午前0時、きみだけが知っている

先生が出て行くと、教室内では1時間目の準備が始まる。

1時間目は憂鬱な数学。

私はあまり数学が得意ではないから、1時間目から数学の日は憂鬱でしかない。

チャイムが鳴ると同時に、数学の先生が入ってきて、いつも通りの授業が始まった。

黒板に書かれる式を、ただ機械的にノートへ写していく。

先生の声は一定で、眠気を誘うように静かだった。


「では、次の問いを……桜川」

「……は、はい!」


油断していると急に指してくるから、やっぱり苦手。

慌てて返事をして立ち上がり、答えを口にすると、先生は「正解」と言い、次の人を指名する。

心臓に悪い、本当に……。

ドキドキしながら椅子に座った時、隣から視線を感じた。

何気なくそちらを見ると、視線の主はやっぱり瀬崎君で。

私と目が合うと、今度は彼の方から視線を逸らした。

まるで何事もなかったかのような表情で。

私は知らないうちに彼に対して嫌な事をやってしまったのだろうか。

教室での授業が憂鬱な原因は、隣の彼のせいでもある。

だからといって、何で見てるの?とか、何か用?とか聞けない。

あんまり見ないで欲しいんだけど……とも言えない。

誰にも聞こえないほどの小さなため息をついて、私は再びノートに視線を落とした。



「奏、ノートありがとう。助かった」

「あ、うん……」


3時間目が終わってから、朝貸したノートが戻ってきた。


「いつもありがと。またよろしくね」


また、よろしく……。

笑顔で言う彼女は、自分で課題をやるつもりないのだろうか。


「うん……」


モヤッとしたけれど、彼女と同じような笑顔で私は頷いてしまった。

嫌なら、嫌と言えばいいのに、言わなかった。

……言えなかったというべきか。

ノートひとつで目くじらをたてるつもりは全くない。

波風なんかたてなければ、何事もなく平和に過ごせるのだ。

このクラスは仲がいい。

……でも、いつどこで、どんな些細な事がきっかけで、その関係が壊れてしまうかはわからない。

一生続く関係ではない事はわかってはいるけれど、少しでも普通の学校生活を送れるのなら、流れに逆らうべきではないんだ。

ノートを抱えて自分の席に戻ろうと、振り返ったら、やっぱり瀬崎君と目が合った。

……何を考えているのか全く読めない。

やっぱり、苦手だ。



「来月の校外学習の班、くじ引きで決めるんだってね」


昼休み。

仲の良いグループで机を向かい合わせにしてお弁当を広げていた。

毎日、顔を合わせているのに話題がつきない。