翌日。
「さあ、今日は翼と花音《はなね》の対決です!鳥が花かのどちらが勝者に選ばれるのでしょうか?」
一回戦はそれぞれ一日ずつに分かれて行われる。
今日は二日目となる翼VS花音の対決。
まずは翼《つばさ》。
「ん〜、今日はやる気が高い!」
羽音《はおん》には負けちゃったけど、今日の相手は花音《はなね》だからなんか勝てそうなんだよねー。
実力勝負ならそこそこ張り合えるし、形だって大してあたしとほぼ互角みたいな感じで楽勝じゃん!
「あははっ! 最高気分!」
今回のドレスは楽しさと自由さを兼ね備えた特別な一着。
白鳥のような長く大きな翼に青が似合うちょっと優雅で美しさがより鮮明に引き立つ完璧な物。
あとはティアラを頭に飾り準備完了。
「このドレスを着れるのはあたしだけ。羽音《はおん》にはちょっと難しいけど、今のあたしなら余裕だよねー」
完全に余裕だと思い込み、背伸びをしたりジャンプしてとっくに緊張なんて解して笑いが止まらない翼《つばさ》を、唄《うた》は心からホッとして少しだけ笑顔を見せて手を握る。
「うん、オレも翼《つばさ》ちゃんが勝てると思う。だ、だって、花音《はなね》さんは飛べないから…大丈夫な気がしてる」
翼《つばさ》がこんなに笑ってくれるというのは「勝つ」ということ。
オレは全然自信なんて持ってないけど、翼《つばさ》ちゃんの自信はきっと、本物の鳥みたいに高く飛んで天声《あまごえ》様にも届いてはずだって、オレはそう思ってるから。
手を握り、繋ぎ重ねて離さない。
歌姫と王子様という決められた関係以上にお互いを必要とし、助け合い好き合うことでより仲が深まる。
それの繰り返しでなにも意味がなくても関係ない。
結ばれた二人が幸せだと感じられるならそれでいいのかもしれない。
まあ、今はそのままでも。
「唄《うた》」
「な、なに?」
オレ、心の声、声に出てた?
一瞬焦っても手を離そうとした唄《うた》を、翼《つばさ》はしっかりと瞳を見て手を離さない。
「あたしは唄《うた》が好き、大好きだよ」
「えっ」
あっ、聞こえてない…良かった。
本音が聞こえていなかったことに安心した唄《うた》がふわっとわたあめみたいに甘い笑顔を見せる。
「翼《つばさ》ちゃん、オレも君が好きだ。今日のステージは全部翼《つばさ》ちゃんだけの特別な物。さあ、ステージへ行こう」
「うん!」
二人仲良く手を繋ぎステージへと向かう。
次に花音《はなね》。
「はな、そろそろ行くぞ」
「待って、まだ準備終わってない」
はなは翼《つばさ》に勝てる自信がないように思える。
華恋《かれん》には余裕で勝てても、他の属性の翼《つばさ》に勝てる勝てるかが分からない以上、はなは「不安」よりも「焦り」を感じすぎて冷や汗が止まらず体もふらついている。
「あ、うっ」
こんなの初めて。
わたし、本当に勝てるの?
もし負けてしまったら…わたしはなんのためにトップでいられるの?
