四日目。
この日は敗者復活戦。
「さあ、音を掴んだ者が敗れ、敗られた者が勝者となったこのコンテストの行方は一体どこへ向かっているのでしょうか!?」
今日はリコーダーを口と鼻と耳で意味の分からない音で曲を奏でる異等義《いらぎ》の不思議な光景は何度見ても面白いのかもしれない。
敗者復活戦となれば羽音《はおん》、花音《はなね》、空音《そらね》の中の一人が復活となり、二回戦に参加できるという対決。
「どうしますか?」
「はあ、別にどうでもいいよ」
「私はもう、自信がありません」
仲の良い三人が羽音《はおん》の楽屋に集まって会議をしている。
本来なら三人それぞれソロでステージに立って天声から選ばれた結果で二回戦進出が確定するが…三人はステージで争うよりも話し合いで決めるようだ。
「わたしは星宙《ほしぞら》さんに勝てる自信がないです…」
「わたしは、負けたけど、あれは大人の体だったら負けてなかった。全部この体が悪いよ」
「私も我も…華恋《かれん》さんに否定されたことがショックで立ち直ることができないみたいですね」
三人とも自信をなくし、勝者に勝てることを諦めているのもまた事実。
羽音《はおん》は今の自分に対して形の使い方を見失ったのが原因。
花音《はなね》は自分の体、体力の差で力尽きたのが原因。
空音《そらね》は私と我、二人を否定されたことで思い通りのステージを作れなかったのが原因。
三人とも自分の短所を見破られたことで負けたのも仕方のないこととも言えてしまう現実。
自信を失くした「音」たちはこれから自分がステージに立つことに不安を抱えて落ち込み床に正座してまるで反省会をしているようにも見えてしまう。
「わたしたちはどうすればあの三人に勝てると思いますか?」
「うーん、難しい質問だね」
「はい…というか、もう我はステージには立てない」
我らを否定した華恋《かれん》に勝ちたいという気持ちはあるが、我は一度失敗してしまったら次に立つのに遅くて三ヶ月経ってしまうから…ここは我以外の二人に任せるしかない。
華恋《かれん》に敗れた空音《そらね》は常に自信に満ち溢れて好き勝手にステージに立ち続けていたが、昨日の結果で相当なショックを受けて家に帰ってから今日の昼までなにも食べていないほどダメージを食らっている。
「我はお前たちのどちらかに我の想いを全て授ける」
「え!?」
空音《そらね》さん、本気で。
「ふーん」
空音《そらね》がここまで本気なら仕方ないよ。
唇を血が垂れるまで噛み締めてほんのちょっとだけ涙を瞳の中で抑える空音《そらね》の姿に、羽音《はおん》と花音《はなね》はお互いを顔を合わせて頷き、それぞれ笑顔で空音《そらね》の手を握った。
「空音《そらね》さんの想い、確かに受け取りました」
「君がそこまで本気ならわたしたちのどちらかが君の分までステージに立つ」
二人声を重ねて。
「だから、泣きたい時は素直に泣いていい」
天使の微笑みに近い笑顔。
可愛らしい花のように笑う愛おしい笑顔。
羽音《はおん》と花音《はなね》のそれぞれの笑顔が空音《そらね》の素直な想いを気づかせ、大粒の涙を流しながら二人を抱きしめる空音《そらね》。
「うう、くっ、ああああ! 悔しい!」
誰にも見せないように涙を堪えていた空音《そらね》がこんなにも悔しそうに二人に体を寄せて涙を流すその姿は本当に心苦しい。
「我は勝ちたい、勝ちたいが、全く自信がないから今は無理だ。だから、二人のどちらかがステージに立って優勝してくれ…お願いだ」
その言葉で、花音《はなね》は改めて自分の体を見て羽音《はおん》にこう言った。
「君がステージに立ってよ。もう、君しかいない」
花音《はなね》から真剣に本気な眼差しを向けられた羽音《はおん》は一瞬戸惑い瞳を激しく揺らしたが、深く頷いて覚悟を決める。
「分かりました。二人の想いを背負ってわたしが優勝します」
二人のために、わたしができることがあるなら、精一杯その想いに応える。
