「そら様、お時間です」
「はい、行きますね」
今回のステージテーマは「尊敬」。
先輩、友達、師匠。
誰かの心にある「尊敬」があるように、もちろんそらを支える楽《がく》もまた「尊敬」する人がいる。
「そら様、今回のドレスはこちらの部屋にご用意しております」
私はそら様を「尊敬」している。
年下のそら様は私よりもずっと大人で賢く冷静で常に落ち着いている。
私には足りない物をそら様は既に持っておられる。
こんなに近くにいるのに、私はまだまだ未熟で頼りない。
だが。
「楽《がく》さん、今回のドレスはどうですか?」
主体となる色は薄紫色。
四角のパステルカラーのビーズやリボンで形を整えて飾ったら完成した。
とても簡単で「尊敬」とはこのドレスに込められた特別な意味にもなる。
満面の笑みで満足そうにドレスを見つめるそらの姿に、楽《がく》も少し嬉しそうに笑って頷いた。
「はい。今回のドレスは空音《そらね》様には少し可愛すぎると思いますが、きっとステージに立てば印象も変わると思います」
完璧な褒め言葉とクスッと楽しそうに笑う楽《がく》を見て、そらは頬を赤く染めるほどに嬉しそう。
「うふっ、そんなに褒められると照れてしまいますね。ありがとうございます」
時々王子様というより本音で褒めてくれる楽《がく》がそらにとってはついつい頭を撫でたくなるほど嬉しそうに微笑む。
この撫でられた感触がどれほど楽《がく》にとって喜ばしいことか。
クスッと楽しそうに笑うことでその光景を永遠に忘れることはない。
「私はただ事実を言っただけですよ。そら様に喜んでいただけるのなら、もっと素敵な言葉を用意します」
こんな些細な言葉でも、そら様は私を見て喜んでくださる。
でも、今はそれよりも先に。
「さあ、ドレスに着替えてステージに行きましょう。皆様待っておられますよ」
楽《がく》に差し伸べられた手を握るのはそらだけ。
「はい。頑張りますね」
そう言ったそらが部屋に入りドレスに着替えてティアラを頭に飾り部屋から出てきた感想は。
「やはりそら様に似合わない物はありません」
これは王子様としてではなく、個人的な感想を述べただけ。
それを聞いた空音《そらね》は怪しく麗しく微笑み。
「うふふふっ、あっはは! そうだろう、そうだろう! 我に似合わない物など存在しない。楽《がく》が一番分かってくれて我は嬉しいぞ」
ティアラを頭に飾った瞬間から空音《そらね》に切り替わる。
「ええ、私は本心を言ったまでです。そのようにお褒めいただき光栄です」
切り替わった空音《そらね》に態度を変えることなく褒められた時は素直にお辞儀をして喜びを感じる楽《がく》。
「空音《そらね》様、行きましょう」
「ああ」
ゆっくり手を取り合い繋いで扉の中に入り生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
「空音《そらね》様!」
「待っていました」
「今日も楽しみです」
今回の会場の規模は五百人程度。
大会と違って、ソロでステージに立つ場合は規模の大きさが限られてくる。
多くて千人。
今回は少し小さめの会場だが、いつも通りチケットは即完売。
みんな空音《そらね》のステージを待っていたのだ。
「うふふふっ、あっはは! お前たち、我を待ってくれて感謝する。お前たちの心に届く最高のステージを作ってやろう!」
そう言って、空音《そらね》は一度深呼吸をする。
「ふー、尊敬とは礼儀でもある。だが、礼儀であろうと、相手の心に手を伸ばすことも良いこと。尊敬がやがて幸せになれるのなら、我もその尊敬とやらに手をつけよう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「私はあなたを尊敬しています。その姿勢、言動、行動全てが私の全てを叶えてくれる。ただ尊敬しているわけじゃない。ちゃんと愛情と正しさが心にあるから、私はあなたを一生尊敬します」
ドレスに飾られている四角のビーの分身がが空音《そらね》の周りを覆い、次第にそれがステージ全体を取り囲み一瞬ステージが真っ暗になった瞬間から泡が弾けていつの間にかステージに真っ赤な太陽が描かれている。
「そう、この太陽は私の心に明かりを灯した証。晴れた空でも雨に濡れた空には遠く及ばないこの太陽こそが私があなたに対する尊敬。太陽みたいに眩しく輝くあなたのそばにいさせてください」
空音《そらね》が思うこの太陽は心の中に明かりを灯し、その明かりをくれた「尊敬」という言葉にたどり着いた結果に誰もがそう感じた。
「うっふふ、どうだ? 我のステージを見て感動しただろう?」
今回のテーマは悩んだ。
我は正直「尊敬」している人はただ一人だけだから、その人に対する「尊敬」を我が思う形でこのステージを作り上げた。
「分かるだろう?