花は鳥には勝てない。
花なんてただ咲くだけ、鳥は翼があるから飛べる。
そう考えたら勝ち目なんてない。
「どうすれば」
ふらついた足で壁に寄りかかるはな。
「大丈夫だ。はなは勝てる…いや、勝つことだけを考えなくていい。それだけを考えてステージに立つのはもったいない。せっかく時間をかけて作ったドレスを着るのに、そんなに怖がっていたらいい物は作れない。ほら、今日も君らしく花音《はなね》としてステージに立つんだ」
夫してではなく、王子様として歌姫を支える律《りつ》はギューッと愛情を込めて抱きしめてその怖がったはなを受け止める。
その温もりにやる気を取り戻したはなはまだ少し納得ができなさそうに唇を噛み締めたが、両手で抱きしめ返して頷いた。
「そうだね、君の言う通りだよ。勝っても負けてもどっちでもいい。わたしらしくステージに立てればそれが一番の輝きになるから」
お互いが持つ手の温もりには夫婦の愛情という物があるけれど、今は歌姫と王子様という選ばれた関係を今もこれからも続けるためにお互い一旦手を離してそれぞれ着替える。
「このドレスを着れるのは嬉しい」
今回のドレスは黄色の薔薇を描いた優しさ溢れるふわっとした一着。
主体となる色はオレンジ。
ピンクの髪色にはちょうど良さそうで、黄緑色の瞳には少しだけ違和感がありそうだが、花音《はなね》の可愛さがあれば優しささえも似合うのは当然のこと。
あとはティアラを頭に飾るだけだけれど
「色を変えなさい」
と、花音《はなね》はティアラの色を変えることができるので真っ赤な薔薇から黄色の薔薇に変えて準備完了。
「終わったよ」
「ああ」
扉を開けて中に入ると、そこには今まで見たことのない花音《はなね》の優しさが無限に広がる花畑を想像させるほど優しさに包まれた姿を見た律《りつ》は満面の笑みで頭を撫でる。
「やっぱりはなと花音《はなね》はなにを着ても似合う! 綺麗だ、作り直して良かったな」
二人同時に褒めてくれる律《りつ》の背中を花音《はなね》がバシッと骨が折れそうなくらいに力強く叩き、こう言った。
「もう、君は褒めるのが上手すぎるよ」
褒められて嬉しいなら背中を叩く必要ないのだが、これも花音《はなね》の愛情表現の一つだと分かっている律《りつ》は大声を上げるほど痛がらずに黙って背中を撫でてこう言う。
「まあ、嬉しいならそれでいい…けど、いい加減おれの体を叩くのをやめてほしい。どこか骨が折れたら笑い事じゃなくなるからな」
「ふふっ、それは分かってるよ。分かった上でそうしてるだけ」
「マジか」
可愛い顔してるのに、はなと花音《はなね》の考えていることにはまだまだついていけない。
それでも。
「じゃあ行くぞ」
「うん」
二人仲良く手を繋ぎステージへ向かう。
さあ、ここからが本番。
「翼VS花音の対決は皆さんも想像できませんよね? ワタシも全く想像できません。どちらが勝ってもいいくらいに完璧な翼と花音のステージをどうぞご覧ください!」
異等義《いらぎ》の司会進行と共に歌姫は王子様のエスコートで扉の中に入る。
「あたしが勝つ!」
「わたしは負けない」
生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
「翼《つばさ》さーん」
「花音《はなね》ちゃん!」
「二人のステージ見たい!」
ファンの熱狂的な歓声にに翼《つばさ》と花音《はなね》は笑顔で手を振ってその歓声に応える。
今回のステージテーマは「微笑み」。
笑顔と似ているところもあるけれど、これも天声《あまごえ》が考えた物。
ステージの幕はここから始まる。
「鳥の翼であなたに微笑みをあげる」
「可愛いお花であなたに微笑みを与える」
二人声を重ねて。
「あたし《わたし》があなたにあげる微笑みで一緒にいよう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
まずは翼《つばさ》から。
「なんて素敵なの? あなたの微笑みはあたしが作る鳥の翼で飛んでいく。これってきっとあたしとあなたを繋ぐ特別な絆よね?」
かっこよくも楽しくも感じさせる翼《つばさ》の微笑みから長く大きな白鳥のような鳥がステージの下から現れてステージを舞うように翼の欠片を落としていく。
「ほら、見て。この白鳥はあなたのところにやってきて、その美しさに心惹かれて微笑むあなたを見てみたい」
その欠片が真っ白な羽となり、羽が天から落ちて来るような感じで神秘的な絵画をステージに描いていく。
あっはは!
あたしの本気はこんな物じゃない。
もっとできる、作れる!
さあ、君の番だよ。
次に花音《はなね》。
「そうね。花は可愛いだけだけど…その可愛さが時に人を微笑ませることもできるのよ」
黄色の薔薇の庭園を思い描くように、花音《はなね》の心から溢れ出す黄色の薔薇がドレスから生まれて棘も茎も怒りよりも優しさに変えることで誰もが微笑ましく思う光景へと繋がる。
「あなたの微笑みはわたしの花よりも綺麗で可愛くてわたしまで微笑んでしまう…素敵な魔法よね?」
白鳥が薔薇の庭園へと筆を置いて一気に移り変わら、花音《はなね》だけのステージが作り出せる。
この薔薇の庭園は貴族のお茶会じゃなくて、友達とお菓子を食べたり話したりする大切な時。
痛い棘も長く太い茎も、少し怖がってしまうけど、このステージではそれら全てが癒しとなって誰もが微笑む最高に素敵な物。
わたしのステージはわたしだけの物じゃない。
大切な人たちの物でもある。
勝ちたいという気持ちは花音《はなね》にも確かにある。
だが、それよりも、大切な人や自分が持つ最大級の力で形を生み出し、その想いがステージに表現される。
花音《はなね》の可愛らしさとは人の想いで形作られているのかもしれない。
「いい? わたしはあなたと微笑むことで、この薔薇の庭園が完成する。それはあなたがわたしのために微笑んでくれるから。あなたの微笑みがわたしを元気にさせてくれる…違う?」
薔薇の庭園がステージ全体を取り囲むように綺麗に誰もが微笑ましく心惹かれて拍手を贈ろうとした瞬間。
「ダメよ」
後ろでじっと花音《はなね》のステージを見て我慢の限界を超えた翼《つばさ》が花音《はなね》の手を掴み、少し雑に後ろに引っ込ませて自分の出番を強引に再開する!
