選ばれた歌姫

今年の「音を掴む者」の大会は予想外のことばかりだった。
はながかれんを誘惑し、そらはほしぞらと踊り出した。
今まで一度もなかったことが今年は起きた。
きっとこうなったのは全て音羽《おとは》が原因。
音羽《おとは》を歌姫に選んだことは後悔してない。
音羽《おとは》はわたしの願いを叶えてくれる大切な存在。
でも、大会で音羽《おとは》は天使ではなく悪魔になった。
わたしは最初から分かっていた。
扉の中にいる天使と悪魔は音羽《おとは》の心に住み着いた幻覚。
もう百年経ったというのに、わたしは気づかなかった。
天使と悪魔は音羽《おとは》の心の欠片。
だから、決めた。
今年は特別な一年にする。
「最高に楽しいステージを作りなさい」


十一月に入った。
そして、新たなコンテストが開催されることになった。
「わたしの相手は星宙《ほしぞら》さん」
「わたしと対決するのは翼《つばさ》」
「ほう、我の相手は華恋《かれん》」
今まで同じ属性同士の大会しかなかったけれど、天声《あまごえ》の命令で新たなコンテストが作られた。
もちろんその知らせを聞いた歌姫や王子様は突然のことでで困惑したり衝撃を受けたが。
「やります」
「面白いよ」
「やってやろう!」
歌姫としての自覚を強調されることがなによりも嬉しそうだった。
対戦相手は事前に天声《あまごえ》から送られた手紙でとっくに決まっていた。
羽音《はおん》対星宙《ほしぞら》。
翼《つばさ》対花音《はなね》。
空音《そらね》対華恋《かれん》。
これが第一戦。
二回戦、決勝まで行われる大きなコンテスト。
今回は「音を掴む者」ではないので、その大会で「音」を掴み勝利した歌姫はそのままで「音」を奪われることはない。
それも、今回の優勝特典には。
天声《あまごえ》がデザインしたドレスが贈られる貴重なコンテストとなる。
それを知った六人のやる気は爆上がりで早速ドレスのデザインに取りかかり、寝る時間まで削ってそれぞれ一週間で完成させた。



羽の館。
「奏《かなで》、わたし、勝てるかな?」
「んー、星宙《ほしぞら》ちゃんは負けず嫌いすぎて常に本気を出しているけど、どこかで必ず壊れてステージをめちゃくちゃにしてしまうところがあるから…ん〜、なんとも言えないね」
「そっか…」
星宙《ほしぞら》さんのステージはこの前の大会で一度だけ見たことがあるけど、とても綺麗だった。
わたしにはあのステージは作れない。
でも、どこかあの時のわたしと似たような感覚があるのは気のせいかな?
「感情が爆発してしまったら、どうなるんだろう?」
不思議に思うことも無理はない。
特に星宙《ほしぞら》のステージは所々ボロボロで固まったことなんてほとんどない。
失敗したら弦《げん》がステージに立ち天声《あまごえ》から傷をつけられても星宙《ほしぞら》はなんとも思ったことはない。
弦《げん》の救いは全て弦《げん》に不利益なことしかない。
けれど、弦《げん》は星宙《ほしぞら》から離れたことは一度もない。
それだけ強い絆で結ばれているから。
「音羽《おとは》ちゃん」
「なに?」
「僕は君がこれからどんな姿になってもずっとそばにいるから…忘れないでね。僕だけが君を好きでいられるから、永遠にね」
暗くまるでこれから起こるなにかを知っていてそれがなにかの不幸が訪れことを怖がって体中を震わす奏《かなで》を不思議に首を傾げる音羽《おとは》はゆっくり抱きしめて頭を撫でてこう言った。
「大丈夫。わたしはいつまでもわたしのままだよ。どんな姿になっても、絶対にみんなことは忘れない。約束だよ、わたしも永遠に奏《かなで》だけを好きで居続ける」
その言葉が今の音羽《おとは》を維持しているのも間違いないこと。
「うん、信じてるよ」
音羽《おとは》ちゃんは嘘をつかない。
純粋で誰よりも優しくて心がしっかりとしている。
僕だけのお姫様だね。
これから開催されるコンテストの結果がどんな形になったとしても、みんなが納得できるように天声《あまごえ》は選んだのだ。
「みんなが幸せになれる未来はわたしが作る」


