君の1番で居たいから

クーラーが効いていて快適な教室とはうって変わって、体育館はサウナのような暑さだ。
「…というわけで、明日から夏休みです。事故や病気に気をつけて、新学期、元気な皆さんに会えることを願っています。」
生徒指導主事の長い話が終わり、1学期終業式が終了した。

教室に戻ると、通知表が配られ、大量の課題も渡された。受験生だからもちろん勉強してね、という担任の圧を感じながらも、夏休みという響きに少しワクワクしている自分がいる。
しかし、学校配布の夏休みの予定表を見るとさっきまでのワクワクは一瞬で消えた。
「…夏季講座、お盆休み以外全部…?」
思わず、声に出ていたらしい。担任と目が合うとわざとらしく笑いかけられる。
俺は背筋が凍った。
もしかして、周りの人と予定表が違う?
隣の席の女子の夏季休業予定表と書かれた紙をのぞく。
初めの一週間しか講座の予定が書かれていない。
終わった。俺だけ補習コースらしい。
一年の頃からだんだんと成績を下げ、今は定期テストで赤点を切っている。この高校は、赤点補習はない学校なんだーなんて、思って余裕をこいていた自分に言ってやりたい。
でもよく考えると、そんなに甘いわけないよな。
家じゃ勉強できないし、学校に来る良い機会だと思って使い倒そう。それに補習は午前だけの日も多い。
俺は、ポジティブに捉えることにした。

ホームルームが終わり、担任に呼ばれる。
クラスメイトはどんどん帰っていく中、俺は説教かな、なんて考えながら担任が居る黒板の前へ行く。
「どこから話そうか…。」
なにやら話すことを迷っているらしい。
俺はこの時間すらも惜しいのに。
「まず、学習についてなんだが…この間の模試の成績がありえないほど…」
とにかくすごく溜めてくる。
いやどうせ結果は悪いんだから、早く言ってくれよと思う。
「伸びていた。」
一瞬、聞き間違いかと思った。
勉強嫌いで、復習ゼロの俺が伸びるとかあるんだ。
「しかもなんだ、この数学の偏差値。40から70って…どんな勉強したらこうなるのか俺にもわからん。理科も50から70まで上がってるなら流石に不正を疑いたくなったぞ。」
俺は驚愕の事実に開いた口が塞がらない思いだ。
「どうゆうことですか…?」
「それは俺が聞きたい。本当に不正してないんだよな?」
「はい。普通に勉強しただけです。自分でもよくわからなくて。確かに今回の模試は簡単でしたけど。」
担任は頭を抱えてため息をつく。
「しかも、ちゃっかり志望校医学部入れてるからレベルがわかりやすくなってるし…。」
俺は若宮に自分の夢を話してから、自信がついて、志望校記入欄に今までは絶対に入れなかった医学部を入れた。
しかしそれが今回、担任を混乱させているようだ。
「判定は、どんな感じでしたか?」
「紙媒体で、来週中に渡すつもりだったが、吉岡だけ先に伝える。第一志望校から第四志望校まで言っていくと、A、B、A、Aだった。詳しいことは紙にあるから来週配った後に見てくれ。」
「それってすごいことなんですか?なんか、逆転合格とか、最近よく聞くんですけど…。」
「高校3年のこの時期に、理学部C判定から医学部A判定まで上げたやつに出会ったことがない。少なくとも俺の教員人生では。」
しばらく状況が掴めないが、とりあえず喜んでいいことなのだろう。
なんとなく喜んでみる。
「夏季講座が吉岡だけ多いのはそのためだ。職員室中で話題になって、休みを削ってでも教えたいって先生が続出した。別に、他のやつに教えたくないってことじゃなくてプラスアルファで教えて、これからの授業に活かしていきたいらしい。俺もよくわからん。」
なるほど…?
よくわからないが、先生達への印象は良かったらしいのでひとまず安心する。
でも夏季講座が多いと、若宮ともあんまり会えなくなるのかな。
いやいやいや。別に寂しいとかじゃないし。
「まあそうゆうわけだから、吉岡ともう一人…誰だっけな…この学年の天才って言ったかな…隣のクラスの生徒と二対一での講座らしいから、頑張れ。」
担任は「話はこれだけだから。ありがとな、わざわざ残ってもらって。」と言い、教室を出て行った。
なんだそのテキトーな説明は。
誰だろう天才…。隣のクラスだから5組か3組だけど、天才なんていたっけ?
でも、一人で教わるよりも人数がいた方が楽しいだろう。面白い人だと良いなー、と思いながらリュックを背負って教室を出た。

玄関にはまだたくさんの生徒がいる。
これから部活に行こうとする人や友達と遊びに行くらしい人、即帰宅勢も含めて終業式はみんなどこか浮かれた雰囲気だ。
部活は先月引退したから、俺はもう放課後は勉強漬けだ。
週に2回、月曜と木曜の放課後は若宮と勉強する約束をしている。
終業式があった今日は水曜日だから、若宮と会うことはないだろう。少し寂しいと感じるのは、俺が彼と一緒にいて楽しいと思っているからかもしれない。
話せば話すほど、若宮は面白い。
でも暁斗曰く、若宮が笑うところを見たことがある人はこの学校にはいないらしい。
「なんでお前は、あの絶対に笑わなそうな若宮を笑わせたことがあるんだよ。全人類俺が笑顔にしたかったのにー!!」などと、暁斗にしつこく言い寄られたが、全てなんとなく受け流した。
若宮の笑顔は本当に可愛いから、俺だけの秘密にしておくことにしたのだ。
俺は下駄箱から靴を取り出して早めに学校を出ようと校門まで向かうと、後ろから誰かに肩をつつかれる。
「…!?」
誰かわからなかった。声にならない声とはこうゆうことを指すんだな…。いかんいかん、感心してる場合じゃないか。
「誰でしょう?」
声だけでわかる。普段は俺から話しかけることの方が多いのに。
「わ、若宮?」
後ろから俺と同じくらいの身長の美男子が現れる。いつ見ても綺麗な顔だ。
「正解!やっぱ簡単だったかな。」
これから本格的な夏を迎えるというのに、なんでこんなにも暑いんだろう。
ひとまず、日差しのせいにしよう。
「そういや、吉岡は夏季講座どんな感じー?」
「え、あ、夏季講座は…忙しそうかな。」
「だよねー。夏休みも変わらず、月曜日と木曜日は一緒に勉強しない?俺、あの時間のために学校来てるようなもんだし。」
若宮は、すこし照れくさそうに俯きながら言う。
「もちろん!俺も好きだし。」
もちろん即答した。
しかし、なんだかお互いに急に恥ずかしくなってきて、黙り込む。