「薔薇なんてなにも大したことじゃない。花は飛べない、花は羽が生えない。ただ地上に咲くだけ。でも、鳥は違う。鳥には立派な翼があるから高く飛べる。あなたを微笑ましくできるのはあたしだけ!」
そう歌った瞬間からステージが青色の鳥の翼の欠片が振り落ちて薔薇の庭園が一瞬で消えてしまった。
花音《はなね》はその光景を見たことで自信を失うかと思いきや?
「だからなによ? わたしの花は確かに飛べない…飛べないけど、人を笑顔にできる最後の物なのよ! あなたに微笑みをあげられるのは花なの!」
負けずにまた一度薔薇の庭園がステージに描かれて花音《はなね》の歌声でさらにそれが広がっていく。
「薔薇は棘も茎もあるけれど、それは想いを変えれば癒しにもなる。なにも怖がらなくても、なにも不安にならなくてもいいの。わたしだけを見てほしい、あなただけの微笑みをわたしだけに見せてほしい…ただそれだけよ」
こんなの初めて。
こんなに必死にさせられるなんて…本当にすごい。
わたしはもっとできたんだ…もっと形を作れるんだ。
知らなかった、わたしの輝きはまだまだ広がっていく。
「あ、は、あっ」
力がどんどん血液巡回のように流れが止まらず汗も涙も止まらずに花音《はなね》はステージから降りて倒れ、同時に薔薇の庭園が白鳥の翼に戻り勝者が決まってしまった。
この会場にいる全ての人間が言葉を失い、裏で待機していた律《りつ》が五百メートル走で五秒台を切るような速さで花音《はなね》の元に行き、横に抱きかかえてこう言った。
「花音《はなね》、よく頑張った。ちゃんと見ていたぞ」
少し悔しそうに涙を精一杯瞳の中で耐えて流さず励ましの言葉を言ってくれた律《りつ》に、花音《はなね》も同じように悔し涙を浮かべてそれを誰にも見せないように必死に両手で隠す。
「う、ふっ、ああああああっ…悔しい! 悔しいよ」
初めて負けを認めた花音《はなね》の姿に、観客席にいるファンや異等義《いらぎ》は大きな大きな拍手を無言で贈って花音《はなね》のステージを喜びの意味を表した。
「ううっ、なんて予想外な結果なのでしょうか!? ワタシはこんなにも涙を流すほどのステージを見たのは初めでです。さあ、結果をご覧いただきましょう!」
異等義《いらぎ》の司会進行と共に天声《あまごえ》から水色の羽が贈られたのは。
「あたしだ!」
当然、最後までステージを描いた翼《つばさ》が選ばれた。
「嬉しい…って、喜んでいいのかな?」
花音《はなね》さんがステージから降りてしまったのは力尽きただけで、もしまだ続けていたらあたしは負けてた。
「これって、本当にいいのかな?」
ちょっとだけ冷や汗をかいて首を傾げる翼《つばさ》に、律《りつ》がこう言った。
「おめでとうございます。花音《はなね》が負けを認めたのは今回が初めでです。次も花音《はなね》の分まで頑張ってください」
満面の笑みでそう言われた翼《つばさ》も笑顔で頷き、腕が千切れそうなくらいに高く両手を挙げて勝利を喜ぶ。
「あっはははははっ! あたしは次も決勝戦でも勝って優勝する! みんなが想像できないくらいの最高のステージ作るからちゃんと見ててね!」
こうして、翼VS花音の対決の結果は翼《つばさ》の勝利で幕を閉ざした。
次のお話は空音VS華恋。
どちらが勝つのか、お楽しみに!