空の館。
「ん〜」
「ほしちゃん? どうしたの?」
「む〜」
「なにも言わないと分からないよ?」
「…こんな対決、全然意味がない」
「どうしてそう思うの?」
「だって、勝つのはわたしに決まっているから」
そう、羽音《はおん》対星宙《ほしぞら》の対決の結果は分かりきっている。
「羽は星には届かない」
天使の羽は天にまで高く飛ぶことができても、宇宙を巡る星には圧倒的に届くことはない。
だが、星宙《ほしぞら》はなにか不満があるようで。
「勝者が決まっている対決なんてなにも楽しくない。やる気が失せる」
「そうかな? 勝者が決まっている対決こそ楽しいんだよ」
「は? どこが?」
「だって、デビューしたばかりの羽音《はおん》ちゃんがたくさん経験を積んだほしちゃんに勝てる余裕なんてない。むしろそれが面白いんだよ。勝者に弱者が無駄に必死に追いつこうとする遊びは誰が見ても面白いと思うよ」
満面の笑みでサラッと恐ろしい言葉を言う弦《げん》だが、星宙《ほしぞら》が勝者になることが確定している喜びが燃え上がる太陽のように心が熱くなってつい本音が出てしまったようだ。
そんな弦《げん》を星宙《ほしぞら》は特になにも思うことなく無表情で頷くだけ。
「そうね。勝者が決まった対決というのも悪くないかもね。羽音《はおん》には悪いけど、わたしが勝たせてもらう」
わたしはずっと負けてばかりだったから、勝つことが叶うこのコンテストでわたしは優勝して次に活かす。
真剣と本気な眼差しで覚悟を決めて拳を握りしめて弦《げん》にこう言ってしまう。
「わたしが勝ったら、わたしだけがを見て。わたしたちは将来結婚する間柄だから、その…たまには甘えさせて」
恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めるほど勇気を出した星宙《ほしぞら》を、弦《げん》はとても嬉しそうに楽しそうに明るく笑って力を入れずにそっと抱きしめる。
「うん、ほしちゃんは必ず勝つよ。今までの苦労がこのコンテストではそれが報われる。大丈夫、いつでもぼくがそばにいるよ」
「うん、ありがとう」
羽音《はおん》と星宙《ほしぞら》の対決は一体どちらが勝つのか?
それは次のお話までお楽しみに。


花の館。
「はな、翼《つばさ》に勝てる自信はあるか?」
「分からない。花は翼《つばさ》に勝てるわけないよ」
だって、本当ことだから。
花のトップのわたしでも、他の属性と戦うなら話は別。
でも、もし勝てるなら。
ゆっくり顔を上げてはなは律《りつ》にあるお願いをする。
「今回のドレスはもう決まったけど…あれで勝てる自信がないから作り直したい」
不安なのか、瞳は激しく揺れているはなに、律《りつ》はその不安を消し去るように満面の笑みで頷き頭を撫でる。
「分かった。君がそこまで本気ならおれも君と一緒に頑張る。君のステージに勝つ者はいない」
律《りつ》が歯を見せる元気な笑顔を見せたら、はなは決まっている可愛らしく愛らしく微笑んで抱きつく。
「うん、一緒に頑張ろう」


羽の館。
「うーん、あたし、このコンテストで勝つのか分からない」
「そんなに深く考えないで。翼《つばさ》ちゃんは絶対に勝つ! オレはそう思ってるから、弱気にならないで」
翼《つばさ》ちゃんは負けを知らなかった。
でも、この前の大会で初めて自信を失くした。
オレなんかが慰めてもいいのか分からなかったけど、コンテストではなさんに勝てるとオレは信じてる。
「翼《つばさ》ちゃんは負けたりしない」
いつもは弱気なのにはなに勝つことをまるで知っているかのように翼《つばさ》を後押しする唄《うた》のは笑顔と優しさと日の光に照らされたような眼差しが翼《つばさ》に自信くれる。
また翼《つばさ》も唄《うた》のその表情に惹かれて満面の笑みで首が折れそうなくらいに頷いて納得し、手を握る。
「うん、勝つのはあたし! 花のトップでも、あたしは羽だから関係ない。このコンテストは平等に戦える。あたしらしく倒してみせる!」
翼《つばさ》と花音《はなね》の対決の行く末は一体どうなるのか?


