首都、アクシア。
南海に面したこの街は、王国の政治と文化の中心地だ。
王宮や王立学園、大聖堂に代表される綺羅びやかな邸宅がならぶ町並みは観光名所にもなっている。
平民が暮らす市街地でも、華やかな景色は変わらずだ。穏やかな南風が吹き抜けるこの街は、貴族の優雅さと平民の活気の両方を包みこんでいた。
そんな街の市場をプラータとカロンは散策していた。
「おっちゃーん!イカ焼きあるー?」
プラータは迷わずとある出店に声をかける。
香ばしい香りと、脂に火が通っていく音が、耳と鼻の両方から食欲をそそる。
「おっ、プゥ殿下じゃねぇの!今日はもう仕事終いかい!」
「まあ、そんな感じー」
「その言い方じゃあ、まーた仕事を抜け出してきたなー?」
「それはマジで違うよ!」
「ホントかよ殿下ぁ!」
ガハハと豪快に笑う店主。そのまま何個食べるかと聞かれ、プラータは元気よく5つと答えた。
「カロンはいくつ食べる?」
「えっ?今5つって…」
「え?うん。俺は5つ食べるからカロンはいくつ食べる?って」
「ええ…」
カロンは思わず目を見張った。あの華奢な身体のどこにそんなに食べ物が入るのか、想像すらできない。
肩幅や筋肉の厚みなら、カロンの方が確実にあるのに。
「俺は…1つで大丈夫です…。」
「そう?じゃあおっちゃーん!1個追加で6つちょうだーい!」
「はいよー!」
こうして出てきたイカ焼き。屋台の店主と歓談しながら、それはそれは美味しそうにプラータはイカに食らいついた。
「プゥ殿下〜!焼き立てのピザがあるよ、食べて行くかい?」
お向かいの女将さんからも声がかかる。流石にイカ焼きを5個も食べた後では…と思ったのは、カロンのみ。
「食べるぅ〜〜〜〜!!!!」
「えっ!?殿下!!」
目を輝かせ、プラータはそのお店へと駆けていくではないか。
その後もそんなことが続く、続く…。
市場の半分以上の店は回ったのではないだろうか。
どの店舗でも、お店の人からの呼びかけにプラータは答えていた。全てのお店で目を輝かせ、見ているこちらがお腹いっぱいになりそうなほど、とろけた顔で食事を頬張る。店員や他のお客さんとの談笑は常に笑顔の花が満開に咲き乱れる。
必ずお礼と賛辞を伝え、キッチリ支払いをする。
プラータが入ったお店は、彼につられたようにお客さんが増えていった。
確かにカロンは、仕事を抜け出したプラータを探して市街地に赴くことが多かった。そういった際は必ず市民から「殿下ならどこどこに居る」と、情報提供があった。
それはこれ故だったのかと、カロンは今更ながら気づいた。
「あー、美味しかった!やっぱり俺たちの国の海鮮料理は最高だね!カロン!」
「そう、ですね…。」
あの量を食べたとは思えない、スッキリした顔でプラータが言う。普段の王宮の食事は到底足りなかったのではないかと、余計な心配がカロンの頭に浮かぶ。彼の笑顔は、カロンには一瞬、子供のように無邪気に見えた。
そんなプラータの表情にふと、影が落ちる。
「本当に…いい国だよ。ここは。」
哀愁漂う横顔。彼の裏にあるものに、誰もが気づけるわけではない。
ーーー
西領に向かうため、水路のそばで船を待つプラータとカロン。
大聖堂の近くを流れるその小川は、華やかな市街地とは一変してとても静かだ。
小鳥のさえずりと川のせせらぎが穏やかなデュエットを奏でる。木々が寄り添い、夕日の木漏れ日が踊っていた。
「あっ」
ふと、見知った人影に気付いたプラータが声を漏らす。彼の視線の先は大聖堂の裏庭。軍服を着た金髪の少年が、彼より背の高い女性司祭と仲睦まじく話していた。
その少年こそ、テオ・プラトニアクス。ウスタシュ宰相の養子であり、ルーナの義理の弟だ。
隣にいる女性は、彼の恋人だろう。
テオは彼女に断りを入れて、こちらへ駆け寄ってくる。彼もまた、こちらに気づいたのだ。
そんなテオを見て、カロンは声をだしてしまったプラータをどつく。プラータのほうも、しまった、と顔に描いてある。