「さあ、今日は翼と花音《はなね》の対決です!鳥が花かのどちらが勝者に選ばれるのでしょうか?」
一回戦はそれぞれ一日ずつに分かれて行われる。
今日は二日目となる翼VS花音の対決。
まずは翼《つばさ》。
「ん〜、今日はやる気が高い!」
羽音《はおん》には負けちゃったけど、今日の相手は花音《はなね》だからなんか勝てそうなんだよねー。
実力勝負ならそこそこ張り合えるし、形だって大してあたしとほぼ互角みたいな感じで楽勝じゃん!
「あははっ! 最高気分!」
今回のドレスは楽しさと自由さを兼ね備えた特別な一着。
白鳥のような長く大きな翼に青が似合うちょっと優雅で美しさがより鮮明に引き立つ完璧な物。
あとはティアラを頭に飾り準備完了。
「このドレスを着れるのはあたしだけ。羽音《はおん》にはちょっと難しいけど、今のあたしなら余裕だよねー」
完全に余裕だと思い込み、背伸びをしたりジャンプしてとっくに緊張なんて解して笑いが止まらない翼《つばさ》を、唄《うた》は心からホッとして少しだけ笑顔を見せて手を握る。
「うん、オレも翼《つばさ》ちゃんが勝てると思う。だ、だって、花音《はなね》さんは飛べないから…大丈夫な気がしてる」
翼《つばさ》がこんなに笑ってくれるというのは「勝つ」ということ。
オレは全然自信なんて持ってないけど、翼《つばさ》ちゃんの自信はきっと、本物の鳥みたいに高く飛んで天声《あまごえ》様にも届いてはずだって、オレはそう思ってるから。
手を握り、繋ぎ重ねて離さない。
歌姫と王子様という決められた関係以上にお互いを必要とし、助け合い好き合うことでより仲が深まる。
それの繰り返しでなにも意味がなくても関係ない。
結ばれた二人が幸せだと感じられるならそれでいいのかもしれない。
まあ、今はそのままでも。
「唄《うた》」
「な、なに?」
オレ、心の声、声に出てた?
一瞬焦っても手を離そうとした唄《うた》を、翼《つばさ》はしっかりと瞳を見て手を離さない。
「あたしは唄《うた》が好き、大好きだよ」
「えっ」
あっ、聞こえてない…良かった。
本音が聞こえていなかったことに安心した唄《うた》がふわっとわたあめみたいに甘い笑顔を見せる。
「翼《つばさ》ちゃん、オレも君が好きだ。今日のステージは全部翼《つばさ》ちゃんだけの特別な物。さあ、ステージへ行こう」
「うん!」
二人仲良く手を繋ぎステージへと向かう。
次に花音《はなね》。
「はな、そろそろ行くぞ」
「待って、まだ準備終わってない」
はなは翼《つばさ》に勝てる自信がないように思える。
華恋《かれん》には余裕で勝てても、他の属性の翼《つばさ》に勝てる勝てるかが分からない以上、はなは「不安」よりも「焦り」を感じすぎて冷や汗が止まらず体もふらついている。
「あ、うっ」
こんなの初めて。
わたし、本当に勝てるの?
もし負けてしまったら…わたしはなんのためにトップでいられるの?