だって、二人はわたしの「親友」だから。
でも、ちょっと気になることがあるの。
「わたしが敗者復活するのはいいんですけど、わたしだけステージに立つのはいいんですか?」
首を傾げて質問する羽音《はおん》に、花音《はなね》と空音《そらね》がポンッと優しく頭を撫でた。
「うん、もう代表が決まったから、君だけステージに立つんだよ」
「そうだ。代表にふさわしいステージを作ってくれ」
二人の可愛らしい笑顔と怪しく麗しく微笑む姿に安心した羽音《はおん》も優しく暖かみのある笑顔で頷き、立ち上がる。
「わたし、行ってきます!」
「うん、頑張って」
「期待しているぞ」
こうして敗者復活戦の勝者は勝手ではあるが、三人話し合いの結果で羽音《はおん》が選ばれた。
そして今から復活にふさわしいステージを作り出す。
「ドレスはこの前の大会で着た物でいいよね」
天声《あまごえ》がくれた「音を掴む者」で着たドレスはまた悪魔のような闇のステージを作ってしまう気もするが、それをコントロールできるなら構わないのだろう。
「わたしのステージ、ちゃんと届けたい」
たとえわたしがどうなっても、たとえステージが壊れることがあっても。
その先にわたしの輝きの未来が待っているならわたしはその道へ進むだけ。
「大丈夫。わたしならでき」
「本当にそう思ってる?」
聞き覚えのある風を引いてかのようなかすれた声。
音羽《おとは》はその声の主をよーく知り、後ろを振り向いたらそこには。
「えっ、天声《あまごえ》ちゃん…」
そう、真っ黒なワンピースを身に纏い、前髪で全く顔を見せない天声《あまごえ》が拳を握りしめて今にも音羽《おとは》の顔を傷つけさせような怖い雰囲気を出している。
「あなたが復活に選ばれたのはいいけど、でも…あなたのその輝きはすぐに消えてしまう」
音羽《おとは》が今持っているその輝きはとても危険な物。
使い方を間違えてしまったら、わたしみたいになってしまう…それは絶対に避ける。
天声《あまごえ》は知っている。
今の音羽《おとは》にはその輝きを上手く使いこなせるはずがないということを。
だからこそ。
「あなたはもうステージに立たなくていい」
「えっ? どうして?」
「あなたは天使には戻れない、戻ることが不可能」
拳を下ろし、部屋から出ようと扉を開けようとした天声《あまごえ》の手を音羽《おとは》は意味の分からない恐怖に包まれて冷や汗をかいたり瞳が激しく揺れて体中も震わして必死にその理由を聞く。
「どうしてそんなことを言うの? わたしは歌姫になれて良かったって心からそう思っているのに、天声《あまごえ》ちゃんのためにステージに立っているのに…うう、あっ、わたしが悪いなら教えて、ちゃんと直すから、お願い、ステージに立たせ」
「そんなに言うなら証明しなさい」
「え」
「わたしのためにステージに立ってくれていることは知っている。でも、あなたは羽の歌姫。いい? 羽の歌姫は天使や鳥などの意味を込めて作ったの。堕天使や悪魔じゃなくて、純白の天使の羽がわたしは見たいの。あなたを選んだのは、あなたが本物の天使に見えたから、美しかったからそこに心惹かれたの。わたしは今まで歌姫を作ってきたけど、一度も失敗したことはない。だけど、唯一失敗したのが羽音《はおん》、あなた」
こんなことを言うつもりなんてなかった。
でも、嘘じゃない。
わたしは嘘を言わない。
お願い、分かって。
天声《あまごえ》の想いに応えるのも歌姫の使命。
唯一天声《あまごえ》が見える音羽《おとは》にとって、今の言葉は百本以上の巨大な槍で心臓を突き刺されるくらいに痛くて苦しくて泣き崩れて床に倒れてしまった。
「そ、そんな…わたしはただ、たくさんの人の心に届く素敵なステージを作っていただけなのに、そんなことを言われたらわたし、うう、くっ、あっ」
わたし、今まで頑張ってきたのに、天声《あまごえ》ちゃんに喜んでほしいって思っていたのに。
このまま終わってしまうのは…絶対に嫌!
