選ばれた歌姫

コンテスト六日目。
この日は華恋VS羽音の対決。
「わたくしの華やかさに勝てるとは思わないことね」
「いいえ、勝つのはわたしです」
華やかに豪華に微笑む華恋《かれん》と天使の微笑みのような暖かさを持つ羽音《はおん》の対決をどうぞご覧ください。


華恋《かれん》。
「うふふふふふふふっ! 今回は赤ピンクの椿で勝負しますわ!」
色を変えれば誰にでも勝てる。
空音《そらね》との対決でそれが分かった。
わたくしの椿は色が限られているけれど、使い方を上手くコントロールすれば無限に華を咲かせられる。
「なんて最高な気分なのかしら」
自信に満ち溢れて高笑いをしドレスの準備もバッチリ整えた華恋《かれん》に、舞《まい》も嬉しそうに微笑んでそっとさりげなく手を握る。
「華恋《かれん》様、今日も勝てると俺は信じています。華恋《かれん》様のステージは誰にも止められない唯一無二の物です。俺はただエスコートするだけですが、いつも華恋《かれん》様の隣で見守っています」
俺にできることからなんでもする。
俺は華恋《かれん》様の王子様に選ばれたんだ…ご主人様の言うことはできる限り叶えるんだ。
舞《まい》の持つ真剣さと熱い想いが込められた眼差しが華恋《かれん》のやる気をもっと引き立たせて華やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、わたくしの願いはいつも舞《まい》が叶えてくれる。確かに王子様は歌姫をエスコートするのが仕事だけれど、わたくしはそれだけではないと思っているわ」
「つまり?」
「つまり愛おしいということなのよ」
「えっ」
「わたくしだけではない、他の歌姫の皆さんも同じことを思っているはずよ。王子様のエスコートなしにステージには立てない、手を握ってくれない。寂しい時も悲しい時も、いつもそばにいてくれるあなたたち王子様にわたくしたち歌姫はいつも救われているのよ。だから、もっと自信を持ちなさい」
その言葉で、舞《まい》は満面の笑みで深く頷き抱きしめる。
「ありがとうございます。その言葉、心に刻みます」
「ええ、忘れてはダメよ」
「もちろんです」
「うふっ、では行きましょう」
今回のドレスの主体となる色は薄ピンク色。
赤ピンクの椿の花びらがドレス全体に散りばめられた少し切なくもまた咲かせたいという想いが込められた一着。
胸元にはその椿が飾られた華やかさ抜群の物。
あとはティアラを頭に飾れば準備完了。
「うふふふふっ、お羽さんのステージがどんな物になるのか、楽しみにしているわ」
今回もどんな華やかなステージが見られるのか。


