「えへへっ、やっぱり可愛い子は増えていくものだね」
「それはそうだけど…はあ、もう少し遠慮という物を自覚しなさいと言っているのに、ちゃんとおれの言うことを聞いてよ」
軽く説教のつもりではなの頭をグシャグシャに撫でてボサボサにする男。
その二人が突然羽の館に来たことが信じられずに口をカクカクと震わせる音羽《おとは》と奏《かなで》。
「……」
はなって…わたし、この名前知っているような知らないような…。
「……ど、どどどどどどうしよう!?」
はなって、花の歌姫のトップだよね?
どうしてここに…って、僕の本音聞かれてないよね!?
二人ともなにが起きているのか全く理解できないのは当然のこと。
だけど、はなと男は楽しそうにじーっとこちらを見ている。
「えへっ」
羽音《はおん》ちゃん、本当に可愛い!
「ふふっ」
あの王子様は中々面白い物を持っている。
おっと、おれの自己紹介をしないと。
「コホン。おれは律《りつ》と言います。自己紹介が遅れてしまってすみませんが、どうぞよろしくお願いします」
背中まで伸ばされた黄緑色の細い髪を後ろで一つ結びにし、桃色の少し尖った瞳。
口調は丁寧だが、はなに対しては少し厳しい一面もあるちょっとズレた二十代前半と見られる青年。
律《りつ》の自己紹介を聞いた音羽《おとは》と奏《かなで》は少し二人の正体を知ったことで安心して次はこっちの番だと自己紹介を始める。
「初めまして、心瀬音羽《こころせおとは》です。羽の歌姫の羽音《はおん》として活動しています。それで、隣にいるのは」
「奏《かなで》と言います。羽音《はおん》の王子様に選ばれました」
きちんとお辞儀をして笑顔で挨拶をした音羽《おとは》と奏《かなで》だが、ずっと気になっていることをお互い顔を合わせて頷き、音羽《おとは》が右手を静かに手を挙げてはなに質問する。
「あの、その…はなさんが二十三歳って本当ですか?」
「本当だよ。全然そう見えないのは仕方ないけど…これでも大人だよ。あっでも、大人だけど、あなたと仲良くなりたいからタメ口で話してほしい。気を遣われるのはあまり好きじゃないから」
この見た目のせいでわたしは全てを失った。
失ったけど、こんなに可愛い子と出会える機会は中々ないから大切にしたい。
それに友達になりたい!
はなは大人だ。
年をとっても体は成長を終えて子供のままだが、しっかりとした性格と大人の落ち着いた雰囲気を纏うほどの冷静さを魅せている。
そんな理想的な姿が音羽《おとは》は羨ましく思い、天使の微笑みのような優しい笑顔を見せてこう言った。
「はなちゃん、わたし、あなたの親友になりたい」
その微笑みが自分の全てが救われたように心から喜びを感じたはなは満面の笑みの笑みでその手を握り頷いた。
「もちろんだよ! 親友…素敵な響きだね。楽しい!」
はなの笑顔はずっとそばで見ていた律《りつ》はちょっと子離れみたいな寂しさを感じつつ、拍手でその姿を祝福する。
「はな、おめでとう。君がこんなに楽しそうに笑えるならおれはそれを応援するし、これからも見守るよ」
これは本心だ。
やっとはなに友達、親友ができた。
このことは歴史に新たな革命が起きていると思っても良いくらいに成長した。
今までの苦労に比べたらこんな簡単なことも…もっと早くできたかもしれないな。
まあ、それは誰にも分からない、きっとあの方も知ることがなかったかもしれない。
「ふっ、おれもなにか変わるといいな」
お姫様にも悩みがあるように王子様にも考えがある。
誰よりも近い存在で、誰よりも遠く離れている関係になることも想像できる。
だからこそ。
「あっ! いいこと思いついた!」
突然大声でなにかを思いついたはなは軽くジャンプをし、律《りつ》の肩に左手で触れてこう言う。
「今からわたしのステージ見て。お花いっぱいの可愛い可愛いわたしのステージ。絶対に後悔させないから見ててほしい」
可愛いステージ。
音羽《おとは》にとってその言葉はまるで魔法使いの魔法にかかったような綺麗な薔薇が空から舞い降りた光景が頭に浮かんで歯を見せる元気な笑顔で頷いた。
「うん! はなちゃんのステージ見たい!」