音羽《おとは》の今までのステージは素敵な物ばかりで誰もが感動するほど心から惹かれてたくさんの人の記憶に残る最高の代物。
だからこそ。
「分かった。わたしはわたしのステージを作り続ける。天声《あまごえ》ちゃんが心から納得する素敵なステージを作る。だから、ちゃんと見ててね」
天使の微笑みのような暖かく羽が背中から生えているかのような神秘的な笑顔を見せる音羽《おとは》は本物の天使のようだ。
天声《あまごえ》はさっきまで信頼を失っていた心がその笑顔を見た一瞬でガラスがパリッと弾き飛ばされる感じで心が変わり、抱きしめてこう言った。
「やっぱりあなたはわたしの天使」
あなたがどんな姿になっても、あなたは必ず天使に戻る。
わたしはそう信じている。
「さあ、行って」
「え、どこに?」
「ステージ。今日の主役はあなた。復活にふさわしい完璧なステージを作りなさい」
その言葉と天声《あまごえ》から抱きしめられた手の温もりに感謝して音羽《おとは》は頷き、ドレスに着替えティアラを頭に飾り、天声《あまごえ》も姿を消して自分の居場所に帰る。
「奏《かなで》、行こう」
「うん」
王子様スタイの完璧な笑顔をそのまま残す奏《かなで》はもう不安に思うことなくしっかり手を握って二人扉の中に入り生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
「さあ、復活者は三人の歌姫の話し合いの結果で羽音《はおん》に決定しました! 今回は『復活』をテーマにした特別なステージをご覧いただきましょう!」
異等義《いらぎ》の今回の進行スタイルはどこから用意したのかは不明だが、ブランコで三回転をしてまだまだテンション高めの異常者にも見える。
けれど。
「羽音《はおん》ちゃーん!」
「待ってたよ!」
「特別なステージ見せて!」
羽音《はおん》のファンが大きな歓声と拍手で盛り上げてくれている。
その歓声はきっと羽音《はおん》の心に強く深く心の扉の鍵が開かれたはず。
「みんな、ありがとう! わたしのステージはみんなのの心に届く素敵な物にするね」
ゆっくり深呼吸をして一度目を閉じて開いたら真っ黒な瞳の中に羽が生える。
「天使と悪魔の羽はわたしだけに仕える特別な力。この羽は天使と悪魔の復活の儀。わたしだけの羽ばたきををあなたに届けましょう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「どこにもない、どこにあったのか分からない。黒の羽と白の羽…一体どこに?」
瞳の中に生えた羽の色は透明。
白にも黒にも染まる唯一無二の存在。
瞬きをする度に羽がバサバサと動いてまるで瞳の中で生きているようにも見えてしまう。
だが、羽音《はおん》自身にはなにも影響はなく、羽が動いても特に痛みも苦しみもない。
ただの飾りのようだ。
「不思議、わたしの羽がいつの間にかこの手の中から溢れて止まらない!」
開かれた心の扉から手の中に移り変わった透明な羽が羽音《はおん》のドレスをキラキラと宝石のように眩く照らし、光の中で覆い尽くせば。
「黒が白へと変化する!」
ドレスが黒から白へと変化し、腰回りには純白の羽と透明に透ける天使の飾りが襟から裾まで全身に生き渡せるように新たな歌姫の誕生を祝福している。
「そう、これがわたしの復活。誰も見たことのない神秘的な出会い。世界を照らす温かな眼差しを大切してあげましょう」
この一瞬でステージには透明な羽が黒と白の間を結ぶ決して切れることのない糸が描かれ、そしてまた変われば透明から純白へと変化し、ステージをはみ出すほどの大きな天使の羽がリボンやビーズで飾られたことで今まで見たことのない神秘的なステージが完成した。
「…すごい、わたし、できた」
完成したステージを見て、透明な羽がある薄紫色の瞳でキラキラと宝石の輝きに心惹かれて笑顔が止まらず何度もジャンプをして喜ぶ羽音《はおん》は本当に元に戻ったように感じるのは誰でもそうであるはず。
「これが羽音《はおん》の復活…へえ、中々やるね」
こんな大きなステージを作れるなんて…私の出番は必要ないと思うけど?
私がステージに立ったら君たち歌姫全員は私に負ける。
本当にそれでいいの?
「ふふっ、わたし、頑張ったよ」
誰もが想像できなかったことを羽音《はおん》はやり遂げた。
これは歴史の革命にふさわしい所業。
さあ、次のお話からは二回戦。
星宙、翼、華恋、羽音。
この四人の対決をどうぞお楽しみに!