羽音《はおん》。
「わたしの天使の羽で華恋《かれん》さんに勝つ」
今回のドレスは薄紫色を主体とし、紫色の羽がまるで背中に生えたようにリボンで形を作り、またその羽が襟から裾へ隅々まで天使の羽をイメージした神秘的な一着。
あとはティアラを頭に飾り準備完了。
「うん、このドレスで勝負する」
初めて戦う人とどんなステージが作れるのか楽しみ!
不安や怖いという気持ちよりも、羽音《はおん》は楽しむことは大切に前を向いて鏡の自分に笑いかける。
「大丈夫。わたしなら勝てる」
だって、こんなにドキドキするほど楽しみなことは久しぶりだから。
羽音《はおん》が作り出す天使の羽は誰も見たことない神秘的で天に高く羽ばたくような特別な力を持っている。
「羽音《はおん》ちゃん、今日のドレスも超似合ってる! マジで本物の天使みたいで気分爆上がりだよ!」
いつも通りギューッと羽音《はおん》のドレス姿に感動しすぎてついつい抱きしめるほど絶好調な奏《かなで》。
はぁ~、僕の天使はマジ可愛すぎてチョコみたいにドロドロに甘く溶けてしまいそう〜。
少し不気味に感じるほどに自分で自分の舌を舐め回す奏《かなで》の姿は本当に気持ち悪いが、羽音《はおん》は全く気づかず、ただ抱きしめられたことを喜びに感じて頬を真っ赤に染めている。
「ふふっ」
奏《かなで》の手は温かい。
毛布に包まれている感じで心地良くて、いつまでもこうしていたい。
「わたしの王子様が奏《かなで》で嬉しい」
「えっ、急にどうしたの?」
僕、なにか変なこと言ったのかな?
羽音《はおん》の言葉全てに奏《かなで》は毎回ドキッとして舐め回していた舌を口の中に引っ込ませて恐る恐る羽音《はおん》と瞳を合わせたら
「やっと瞳が合ったね」
と、美しく清らかな笑顔を見せられたことで心から安心した奏《かなで》。
「ははっ、羽音《はおん》ちゃんには敵わないなぁ〜」
「えっ、なにが?」
わたし、なにか変なこと言ったかな?
不思議そうに首を傾げる羽音《はおん》の頭を奏《かなで》がポンッと優しく撫でた。
「僕には持ってない物を、羽音《はおん》ちゃんはたくさん持ってる。僕の方こそ、君が歌姫で良かった」
心からそう思ってる。
僕たちは似た者同士だね。
「わたしたち、もっと仲良しになれたね」
心からそう思いたい。
わたしたちは過去も未来もずっと離れたりしない。
「さあ、行こう」
「うん、絶対にわたしが勝つ」
二人仲良く手を繋ぎステージへと向かう。


「さあ、今日は二回戦二日目。華恋VS羽音の対決は一体どちらが勝つのでしょうか? 華やかさか、羽の音色か。ワタシも正直この対決の結果が知りたくて昨日の朝から今日の朝まで眠れず自画像を描くしかありませんでした…ということは置いておいて、今回は空音《そらね》に勝利した華恋《かれん》と三人の音を掴んだ者の中から選ばれ復活をした羽音《はおん》のお互い譲れない想いを胸に戦うステージをぜひご覧いただきましょう!」
今日の異等義《いらぎ》はいつもより二倍高くテンションが上がり何度もコロコロ転がったり起き上がってはジャンプをしての繰り返しで全く落ち着きがないが、実際ナレーションをしている私もワクワクしている。
それぞれ王子様のエスコートで扉の中に入り、生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
会場の熱気が二人の登場で湯気のように沸き上がる。
「羽音《はおん》ちゃん、早く歌って!」
「華恋《かれん》様!」
「二人のステージ見たーい」
この前の空音《そらね》との対決で華恋《かれん》にも少しずつファンが増えている。
「うふふふふふっ! もっと、もっと聞かせなさい、あなたたちの声を!」
こんなに気分が良いのは初めてだわ。
やっぱりファンというのは必要なことなのね。
だが、羽音《はおん》はもっと喜んでいる。
天使の微笑みのような暖かくも愛おしいこの顔は誰が見ても癒される。
「ふふっ」
みんなの応援がすごく嬉しい。
わたしのステージを楽しみにしてくれているって、この応援がそれを表してくれているの。
二人の気分が高まったところで証明が一旦消える。
今回のステージテーマは「祈り」。
どんなステージを描いてくれるのか。
「わたしの祈りは天使のよう」
「わたくしの祈りは華のよう」
二人声を重ねて。
「今この時の祈りを大切にわたし《わたくし》の祈りをあなたに魅せましょう」
まずは華恋《かれん》から。
「一人の少女が道に迷ったみたい。少女は誰からも愛されず一人ぼっちで生きてきたけれど、ただ一つだけ、少女は祈る」
赤ピンクの椿が地面から浮き出るように、木が水に沈んでそこから泡のように椿がどんどん湧き出る不思議な光景。
「その祈りは華を魅せること。可愛い花よりも、豪華な華が少女が一番愛している物。だからわたくしはその祈りを叶える。少女が祈る人生全てを華やかに染め上げるのよ」
うっふふ。
どうかしら?
わたくしの形はあなたには作れない。