その笑顔が見られたことではなのやる気は燃え上がる炎みたいに全身に力を込めて一度律《りつ》と羽の館から出て一分もかからない隣の色とりどりの花が館いっぱいに咲かれたピンクの館でドレスに着替えたはな。
「よし、今日はこのドレスで決まり」
「張り切ってるな。そんなに親友を好きになって良かったよ」
「当然でしょ。わたしは嘘をつかない。嘘で汚されたこの世界に花を咲かせられるのはわたしだけ」
「そうだな。まさにはなにふさわしい仕上がりになってるよ。自信たっぷりの君に似合うのはおれしかいない」
「へぇ、中々言うようになったね。でも、その通りかもね。わたしたちが誰よりも頂点に立つべき存在。君との約束は必ず果たす」
「ああ、さ、行くぞ」
「うん」
手を取り重ね合う二人の息の合った姿勢。
羽の館にある大きな扉に描かれているのは真っ赤な薔薇。
この扉の先にはステージが待っている。
それはどの歌姫にも共通する。
王子様のエスコートで扉の先に待つステージに行くためにはティアラが必要不可欠。
もちろん今のはなにも真っ赤な薔薇の花びらがティアラの形全てに飾られて中央には薔薇の花がある。
ティアラの色は銀。
これも当然天声《あまごえ》が選んだ証。
「羽音《はおん》ちゃんの笑顔もわたしがあなたに似合う花で咲かせてあげる」
今回のステージテーマは「笑顔」。
そのテーマに合う花は色々あるが、はなが選んだのはティアラに飾られた赤色の薔薇。
真っ赤な薔薇の花はドレス全体に型を取り布で縫った刺繍のような芸術作品。
主体となるドレスは白。
白は主に羽の歌姫が使う色だが、花のトップのはなはなんでも自由に色を使うことができる。
薔薇のティアラに薔薇のドレス。
それが似合うのははなだけ。
はなにしか着られないドレスが今ここにある。
「さ、頑張って」
扉を抜けた先には真っ白なステージと数えることなどできないほどの何百人と超える観客の声が聞こえてくる。
「花音《はなね》ちゃーん!」
「今日も花咲かさせて」
「可愛い花音《はなね》ちゃんのステージ楽しみ!」
たくさんの応援の声を一緒に観客席で見る音羽《おとは》と奏《かなで》。
「花音《はなね》ちゃんって言うんだ…はなちゃん」
「そうだよ。はなちゃん、花音《はなね》ちゃんは花のトップ、世界の特別な存在だよ」
歌姫の中でも上下関係がある。
が、今はそれよりも、音羽《おとは》は花音《はなね》のステージだけを見て奏《かなで》の話は全く聞いていないが、ステージからその姿が見えた花音《はなね》はクスッとちょっと面白そうに笑って瞬きをして集合力を高める。
「人が人を笑顔にするように、花も香りで生き物に幸運をもたらす」
合図の言葉を天声《あまごえ》に贈り、ピンクの羽がドレスに触れたことで曲がかかる。
「あなたの笑顔、わたしに守らせて。守ったお返しにわたしといつまでも一緒に居て」
真っ赤な薔薇がステージの下から花を咲かせてトゲも茎も全て下から上へ伸びていく。
「やっぱり…そうなのね。あなたはわたしよりも他の人を選ぶ、けど、わたしはいつまでもあなたに似合う花で笑顔を咲かせる。それだけでいいから、ねえ、笑って」
ちょっと切ない、ただ一人を笑顔にする小さな力がこの真っ赤な薔薇が天井から花びらが舞い落ちて観客席まで伝わってステージの色が白から羽音《はおん》とは違うちょっと薄めの恋をイメージした可愛らしい赤色に染まる。
そして、最後に。
「あなたの笑顔がわたしに全てをくれた。ありがとう」
この歌詞に込められた想いがどういう意味なのかは花音《はなね》だけが知っている。
まるでそれを誰にも知られたくないような嘘の笑顔でステージに真っ赤な薔薇を咲かせたように…。
ステージから降りて私服に着替えたはなは見てくれていた音羽《おとは》はニコッとちょっと嬉しそうに遠慮がちな笑顔でこう質問する。
「音羽《おとは》ちゃんは私の前から離れないでくれる?」
今までわたしは誰もわたしと長く一緒に居てくれたのは律《りつ》だけだったけど、初めてできた親友の音羽《おとは》ちゃんにはなにがあってもわたしから離れないでほしい。