テオは顔に大きな傷跡があり、左目がよく見えていない。その代わり、耳がとてもいいのだ。
恋人との逢瀬を邪魔するなど、この世で最も無粋な行為だろう。
あっという間にこちらへ着いたテオは、カロンに向き直り口を開いた。
「カロン。どうしたんだそんな大荷物で。」
学園時代から競い合うライバルなカロンとテオ。2人は揃って学年首席であり、海軍入隊後にどちらも王子の側近になっている。お互い、意識するなというほうが難しい。
「…まさかとは思うが、帰省じゃないよな?」
チラ、とプラータを一瞥して、テオはカロンに尋ねる。もちろんプラータの追放はテオも知っている。
「不敬だぞ、テオ。俺はプラータ殿下の側近。殿下の行くところが俺の行くところだ。」
硬い岩のような意志。カロンのそれを嫌でも感じたテオは、譲れないというようにカロンを睨み返す。
「陛下暗殺を企てたんだぞ?それでも付き従うってのかよ。」
「逆に聞くが、テオは本気でプラータ殿下が陛下を暗殺しようとしたと思ってるのか?」
「それは…思えねぇけど。でもじゃあ、シルヴァラ殿下がプラータ殿下に濡れ衣着せたって?それこそありえねぇ!」
忠義も性格もアツい2人が火花を散らす。双方一歩も引かず、一触即発の空気だ。
「まあまあ2人とも!シルもなんか考えがあってだろうし、俺は追放に納得してるから!な?な?」
慌てて間に入るプラータ。咄嗟にシルヴァラのことを愛称で呼んでしまったのは、双子揃って実の弟のように可愛がっていたテオが相手だからだろうか。
「っ……、勝手にしろ」
言葉を詰まらせるテオ。彼はそのまま視線をそらすと、踵を返して裏庭の方へと戻っていく。
拳をぎゅっと握りしめた手が、何かを必死に抑え込もうとしているかのようだった。
彼の背中は、いつもの自信に満ちた姿と違い、どこか小さく、淋しげに見えた。
To be continued...
南海に面したこの街は、王国の政治と文化の中心地だ。
王宮や王立学園、大聖堂に代表される綺羅びやかな邸宅がならぶ町並みは観光名所にもなっている。
平民が暮らす市街地でも、華やかな景色は変わらずだ。穏やかな南風が吹き抜けるこの街は、貴族の優雅さと平民の活気の両方を包みこんでいた。
そんな街の市場をプラータとカロンは散策していた。
「おっちゃーん!イカ焼きあるー?」
プラータは迷わずとある出店に声をかける。
香ばしい香りと、脂に火が通っていく音が、耳と鼻の両方から食欲をそそる。
「おっ、プゥ殿下じゃねぇの!今日はもう仕事終いかい!」
「まあ、そんな感じー」
「その言い方じゃあ、まーた仕事を抜け出してきたなー?」
「それはマジで違うよ!」
「ホントかよ殿下ぁ!」
ガハハと豪快に笑う店主。そのまま何個食べるかと聞かれ、プラータは元気よく5つと答えた。
「カロンはいくつ食べる?」
「えっ?今5つって…」
「え?うん。俺は5つ食べるからカロンはいくつ食べる?って」
「ええ…」
カロンは思わず目を見張った。あの華奢な身体のどこにそんなに食べ物が入るのか、想像すらできない。
肩幅や筋肉の厚みなら、カロンの方が確実にあるのに。
「俺は…1つで大丈夫です…。」
「そう?じゃあおっちゃーん!1個追加で6つちょうだーい!」
「はいよー!」
こうして出てきたイカ焼き。屋台の店主と歓談しながら、それはそれは美味しそうにプラータはイカに食らいついた。
「プゥ殿下〜!焼き立てのピザがあるよ、食べて行くかい?」
お向かいの女将さんからも声がかかる。流石にイカ焼きを5個も食べた後では…と思ったのは、カロンのみ。
「食べるぅ〜〜〜〜!!!!」
「えっ!?殿下!!」
目を輝かせ、プラータはそのお店へと駆けていくではないか。
その後もそんなことが続く、続く…。
市場の半分以上の店は回ったのではないだろうか。