花は鳥には勝てない。
花なんてただ咲くだけ、鳥は翼があるから飛べる。
そう考えたら勝ち目なんてない。
「どうすれば」
ふらついた足で壁に寄りかかるはな。
「大丈夫だ。はなは勝てる…いや、勝つことだけを考えなくていい。それだけを考えてステージに立つのはもったいない。せっかく時間をかけて作ったドレスを着るのに、そんなに怖がっていたらいい物は作れない。ほら、今日も君らしく花音《はなね》としてステージに立つんだ」
夫してではなく、王子様として歌姫を支える律《りつ》はギューッと愛情を込めて抱きしめてその怖がったはなを受け止める。
その温もりにやる気を取り戻したはなはまだ少し納得ができなさそうに唇を噛み締めたが、両手で抱きしめ返して頷いた。
「そうだね、君の言う通りだよ。勝っても負けてもどっちでもいい。わたしらしくステージに立てればそれが一番の輝きになるから」
お互いが持つ手の温もりには夫婦の愛情という物があるけれど、今は歌姫と王子様という選ばれた関係を今もこれからも続けるためにお互い一旦手を離してそれぞれ着替える。
「このドレスを着れるのは嬉しい」
今回のドレスは黄色の薔薇を描いた優しさ溢れるふわっとした一着。
主体となる色はオレンジ。
ピンクの髪色にはちょうど良さそうで、黄緑色の瞳には少しだけ違和感がありそうだが、花音《はなね》の可愛さがあれば優しささえも似合うのは当然のこと。
あとはティアラを頭に飾るだけだけれど
「色を変えなさい」
と、花音《はなね》はティアラの色を変えることができるので真っ赤な薔薇から黄色の薔薇に変えて準備完了。
「終わったよ」
「ああ」
扉を開けて中に入ると、そこには今まで見たことのない花音《はなね》の優しさが無限に広がる花畑を想像させるほど優しさに包まれた姿を見た律《りつ》は満面の笑みで頭を撫でる。
「やっぱりはなと花音《はなね》はなにを着ても似合う! 綺麗だ、作り直して良かったな」
二人同時に褒めてくれる律《りつ》の背中を花音《はなね》がバシッと骨が折れそうなくらいに力強く叩き、こう言った。
「もう、君は褒めるのが上手すぎるよ」
褒められて嬉しいなら背中を叩く必要ないのだが、これも花音《はなね》の愛情表現の一つだと分かっている律《りつ》は大声を上げるほど痛がらずに黙って背中を撫でてこう言う。
「まあ、嬉しいならそれでいい…けど、いい加減おれの体を叩くのをやめてほしい。どこか骨が折れたら笑い事じゃなくなるからな」
「ふふっ、それは分かってるよ。分かった上でそうしてるだけ」
「マジか」
可愛い顔してるのに、はなと花音《はなね》の考えていることにはまだまだついていけない。
それでも。
「じゃあ行くぞ」
「うん」
二人仲良く手を繋ぎステージへ向かう。
さあ、ここからが本番。
「翼VS花音の対決は皆さんも想像できませんよね? ワタシも全く想像できません。どちらが勝ってもいいくらいに完璧な翼と花音のステージをどうぞご覧ください!」
異等義《いらぎ》の司会進行と共に歌姫は王子様のエスコートで扉の中に入る。
「あたしが勝つ!」
「わたしは負けない」
生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
「翼《つばさ》さーん」
「花音《はなね》ちゃん!」
「二人のステージ見たい!」
ファンの熱狂的な歓声にに翼《つばさ》と花音《はなね》は笑顔で手を振ってその歓声に応える。
今回のステージテーマは「微笑み」。
笑顔と似ているところもあるけれど、これも天声《あまごえ》が考えた物。
ステージの幕はここから始まる。
「鳥の翼であなたに微笑みをあげる」
「可愛いお花であなたに微笑みを与える」
二人声を重ねて。
「あたし《わたし》があなたにあげる微笑みで一緒にいよう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
まずは翼《つばさ》から。
「なんて素敵なの? あなたの微笑みはあたしが作る鳥の翼で飛んでいく。これってきっとあたしとあなたを繋ぐ特別な絆よね?」
かっこよくも楽しくも感じさせる翼《つばさ》の微笑みから長く大きな白鳥のような鳥がステージの下から現れてステージを舞うように翼の欠片を落としていく。
「ほら、見て。この白鳥はあなたのところにやってきて、その美しさに心惹かれて微笑むあなたを見てみたい」
その欠片が真っ白な羽となり、羽が天から落ちて来るような感じで神秘的な絵画をステージに描いていく。
あっはは!
あたしの本気はこんな物じゃない。
もっとできる、作れる!
さあ、君の番だよ。
次に花音《はなね》。
「そうね。花は可愛いだけだけど…その可愛さが時に人を微笑ませることもできるのよ」
黄色の薔薇の庭園を思い描くように、花音《はなね》の心から溢れ出す黄色の薔薇がドレスから生まれて棘も茎も怒りよりも優しさに変えることで誰もが微笑ましく思う光景へと繋がる。
「あなたの微笑みはわたしの花よりも綺麗で可愛くてわたしまで微笑んでしまう…素敵な魔法よね?」
白鳥が薔薇の庭園へと筆を置いて一気に移り変わら、花音《はなね》だけのステージが作り出せる。
この薔薇の庭園は貴族のお茶会じゃなくて、友達とお菓子を食べたり話したりする大切な時。
痛い棘も長く太い茎も、少し怖がってしまうけど、このステージではそれら全てが癒しとなって誰もが微笑む最高に素敵な物。
わたしのステージはわたしだけの物じゃない。
大切な人たちの物でもある。
勝ちたいという気持ちは花音《はなね》にも確かにある。
だが、それよりも、大切な人や自分が持つ最大級の力で形を生み出し、その想いがステージに表現される。
花音《はなね》の可愛らしさとは人の想いで形作られているのかもしれない。
「いい? わたしはあなたと微笑むことで、この薔薇の庭園が完成する。それはあなたがわたしのために微笑んでくれるから。あなたの微笑みがわたしを元気にさせてくれる…違う?」
薔薇の庭園がステージ全体を取り囲むように綺麗に誰もが微笑ましく心惹かれて拍手を贈ろうとした瞬間。
「ダメよ」
後ろでじっと花音《はなね》のステージを見て我慢の限界を超えた翼《つばさ》が花音《はなね》の手を掴み、少し雑に後ろに引っ込ませて自分の出番を強引に再開する!