微かな希望を胸に抱き続けてもう何年経ったのかは数えていないはな。
それほど人付き合いというものに何度も何度も悩まされて生きてきた。
でも、音羽《おとは》はきっと。
「大丈夫だよ。わたしははなちゃんと離れる気は全くない,むしろはなちゃんがわたしから離そうで怖い」
そっと奏《かなで》みたいに毛布で暖かく包み込むようにはなの両手を握る音羽《おとは》の姿に、はなはとても嬉しそうに悩んでいたのがバカみたいだと歯を見せる元気な笑顔で頷いた。
「うん! 嬉しい、ありがとう!」
三日後。
平日に変わっていつも通り学校に通う音羽《おとは》と音陽《ねひ》。
「お姉ちゃん、花の歌姫のはなさんと親友になったこと、本当にすごいよ」
「うん、自分でも正直驚いてるよ。花音《はなね》ちゃんのステージを見た時こう思ったんだ。『可愛い』は人によって形が変わるんだと知ってすごく勉強になった」
音羽《おとは》がはなと親友になったことを知った音陽《ねひ》は特に驚くこともなく、ただどこかライバー心を抱いて悔しくても「おめでとう」と抱きしめて祝福した。
花音《はなね》のステージを観られるのは誰にとっても光栄なこと。
限られた人にしか招待されない特別な一時。
それに参加できた音羽《おとは》は運が良かった。
「お姉ちゃん、もうすぐテストだね」
「あっ、そっか。今日から復習と予習をしないとね」
そう、歌姫になってからすっかり学校のことを忘れていた音羽《おとは》だが。
「きっと大丈夫。わたしが一番で音陽《ねひ》が二番目、でいいんだよね?」
「うん! それが私にとっては一番嬉しい。お姉ちゃんはいつも私のことを考えてくれるから、私はそれだけで幸せだよ」
テストの成績はいつも音羽《おとは》が一位で音陽《ねひ》が二位だとお互いが納得し合って決めたこと。
その理由はまた次の話で…。
「お、音羽《おとは》音陽《ねひ》おはよう」
「おはよう、二人とも」
「今日も仲が良くて羨ましい」
毎日決まって挨拶をしてくれるクラスメイト。
音羽《おとは》は嬉しそうに笑うが、音陽《ねひ》はめちゃくちゃ機嫌悪そうに睨みつける。
「ちょっと、私とお姉ちゃんをまとめて挨拶するのやめて。私たちは双子だけど、性格は全く違うんだからその違いを少しは理解して。分かった?」
音陽《ねひ》は人を睨んでいるが、それは本音ではなさそう。
きっとどこか自分の中で戦っている。
自分がなにをしたいのか、どうすれば音羽《おとは》に近づけるのか?
色々な答えに惑わされて吐き気がするほど自分を理解できていないのもまた事実。
「ごめんな。俺お前と比べて全然頭悪いからそんなこと分からなくて」
「ふん、まあ、気をつけてくれるだけでもいい」
ツンデレなのか照れ屋なのか曖昧な音陽《ねひ》。
授業に集中できるのだろうか?
今日全ての授業が終わりなり放課後になった。
「お姉ちゃん、帰ろう」
「うん。みんな、また明日」
音羽《おとは》が手を振り教室を出ると。
「おう、また明日な」
「今日もありがとう」
「歌姫の話、もっと詳しく聞かせてね」
クラスメイトはいつもと変わらず同じように手を振ってくれる。
「ふん、みんな調子になってバカみたい」
まだまだクラスメイトと打ち解けることが難しい音陽《ねひ》は音羽《おとは》の手を掴んで心を落ち着かせてそのまま靴に履き替えて外に出ると、見覚えのある人を見つけた。
「あれ? あの人って…律《りつ》さん?」
スマホをポチポチ右手で必死に操作しながら動揺なのか、瞳が激しく揺れ動いてなにか起きているのは間違いなさそう。
「ちょっと声かけてみる」
掴まれた音陽《ねひ》の手をそっと下に降ろして少し急いで走って律《りつ》の元に着いた音羽《おとは》が
「あの」
と声をかけたら。
「音羽《おとは》ちゃんですよね。大変なんです、はながはなが」
「はなちゃん?」
なにがあったんだろう?
「はなが家出したんです!」
大粒の涙を流しながらとうとうパニック状態に陥った律《りつ》はスマホを地面に投げつけた!
「ああああああああっ! どうしよう、どうしよう! はなーー!」
一体なにがどうなって起きてしまっているのだろうか?