どの店舗でも、お店の人からの呼びかけにプラータは答えていた。全てのお店で目を輝かせ、見ているこちらがお腹いっぱいになりそうなほど、とろけた顔で食事を頬張る。店員や他のお客さんとの談笑は常に笑顔の花が満開に咲き乱れる。
必ずお礼と賛辞を伝え、キッチリ支払いをする。
プラータが入ったお店は、彼につられたようにお客さんが増えていった。
確かにカロンは、仕事を抜け出したプラータを探して市街地に赴くことが多かった。そういった際は必ず市民から「殿下ならどこどこに居る」と、情報提供があった。
それはこれ故だったのかと、カロンは今更ながら気づいた。
「あー、美味しかった!やっぱり俺たちの国の海鮮料理は最高だね!カロン!」
「そう、ですね…。」
あの量を食べたとは思えない、スッキリした顔でプラータが言う。普段の王宮の食事は到底足りなかったのではないかと、余計な心配がカロンの頭に浮かぶ。彼の笑顔は、カロンには一瞬、子供のように無邪気に見えた。
そんなプラータの表情にふと、影が落ちる。
「本当に…いい国だよ。ここは。」
哀愁漂う横顔。彼の裏にあるものに、誰もが気づけるわけではない。
ーーー
西領に向かうため、水路のそばで船を待つプラータとカロン。
大聖堂の近くを流れるその小川は、華やかな市街地とは一変してとても静かだ。
小鳥のさえずりと川のせせらぎが穏やかなデュエットを奏でる。木々が寄り添い、夕日の木漏れ日が踊っていた。
「あっ」
ふと、見知った人影に気付いたプラータが声を漏らす。彼の視線の先は大聖堂の裏庭。軍服を着た金髪の少年が、彼より背の高い女性司祭と仲睦まじく話していた。
その少年こそ、テオ・プラトニアクス。ウスタシュ宰相の養子であり、ルーナの義理の弟だ。
隣にいる女性は、彼の恋人だろう。
テオは彼女に断りを入れて、こちらへ駆け寄ってくる。彼もまた、こちらに気づいたのだ。
そんなテオを見て、カロンは声をだしてしまったプラータをどつく。プラータのほうも、しまった、と顔に描いてある。
テオは顔に大きな傷跡があり、左目がよく見えていない。その代わり、耳がとてもいいのだ。
恋人との逢瀬を邪魔するなど、この世で最も無粋な行為だろう。
あっという間にこちらへ着いたテオは、カロンに向き直り口を開いた。
「カロン。どうしたんだそんな大荷物で。」
学園時代から競い合うライバルなカロンとテオ。2人は揃って学年首席であり、海軍入隊後にどちらも王子の側近になっている。お互い、意識するなというほうが難しい。
「…まさかとは思うが、帰省じゃないよな?」
チラ、とプラータを一瞥して、テオはカロンに尋ねる。もちろんプラータの追放はテオも知っている。
「不敬だぞ、テオ。俺はプラータ殿下の側近。殿下の行くところが俺の行くところだ。」
硬い岩のような意志。カロンのそれを嫌でも感じたテオは、譲れないというようにカロンを睨み返す。
「陛下暗殺を企てたんだぞ?それでも付き従うってのかよ。」
「逆に聞くが、テオは本気でプラータ殿下が陛下を暗殺しようとしたと思ってるのか?」
「それは…思えねぇけど。でもじゃあ、シルヴァラ殿下がプラータ殿下に濡れ衣着せたって?それこそありえねぇ!」
忠義も性格もアツい2人が火花を散らす。双方一歩も引かず、一触即発の空気だ。
「まあまあ2人とも!シルもなんか考えがあってだろうし、俺は追放に納得してるから!な?な?」
慌てて間に入るプラータ。咄嗟にシルヴァラのことを愛称で呼んでしまったのは、双子揃って実の弟のように可愛がっていたテオが相手だからだろうか。
「っ……、勝手にしろ」
言葉を詰まらせるテオ。彼はそのまま視線をそらすと、踵を返して裏庭の方へと戻っていく。
拳をぎゅっと握りしめた手が、何かを必死に抑え込もうとしているかのようだった。
彼の背中は、いつもの自信に満ちた姿と違い、どこか小さく、淋しげに見えた。
To be continued...