誰が勝者に選ばれても、最後の勝者は最初から決まっている。
この日は敗者復活戦。
「さあ、音を掴んだ者が敗れ、敗られた者が勝者となったこのコンテストの行方は一体どこへ向かっているのでしょうか!?」
今日はリコーダーを口と鼻と耳で意味の分からない音で曲を奏でる異等義《いらぎ》の不思議な光景は何度見ても面白いのかもしれない。
敗者復活戦となれば羽音《はおん》、花音《はなね》、空音《そらね》の中の一人が復活となり、二回戦に参加できるという対決。
「どうしますか?」
「はあ、別にどうでもいいよ」
「私はもう、自信がありません」
仲の良い三人が羽音《はおん》の楽屋に集まって会議をしている。
本来なら三人それぞれソロでステージに立って天声から選ばれた結果で二回戦進出が確定するが…三人はステージで争うよりも話し合いで決めるようだ。
「わたしは星宙《ほしぞら》さんに勝てる自信がないです…」
「わたしは、負けたけど、あれは大人の体だったら負けてなかった。全部この体が悪いよ」
「私も我も…華恋《かれん》さんに否定されたことがショックで立ち直ることができないみたいですね」
三人とも自信をなくし、勝者に勝てることを諦めているのもまた事実。
羽音《はおん》は今の自分に対して形の使い方を見失ったのが原因。
花音《はなね》は自分の体、体力の差で力尽きたのが原因。
空音《そらね》は私と我、二人を否定されたことで思い通りのステージを作れなかったのが原因。
三人とも自分の短所を見破られたことで負けたのも仕方のないこととも言えてしまう現実。
自信を失くした「音」たちはこれから自分がステージに立つことに不安を抱えて落ち込み床に正座してまるで反省会をしているようにも見えてしまう。
「わたしたちはどうすればあの三人に勝てると思いますか?」
「うーん、難しい質問だね」
「はい…というか、もう我はステージには立てない」
我らを否定した華恋《かれん》に勝ちたいという気持ちはあるが、我は一度失敗してしまったら次に立つのに遅くて三ヶ月経ってしまうから…ここは我以外の二人に任せるしかない。
華恋《かれん》に敗れた空音《そらね》は常に自信に満ち溢れて好き勝手にステージに立ち続けていたが、昨日の結果で相当なショックを受けて家に帰ってから今日の昼までなにも食べていないほどダメージを食らっている。
「我はお前たちのどちらかに我の想いを全て授ける」
「え!?」
空音《そらね》さん、本気で。
「ふーん」
空音《そらね》がここまで本気なら仕方ないよ。
唇を血が垂れるまで噛み締めてほんのちょっとだけ涙を瞳の中で抑える空音《そらね》の姿に、羽音《はおん》と花音《はなね》はお互いを顔を合わせて頷き、それぞれ笑顔で空音《そらね》の手を握った。
「空音《そらね》さんの想い、確かに受け取りました」
「君がそこまで本気ならわたしたちのどちらかが君の分までステージに立つ」
二人声を重ねて。
「だから、泣きたい時は素直に泣いていい」
天使の微笑みに近い笑顔。
可愛らしい花のように笑う愛おしい笑顔。
羽音《はおん》と花音《はなね》のそれぞれの笑顔が空音《そらね》の素直な想いを気づかせ、大粒の涙を流しながら二人を抱きしめる空音《そらね》。
「うう、くっ、ああああ! 悔しい!」
誰にも見せないように涙を堪えていた空音《そらね》がこんなにも悔しそうに二人に体を寄せて涙を流すその姿は本当に心苦しい。
「我は勝ちたい、勝ちたいが、全く自信がないから今は無理だ。だから、二人のどちらかがステージに立って優勝してくれ…お願いだ」
その言葉で、花音《はなね》は改めて自分の体を見て羽音《はおん》にこう言った。
「君がステージに立ってよ。もう、君しかいない」
花音《はなね》から真剣に本気な眼差しを向けられた羽音《はおん》は一瞬戸惑い瞳を激しく揺らしたが、深く頷いて覚悟を決める。
「分かりました。二人の想いを背負ってわたしが優勝します」
二人のために、わたしができることがあるなら、精一杯その想いに応える。