「それはそうだけど…はあ、もう少し遠慮という物を自覚しなさいと言っているのに、ちゃんとおれの言うことを聞いてよ」
軽く説教のつもりではなの頭をグシャグシャに撫でてボサボサにする男。
その二人が突然羽の館に来たことが信じられずに口をカクカクと震わせる音羽《おとは》と奏《かなで》。
「……」
はなって…わたし、この名前知っているような知らないような…。
「……ど、どどどどどどうしよう!?」
はなって、花の歌姫のトップだよね?
どうしてここに…って、僕の本音聞かれてないよね!?
二人ともなにが起きているのか全く理解できないのは当然のこと。
だけど、はなと男は楽しそうにじーっとこちらを見ている。
「えへっ」
羽音《はおん》ちゃん、本当に可愛い!
「ふふっ」
あの王子様は中々面白い物を持っている。
おっと、おれの自己紹介をしないと。
「コホン。おれは律《りつ》と言います。自己紹介が遅れてしまってすみませんが、どうぞよろしくお願いします」
背中まで伸ばされた黄緑色の細い髪を後ろで一つ結びにし、桃色の少し尖った瞳。
口調は丁寧だが、はなに対しては少し厳しい一面もあるちょっとズレた二十代前半と見られる青年。
律《りつ》の自己紹介を聞いた音羽《おとは》と奏《かなで》は少し二人の正体を知ったことで安心して次はこっちの番だと自己紹介を始める。
「初めまして、心瀬音羽《こころせおとは》です。羽の歌姫の羽音《はおん》として活動しています。それで、隣にいるのは」
「奏《かなで》と言います。羽音《はおん》の王子様に選ばれました」
きちんとお辞儀をして笑顔で挨拶をした音羽《おとは》と奏《かなで》だが、ずっと気になっていることをお互い顔を合わせて頷き、音羽《おとは》が右手を静かに手を挙げてはなに質問する。
「あの、その…はなさんが二十三歳って本当ですか?」
「本当だよ。全然そう見えないのは仕方ないけど…これでも大人だよ。あっでも、大人だけど、あなたと仲良くなりたいからタメ口で話してほしい。気を遣われるのはあまり好きじゃないから」
この見た目のせいでわたしは全てを失った。
失ったけど、こんなに可愛い子と出会える機会は中々ないから大切にしたい。
それに友達になりたい!
はなは大人だ。
年をとっても体は成長を終えて子供のままだが、しっかりとした性格と大人の落ち着いた雰囲気を纏うほどの冷静さを魅せている。
そんな理想的な姿が音羽《おとは》は羨ましく思い、天使の微笑みのような優しい笑顔を見せてこう言った。
「はなちゃん、わたし、あなたの親友になりたい」
その微笑みが自分の全てが救われたように心から喜びを感じたはなは満面の笑みの笑みでその手を握り頷いた。
「もちろんだよ! 親友…素敵な響きだね。楽しい!」
はなの笑顔はずっとそばで見ていた律《りつ》はちょっと子離れみたいな寂しさを感じつつ、拍手でその姿を祝福する。
「はな、おめでとう。君がこんなに楽しそうに笑えるならおれはそれを応援するし、これからも見守るよ」
これは本心だ。
やっとはなに友達、親友ができた。
このことは歴史に新たな革命が起きていると思っても良いくらいに成長した。
今までの苦労に比べたらこんな簡単なことも…もっと早くできたかもしれないな。
まあ、それは誰にも分からない、きっとあの方も知ることがなかったかもしれない。
「ふっ、おれもなにか変わるといいな」
お姫様にも悩みがあるように王子様にも考えがある。
誰よりも近い存在で、誰よりも遠く離れている関係になることも想像できる。
だからこそ。
「あっ! いいこと思いついた!」
突然大声でなにかを思いついたはなは軽くジャンプをし、律《りつ》の肩に左手で触れてこう言う。
「今からわたしのステージ見て。お花いっぱいの可愛い可愛いわたしのステージ。絶対に後悔させないから見ててほしい」
可愛いステージ。
音羽《おとは》にとってその言葉はまるで魔法使いの魔法にかかったような綺麗な薔薇が空から舞い降りた光景が頭に浮かんで歯を見せる元気な笑顔で頷いた。
「うん! はなちゃんのステージ見たい!」
