あの春にだけ、君がいた。


 独り言のような告白をします。
 読んでも。読まなくても。笑っても。気付かなくても。……いいよ。


 小学二年生の頃。遠方に住む叔父が、私たちの住む地方を訪れた際に。空港で買ってくれた物がある。金貨を模したチョコレートだ。

 筒状の透明なケースに、二十枚は入っていたんじゃないかな。キラキラした包み紙には、チョコレートの表面にある模様が浮き出ている。
 食べるのが、もったいないと思うくらいに。綺麗だった。

 ずっとずっと包みを開かず、筒に入れたまま。机の端に飾って、事あるごとに眺めていた。

 六年生になり、隣の席になった子に挨拶した。「隣だね。よろしく」といった具合に、笑みを向ける。相手が……以後の私に、強い影響を与えるとも知らずに。
 
 紆余曲折あって、同じ時間を過ごす内に。ひと時、笑い合う場面を迎える。
 突然、何の脈絡もなく。顔が熱くなって。鼓動に痛みを覚える。
 
 少女漫画の主人公の状態を、実際に体験したと理解する。

 知ってしまって、後悔した。
 自覚して……何もかも、めちゃくちゃになった気がする。「私が、私じゃなくなってしまったのでは?」と、疑わしい程の変化があって。うまくいかない。望みと行動が、一致しない。
 強く焦がれている癖に。対応がぎこちなく、ちぐはぐ。挙動不審って言うか……凄く変。


 金貨のチョコレートは、飾って眺めるだけだった。何年も置いていたから、当然なんだけど。カビが生えていて、捨てるしかなかった。結局、食べないで終わった。

 恋心も。叶える為に動く事もないまま。重ならない人生を歩んで行く。きっと、これからも。まみえる日は、来ない。


 「あの時、ああすればよかった」と考えるくらいなら。本当の望みを閉じ込めるくらいなら。世界中の人に反対されたとしても……自分くらいは、味方でいたって……よかったよね?

 傷んで捨てたチョコレートは戻らない。もう二度と間違わないように、生きていくしかない。

 
 バレンタインの時期に、近所にあるスーパーでチョコレートを見ていた事がある。当時、偶然にも彼と会った。

 「誰にあげるの?」と聞かれた。「もしかして、オレ?」とも。

 私は首を横に振り「お父さん」と答えた。父や弟に義理チョコをあげようと選んでいたし。

 多分……その頃は、まだ。恋心を自覚していなかった。


 中学生になって、母の勧めで塾へ通う。塾には何と、彼も通っていた。
 初日に念じた。彼が話し掛けてくれますようにと。

 帰り際、彼に話し掛けられた。「一緒に帰らん?」と。とても嬉しかった。「うん、いいよ」と、頷いて了承する。

 けれど。一緒には帰れなかった。
 
 同じ塾に通う女子の三人組に、一緒に帰ろうと言われた。彼も含めて、五人で帰るのだと思った。女子の内、二人が私を引っ張り……強引に外へ連れ出す。もう一人……一緒にいる筈の女の子と、彼が来ない。側を歩く女子二人に、どういった事情なのか尋ねるけど「いいの!」と言われた切り、教えてもらえなかった。
 
 後から……何十年も経った、今頃になって気付く。
 私たちと一緒に帰らず教室に残った女の子も、彼を好きだったのだと。

 自分が鈍感過ぎて。怒りを通り越して、諦めに笑う。
 WSSだ。あはは。

 
 会いたいかと問われれば、会いたいし。
 振られるにしても、告白をしておけばよかった。以降の迷いが、なかった筈だから。

 ずっと残してしまった想いは。今、ここに……小説として贈る。
 渡せなかった、バレンタインチョコレートの代わりに。

 読んでも。読まなくても。笑っても。気付かなくても。……いいよ。
 私が伝えたいだけだから。

 何十年も生きてきたのに。たった一人だけだった。
 私が恋をしたのは、あなただった。

 もう触れられない春に、擦れ違っただけの。愚かな片想い。