。単純に落ち着くからと言う理由であるのだが、彼に似て空いている店内でわざわざそこに腰を下ろす先客というのであればあの人を置いて他にはいまい。
あたりにはサトウキビ畑が一面に広がり、そろそろ収穫時期を迎えそうな緑の細長い葉や茎の部分が路上目がけて傾いている。降雨により重みが増した植物たちはきっと、風に吹かれれば路面に倒れ伏すだろう。これを除去するのも栽培をしている者の負うべき責任と言える。
清隆は空を仰いでみたが、あるはずの太陽は厚く空にのしかかる暗雲によりすっかり隠されてしまっていた。これが午後三時の空だとは到底思えず、殆ど無意識のうちに左腕の時計を見やった。時計は三時一二分を指し示していた。間違いなく、一五時過ぎの空である。
暗澹たる心持ちにさせてくる空の下で、清隆はため息を漏らした。ため息が出たのは、自らの置かれている状況に起因している。いくら泥や水からの影響を少しは気にしなくて良い服装だからといって、この衣服自体防水加工を施しているわけではなく、濡れれば当然不快感が勝るし泥が跳ねれば気分も落ち込む。これから大事な人と会って話をしようとしているのだからこれ以上服は汚したくない。
そんな彼のいる歩道のすぐそばを何度か車が通ってく。車道からできるだけ距離をとったところに移動した清隆だが、彼に路上で溜まった水が飛んでくることはない。何せここを通る車の運転手は皆老人ばかりだから速度を出さないのだ。今が激しい雨模様だからと言う話ではなく、晴天だったとしても法定速度を時速一〇キロほど下回ることだろう。普段心がけてくれている安全運転が、雨降りの中でも役に立っているわけだ。
使い古している長靴と肩が若干濡れた状態で、清隆は目的地へと到着した。近所の居酒屋であった。
彼が店内へ入ると、顔馴染みの店主が禿げた頭を光らせつつ奥の方から現れる。店主は手のひらを右の方へ差し出し、「もう着いてるよ」と短く言った。愛想の良い笑顔を振りまいている。
店主が指し示した先はテーブル席ではなく奥にある畳の席となっていて、清隆がこの店を訪れる際には必ずそこを使わせてもらっている。単純に落ち着くからと言う理由であるのだが、彼に似て空いている店内でわざわざそこに腰を下ろす先客というのであればあの人を置いて他にはいまい。