その笑顔が見られたことではなのやる気は燃え上がる炎みたいに全身に力を込めて一度律《りつ》と羽の館から出て一分もかからない隣の色とりどりの花が館いっぱいに咲かれたピンクの館でドレスに着替えたはな。
「よし、今日はこのドレスで決まり」
「張り切ってるな。そんなに親友を好きになって良かったよ」
「当然でしょ。わたしは嘘をつかない。嘘で汚されたこの世界に花を咲かせられるのはわたしだけ」
「そうだな。まさにはなにふさわしい仕上がりになってるよ。自信たっぷりの君に似合うのはおれしかいない」
「へぇ、中々言うようになったね。でも、その通りかもね。わたしたちが誰よりも頂点に立つべき存在。君との約束は必ず果たす」
「ああ、さ、行くぞ」
「うん」
手を取り重ね合う二人の息の合った姿勢。
羽の館にある大きな扉に描かれているのは真っ赤な薔薇。
この扉の先にはステージが待っている。
それはどの歌姫にも共通する。
王子様のエスコートで扉の先に待つステージに行くためにはティアラが必要不可欠。
もちろん今のはなにも真っ赤な薔薇の花びらがティアラの形全てに飾られて中央には薔薇の花がある。
ティアラの色は銀。
これも当然天声《あまごえ》が選んだ証。
「羽音《はおん》ちゃんの笑顔もわたしがあなたに似合う花で咲かせてあげる」
今回のステージテーマは「笑顔」。
そのテーマに合う花は色々あるが、はなが選んだのはティアラに飾られた赤色の薔薇。
真っ赤な薔薇の花はドレス全体に型を取り布で縫った刺繍のような芸術作品。
主体となるドレスは白。
白は主に羽の歌姫が使う色だが、花のトップのはなはなんでも自由に色を使うことができる。
薔薇のティアラに薔薇のドレス。
それが似合うのははなだけ。
はなにしか着られないドレスが今ここにある。
「さ、頑張って」
扉を抜けた先には真っ白なステージと数えることなどできないほどの何百人と超える観客の声が聞こえてくる。
「花音《はなね》ちゃーん!」
「今日も花咲かさせて」
「可愛い花音《はなね》ちゃんのステージ楽しみ!」
たくさんの応援の声を一緒に観客席で見る音羽《おとは》と奏《かなで》。
「花音《はなね》ちゃんって言うんだ…はなちゃん」
「そうだよ。はなちゃん、花音《はなね》ちゃんは花のトップ、世界の特別な存在だよ」
歌姫の中でも上下関係がある。
が、今はそれよりも、音羽《おとは》は花音《はなね》のステージだけを見て奏《かなで》の話は全く聞いていないが、ステージからその姿が見えた花音《はなね》はクスッとちょっと面白そうに笑って瞬きをして集合力を高める。
「人が人を笑顔にするように、花も香りで生き物に幸運をもたらす」
合図の言葉を天声《あまごえ》に贈り、ピンクの羽がドレスに触れたことで曲がかかる。
「あなたの笑顔、わたしに守らせて。守ったお返しにわたしといつまでも一緒に居て」
真っ赤な薔薇がステージの下から花を咲かせてトゲも茎も全て下から上へ伸びていく。
「やっぱり…そうなのね。あなたはわたしよりも他の人を選ぶ、けど、わたしはいつまでもあなたに似合う花で笑顔を咲かせる。それだけでいいから、ねえ、笑って」
ちょっと切ない、ただ一人を笑顔にする小さな力がこの真っ赤な薔薇が天井から花びらが舞い落ちて観客席まで伝わってステージの色が白から羽音《はおん》とは違うちょっと薄めの恋をイメージした可愛らしい赤色に染まる。
そして、最後に。
「あなたの笑顔がわたしに全てをくれた。ありがとう」
この歌詞に込められた想いがどういう意味なのかは花音《はなね》だけが知っている。
まるでそれを誰にも知られたくないような嘘の笑顔でステージに真っ赤な薔薇を咲かせたように…。
ステージから降りて私服に着替えたはなは見てくれていた音羽《おとは》はニコッとちょっと嬉しそうに遠慮がちな笑顔でこう質問する。
「音羽《おとは》ちゃんは私の前から離れないでくれる?」
今までわたしは誰もわたしと長く一緒に居てくれたのは律《りつ》だけだったけど、初めてできた親友の音羽《おとは》ちゃんにはなにがあってもわたしから離れないでほしい。
微かな希望を胸に抱き続けてもう何年経ったのかは数えていないはな。