空の館
「はあ、何故こんなことになったんでしょうね?」
「天声《あまごえ》様が決められたことです」
「それは分かっています…分かっていますが、他の属性の方と対決するのが初めてなので緊張しています〜」
そらは空音《そらね》と違って、自信も誇りも感じることが少ない。
でも、それを分かった上で楽《がく》はなににも負けずにちょっとクスッと楽しそうに笑う。
「大丈夫です。他の属性の方と対決しても勝つのは空音《そらね》様ですよ。きっと空音《そらね》様もそう言うと思いますよ?」
その言葉で、そらは嬉しそうに穏やかに微笑み眼鏡を外す。
「うふふふふふっ! 我に勝とうとするのは悪くないが、負けて後悔しても知らないぞ!」
一瞬で自信と誇りを持つ空音《そらね》に変わったことが、楽《がく》にとってはもう慣れたことなので、気にせずこう言う。
「空音《そらね》様、あなたなら絶対に勝ちます。同じステージしか作れない華恋《かれん》様は空様《そらね》に勝てません。なので、もっと力強く前に立ってください。私は裏で応援します」
優しい言葉、思いやりの言葉。
楽《がく》が王子様らしいかっこよく楽しそうに笑いながら抱きしめてくれたことが空音《そらね》は恥ずかしいのか、照れているのか? どちらの感情になっていても、笑顔でこう言った。
「ありがとう。最近のお前は甘えん坊だな」
「ダメですか?」
「いいや、悪くない。お前の応援に応えられるように頑張ってやろう」
空音《そらね》のステージに不可能はない。
誰も作り出せないような全く新しいステージを作れるのは空音《そらね》の強み。
さあ、どんなドレスで対決するのか?



花の館。
「うふふふふふっ! 今回のコンテストは余裕ですわ!」
「そうですね、対戦相手も大した方ではありません。必ず華恋《かれん》様が勝つと俺は信じています」
だって、こんなに楽しそうな笑顔は初めて見たから。
きっと天声《あまごえ》様は華恋《かれん》様に有利なチャンスを与えてくださったと俺はそう思っている。
花様が「音を掴む者」の大会出るようになってから華恋《かれん》様は一度も勝てたことがない。
でも、今回のコンテストは違う。
他の属性の方と対決するなら華恋《かれん》様は余裕で勝つこと間違いないしと言える。
「華恋《かれん》様、優勝してください」
右膝を床についてまるでプロポーズ体制のように手を差し伸べる舞《まい》を
「急にどうしたの?」
と、不思議そうに首を傾げる華恋《かれん》。
わたくし、なにか変なこと言ったかしら?
まあでも、舞《まい》がこんなに本気の眼差しを向けられてしまったらそれに応えましょう。
決意と覚悟で華恋《かれん》はなににも色が移り変わらない芯の強い椿のように美しさと本気の微笑みでその手を握った。
「ええ、必ずわたくしが優勝してみせますわ!」
握られた手の感触が少し冷たくても、舞《まい》は華恋《かれん》のやる気を人一倍出せる特別な魔法のような物を持っているのかもしれない。
「華恋《かれん》様のステージ、とても楽しみです」
「ええ、わたくしのステージは全てわたくしのため、舞《まい》のためでもあるのよ」
「はい、知っています」
「ほら、ドレスの最終チェックをしましょう」
空音《そらね》と華恋《かれん》の対決ははどうなるのか?


みんな、やる気が出てきて良かった。
初めてのことだから戸惑いも衝撃もあったみたいだけど、みんなはわたしの期待に応えてくれるからそれでいい。
「みんな、ありがとう。わたしがデザインしたドレスは誰がもらえるかはわたしにも分からないけど、きっと優勝すれば、これからの未来に繋がる。みんな、頑張って」
心の中にある特別な輝きがティアラを生み出し、歌姫を作る。
百年ずっと一人でしてきたことでも、選んだ歌姫のステージはとても心が動く素敵な物を作ってくれる。
「わたしにはできないことはみんなが叶えてくれる。歌姫を作り続けて良かった」
天声《あまごえ》が望む物はきっと誰かが見つけてくれる。
今まで考えられなかったことが、ある歌姫のおかげでそれを実現する。
心に手を当てて、目を閉じて開いたら素敵な未来がっていると信じて。
「…音、もうすぐあなたの出番。これがわたしがあなたに与える最後のチャンス。これ以上わたしを裏切らないで、役目を果たしなさい」
次のお話からコンテストが開催されます。
優勝者は誰になるのか?