だって、二人はわたしの「親友」だから。
でも、ちょっと気になることがあるの。
「わたしが敗者復活するのはいいんですけど、わたしだけステージに立つのはいいんですか?」
首を傾げて質問する羽音《はおん》に、花音《はなね》と空音《そらね》がポンッと優しく頭を撫でた。
「うん、もう代表が決まったから、君だけステージに立つんだよ」
「そうだ。代表にふさわしいステージを作ってくれ」
二人の可愛らしい笑顔と怪しく麗しく微笑む姿に安心した羽音《はおん》も優しく暖かみのある笑顔で頷き、立ち上がる。
「わたし、行ってきます!」
「うん、頑張って」
「期待しているぞ」
こうして敗者復活戦の勝者は勝手ではあるが、三人話し合いの結果で羽音《はおん》が選ばれた。
そして今から復活にふさわしいステージを作り出す。
「ドレスはこの前の大会で着た物でいいよね」
天声《あまごえ》がくれた「音を掴む者」で着たドレスはまた悪魔のような闇のステージを作ってしまう気もするが、それをコントロールできるなら構わないのだろう。
「わたしのステージ、ちゃんと届けたい」
たとえわたしがどうなっても、たとえステージが壊れることがあっても。
その先にわたしの輝きの未来が待っているならわたしはその道へ進むだけ。
「大丈夫。わたしならでき」
「本当にそう思ってる?」
聞き覚えのある風を引いてかのようなかすれた声。
音羽《おとは》はその声の主をよーく知り、後ろを振り向いたらそこには。
「えっ、天声《あまごえ》ちゃん…」
そう、真っ黒なワンピースを身に纏い、前髪で全く顔を見せない天声《あまごえ》が拳を握りしめて今にも音羽《おとは》の顔を傷つけさせような怖い雰囲気を出している。
「あなたが復活に選ばれたのはいいけど、でも…あなたのその輝きはすぐに消えてしまう」
音羽《おとは》が今持っているその輝きはとても危険な物。
使い方を間違えてしまったら、わたしみたいになってしまう…それは絶対に避ける。
天声《あまごえ》は知っている。
今の音羽《おとは》にはその輝きを上手く使いこなせるはずがないということを。
だからこそ。
「あなたはもうステージに立たなくていい」
「えっ? どうして?」
「あなたは天使には戻れない、戻ることが不可能」
拳を下ろし、部屋から出ようと扉を開けようとした天声《あまごえ》の手を音羽《おとは》は意味の分からない恐怖に包まれて冷や汗をかいたり瞳が激しく揺れて体中も震わして必死にその理由を聞く。
「どうしてそんなことを言うの? わたしは歌姫になれて良かったって心からそう思っているのに、天声《あまごえ》ちゃんのためにステージに立っているのに…うう、あっ、わたしが悪いなら教えて、ちゃんと直すから、お願い、ステージに立たせ」
「そんなに言うなら証明しなさい」
「え」
「わたしのためにステージに立ってくれていることは知っている。でも、あなたは羽の歌姫。いい? 羽の歌姫は天使や鳥などの意味を込めて作ったの。堕天使や悪魔じゃなくて、純白の天使の羽がわたしは見たいの。あなたを選んだのは、あなたが本物の天使に見えたから、美しかったからそこに心惹かれたの。わたしは今まで歌姫を作ってきたけど、一度も失敗したことはない。だけど、唯一失敗したのが羽音《はおん》、あなた」
こんなことを言うつもりなんてなかった。
でも、嘘じゃない。
わたしは嘘を言わない。
お願い、分かって。
天声《あまごえ》の想いに応えるのも歌姫の使命。
唯一天声《あまごえ》が見える音羽《おとは》にとって、今の言葉は百本以上の巨大な槍で心臓を突き刺されるくらいに痛くて苦しくて泣き崩れて床に倒れてしまった。
「そ、そんな…わたしはただ、たくさんの人の心に届く素敵なステージを作っていただけなのに、そんなことを言われたらわたし、うう、くっ、あっ」
わたし、今まで頑張ってきたのに、天声《あまごえ》ちゃんに喜んでほしいって思っていたのに。
このまま終わってしまうのは…絶対に嫌!