それほど人付き合いというものに何度も何度も悩まされて生きてきた。
でも、音羽《おとは》はきっと。
「大丈夫だよ。わたしははなちゃんと離れる気は全くない,むしろはなちゃんがわたしから離そうで怖い」
そっと奏《かなで》みたいに毛布で暖かく包み込むようにはなの両手を握る音羽《おとは》の姿に、はなはとても嬉しそうに悩んでいたのがバカみたいだと歯を見せる元気な笑顔で頷いた。
「うん! 嬉しい、ありがとう!」
三日後。
平日に変わっていつも通り学校に通う音羽《おとは》と音陽《ねひ》。
「お姉ちゃん、花の歌姫のはなさんと親友になったこと、本当にすごいよ」
「うん、自分でも正直驚いてるよ。花音《はなね》ちゃんのステージを見た時こう思ったんだ。『可愛い』は人によって形が変わるんだと知ってすごく勉強になった」
音羽《おとは》がはなと親友になったことを知った音陽《ねひ》は特に驚くこともなく、ただどこかライバー心を抱いて悔しくても「おめでとう」と抱きしめて祝福した。
花音《はなね》のステージを観られるのは誰にとっても光栄なこと。
限られた人にしか招待されない特別な一時。
それに参加できた音羽《おとは》は運が良かった。
「お姉ちゃん、もうすぐテストだね」
「あっ、そっか。今日から復習と予習をしないとね」
そう、歌姫になってからすっかり学校のことを忘れていた音羽《おとは》だが。
「きっと大丈夫。わたしが一番で音陽《ねひ》が二番目、でいいんだよね?」
「うん! それが私にとっては一番嬉しい。お姉ちゃんはいつも私のことを考えてくれるから、私はそれだけで幸せだよ」
テストの成績はいつも音羽《おとは》が一位で音陽《ねひ》が二位だとお互いが納得し合って決めたこと。
その理由はまた次の話で…。
「お、音羽《おとは》音陽《ねひ》おはよう」
「おはよう、二人とも」
「今日も仲が良くて羨ましい」
毎日決まって挨拶をしてくれるクラスメイト。
音羽《おとは》は嬉しそうに笑うが、音陽《ねひ》はめちゃくちゃ機嫌悪そうに睨みつける。
「ちょっと、私とお姉ちゃんをまとめて挨拶するのやめて。私たちは双子だけど、性格は全く違うんだからその違いを少しは理解して。分かった?」
音陽《ねひ》は人を睨んでいるが、それは本音ではなさそう。
きっとどこか自分の中で戦っている。
自分がなにをしたいのか、どうすれば音羽《おとは》に近づけるのか?
色々な答えに惑わされて吐き気がするほど自分を理解できていないのもまた事実。
「ごめんな。俺お前と比べて全然頭悪いからそんなこと分からなくて」
「ふん、まあ、気をつけてくれるだけでもいい」
ツンデレなのか照れ屋なのか曖昧な音陽《ねひ》。
授業に集中できるのだろうか?
今日全ての授業が終わりなり放課後になった。
「お姉ちゃん、帰ろう」
「うん。みんな、また明日」
音羽《おとは》が手を振り教室を出ると。
「おう、また明日な」
「今日もありがとう」
「歌姫の話、もっと詳しく聞かせてね」
クラスメイトはいつもと変わらず同じように手を振ってくれる。
「ふん、みんな調子になってバカみたい」
まだまだクラスメイトと打ち解けることが難しい音陽《ねひ》は音羽《おとは》の手を掴んで心を落ち着かせてそのまま靴に履き替えて外に出ると、見覚えのある人を見つけた。
「あれ? あの人って…律《りつ》さん?」
スマホをポチポチ右手で必死に操作しながら動揺なのか、瞳が激しく揺れ動いてなにか起きているのは間違いなさそう。
「ちょっと声かけてみる」
掴まれた音陽《ねひ》の手をそっと下に降ろして少し急いで走って律《りつ》の元に着いた音羽《おとは》が
「あの」
と声をかけたら。
「音羽《おとは》ちゃんですよね。大変なんです、はながはなが」
「はなちゃん?」
なにがあったんだろう?
「はなが家出したんです!」
大粒の涙を流しながらとうとうパニック状態に陥った律《りつ》はスマホを地面に投げつけた!
「ああああああああっ! どうしよう、どうしよう! はなーー!」
一体なにがどうなって起きてしまっているのだろうか?