「薔薇なんてなにも大したことじゃない。花は飛べない、花は羽が生えない。ただ地上に咲くだけ。でも、鳥は違う。鳥には立派な翼があるから高く飛べる。あなたを微笑ましくできるのはあたしだけ!」
そう歌った瞬間からステージが青色の鳥の翼の欠片が振り落ちて薔薇の庭園が一瞬で消えてしまった。
花音《はなね》はその光景を見たことで自信を失うかと思いきや?
「だからなによ? わたしの花は確かに飛べない…飛べないけど、人を笑顔にできる最後の物なのよ! あなたに微笑みをあげられるのは花なの!」
負けずにまた一度薔薇の庭園がステージに描かれて花音《はなね》の歌声でさらにそれが広がっていく。
「薔薇は棘も茎もあるけれど、それは想いを変えれば癒しにもなる。なにも怖がらなくても、なにも不安にならなくてもいいの。わたしだけを見てほしい、あなただけの微笑みをわたしだけに見せてほしい…ただそれだけよ」
こんなの初めて。
こんなに必死にさせられるなんて…本当にすごい。
わたしはもっとできたんだ…もっと形を作れるんだ。
知らなかった、わたしの輝きはまだまだ広がっていく。
「あ、は、あっ」
力がどんどん血液巡回のように流れが止まらず汗も涙も止まらずに花音《はなね》はステージから降りて倒れ、同時に薔薇の庭園が白鳥の翼に戻り勝者が決まってしまった。
この会場にいる全ての人間が言葉を失い、裏で待機していた律《りつ》が五百メートル走で五秒台を切るような速さで花音《はなね》の元に行き、横に抱きかかえてこう言った。
「花音《はなね》、よく頑張った。ちゃんと見ていたぞ」
少し悔しそうに涙を精一杯瞳の中で耐えて流さず励ましの言葉を言ってくれた律《りつ》に、花音《はなね》も同じように悔し涙を浮かべてそれを誰にも見せないように必死に両手で隠す。
「う、ふっ、ああああああっ…悔しい! 悔しいよ」
初めて負けを認めた花音《はなね》の姿に、観客席にいるファンや異等義《いらぎ》は大きな大きな拍手を無言で贈って花音《はなね》のステージを喜びの意味を表した。
「ううっ、なんて予想外な結果なのでしょうか!? ワタシはこんなにも涙を流すほどのステージを見たのは初めでです。さあ、結果をご覧いただきましょう!」
異等義《いらぎ》の司会進行と共に天声《あまごえ》から水色の羽が贈られたのは。
「あたしだ!」
当然、最後までステージを描いた翼《つばさ》が選ばれた。
「嬉しい…って、喜んでいいのかな?」
花音《はなね》さんがステージから降りてしまったのは力尽きただけで、もしまだ続けていたらあたしは負けてた。
「これって、本当にいいのかな?」
ちょっとだけ冷や汗をかいて首を傾げる翼《つばさ》に、律《りつ》がこう言った。
「おめでとうございます。花音《はなね》が負けを認めたのは今回が初めでです。次も花音《はなね》の分まで頑張ってください」
満面の笑みでそう言われた翼《つばさ》も笑顔で頷き、腕が千切れそうなくらいに高く両手を挙げて勝利を喜ぶ。
「あっはははははっ! あたしは次も決勝戦でも勝って優勝する! みんなが想像できないくらいの最高のステージ作るからちゃんと見ててね!」
こうして、翼VS花音の対決の結果は翼《つばさ》の勝利で幕を閉ざした。
次のお話は空音VS華恋。
どちらが勝つのか、お楽しみに!