音羽《おとは》の今までのステージは素敵な物ばかりで誰もが感動するほど心から惹かれてたくさんの人の記憶に残る最高の代物。
だからこそ。
「分かった。わたしはわたしのステージを作り続ける。天声《あまごえ》ちゃんが心から納得する素敵なステージを作る。だから、ちゃんと見ててね」
天使の微笑みのような暖かく羽が背中から生えているかのような神秘的な笑顔を見せる音羽《おとは》は本物の天使のようだ。
天声《あまごえ》はさっきまで信頼を失っていた心がその笑顔を見た一瞬でガラスがパリッと弾き飛ばされる感じで心が変わり、抱きしめてこう言った。
「やっぱりあなたはわたしの天使」
あなたがどんな姿になっても、あなたは必ず天使に戻る。
わたしはそう信じている。
「さあ、行って」
「え、どこに?」
「ステージ。今日の主役はあなた。復活にふさわしい完璧なステージを作りなさい」
その言葉と天声《あまごえ》から抱きしめられた手の温もりに感謝して音羽《おとは》は頷き、ドレスに着替えティアラを頭に飾り、天声《あまごえ》も姿を消して自分の居場所に帰る。
「奏《かなで》、行こう」
「うん」
王子様スタイの完璧な笑顔をそのまま残す奏《かなで》はもう不安に思うことなくしっかり手を握って二人扉の中に入り生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
「さあ、復活者は三人の歌姫の話し合いの結果で羽音《はおん》に決定しました! 今回は『復活』をテーマにした特別なステージをご覧いただきましょう!」
異等義《いらぎ》の今回の進行スタイルはどこから用意したのかは不明だが、ブランコで三回転をしてまだまだテンション高めの異常者にも見える。
けれど。
「羽音《はおん》ちゃーん!」
「待ってたよ!」
「特別なステージ見せて!」
羽音《はおん》のファンが大きな歓声と拍手で盛り上げてくれている。
その歓声はきっと羽音《はおん》の心に強く深く心の扉の鍵が開かれたはず。
「みんな、ありがとう! わたしのステージはみんなのの心に届く素敵な物にするね」
ゆっくり深呼吸をして一度目を閉じて開いたら真っ黒な瞳の中に羽が生える。
「天使と悪魔の羽はわたしだけに仕える特別な力。この羽は天使と悪魔の復活の儀。わたしだけの羽ばたきををあなたに届けましょう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「どこにもない、どこにあったのか分からない。黒の羽と白の羽…一体どこに?」
瞳の中に生えた羽の色は透明。
白にも黒にも染まる唯一無二の存在。
瞬きをする度に羽がバサバサと動いてまるで瞳の中で生きているようにも見えてしまう。
だが、羽音《はおん》自身にはなにも影響はなく、羽が動いても特に痛みも苦しみもない。
ただの飾りのようだ。
「不思議、わたしの羽がいつの間にかこの手の中から溢れて止まらない!」
開かれた心の扉から手の中に移り変わった透明な羽が羽音《はおん》のドレスをキラキラと宝石のように眩く照らし、光の中で覆い尽くせば。
「黒が白へと変化する!」
ドレスが黒から白へと変化し、腰回りには純白の羽と透明に透ける天使の飾りが襟から裾まで全身に生き渡せるように新たな歌姫の誕生を祝福している。
「そう、これがわたしの復活。誰も見たことのない神秘的な出会い。世界を照らす温かな眼差しを大切してあげましょう」
この一瞬でステージには透明な羽が黒と白の間を結ぶ決して切れることのない糸が描かれ、そしてまた変われば透明から純白へと変化し、ステージをはみ出すほどの大きな天使の羽がリボンやビーズで飾られたことで今まで見たことのない神秘的なステージが完成した。
「…すごい、わたし、できた」
完成したステージを見て、透明な羽がある薄紫色の瞳でキラキラと宝石の輝きに心惹かれて笑顔が止まらず何度もジャンプをして喜ぶ羽音《はおん》は本当に元に戻ったように感じるのは誰でもそうであるはず。
「これが羽音《はおん》の復活…へえ、中々やるね」
こんな大きなステージを作れるなんて…私の出番は必要ないと思うけど?
私がステージに立ったら君たち歌姫全員は私に負ける。
本当にそれでいいの?
「ふふっ、わたし、頑張ったよ」
誰もが想像できなかったことを羽音《はおん》はやり遂げた。
これは歴史の革命にふさわしい所業。
さあ、次のお話からは二回戦。
星宙、翼、華恋、羽音。
この四人の対決をどうぞお楽しみに!
誰が勝者に選ばれても、最後の勝者は最初から決まっている。