我の「尊敬」」している人は楽《がく》、お前だけだ。
このステージを作り上げた空音《そらね》にたくさんの拍手が贈られ、空音《そらね》は手を振りながらステージを降りて館に戻った。
「ふー、今日も疲れました」
早速私服に着替えたそらはソファに座り休憩をする。
「お疲れ様です。今回も素晴らしいステージでした」
いつものフルーツジュースをそらに渡す楽《がく》。
「うふっ、私は多分このジュースを飲むためにステージに立っているかもしれないですね」
「そうですか?」
「うふふっ、だって、こうして楽《がく》さんにほめてもらえて好物のジュースを飲める一時は私にとってはとても嬉しいことですね」
心からそう思って笑顔で伝えてくれた温かい言葉は楽《がく》の心にもちゃんとよく届いてしっかり離すことなく手を掴む。
「そう思ってくださるだけで私はこれからも頑張れます。本当に、あなたと出会えたことは永遠に心に残り続けます」
そら様と空音《そらね》様。
二人は性格も言葉遣いも全く違う。
初めてお会いした時は驚いた。
三年前の冬。
王子様に選ばれた当時中学三年生だった楽《がく》は早速そらに会いに行っていた。
行きつけの街にある小さなカフェで一人佇む当時中学二年生だったそらは写真とは全くの別人だった。
丸眼鏡に髪を一つ結びにしている落ち着いた子。
実際に届いた写真は真っ暗なワンピースに黒ネイルに黒の小さな王冠型の髪飾り。
表情は怪しく麗しく微笑むちょっと不思議な人に思えるはずが、実際は。
「あなたが私の王子様ですね。今日からよろしくお願いします」
礼儀正しく挨拶をするそらに、楽《がく》もお辞儀をして挨拶を交わす。
「楽《がく》です。今日からあなたの王子様として、あなたを精一杯お支えします」
まあ、どんな方でも私の結婚相手は変わらない。
全て上手くすればこの方も私も納得できる未来が待っている…はず。
時は過ぎて春になる頃。
「そら様、ご準備はいかがですか? 今日はステージに立てますか?」
「え、え、っと、そうですね…また今度にしますね」
そらは歌姫に選ばれてからもう三ヶ月経ったというのに、まだデビューステージを果たせていない。
楽《がく》はそれについて少し怒っていた。
「はあっ」
そら様は一体いつになればステージに立ってくださる?
私はドレスも曲も完璧にご用意したのに…まるで私が浮かれていたみたいじゃないか?
王子様に選ばれたことは今でも嬉しく思っている。
こんなに光栄なことはないと思っている。
だが、そら様は一度も私にあの写真の姿を見せてはくれない。
何故だ?
心の怒りは自分一人だけが感じる物。
けれど、その意味を伝えるのも大切な一歩となる。
さあ、どうする?
「あ、あの」
「はい」
「私のままステージに立った方が皆さん受け入れてくれますか?」
「えっ」
それはどういう意味で?
あの写真ではなく、穏やかに笑う普通の子としてステージに立つことを願うそらに、楽《がく》は大雨に打たれて風を引いてしまうほどの冷たい空気に耐えることができずにこう言ってしまった。
「何故あなたは本当の自分を隠すのですか? 何故あなたは平気な顔をしているのですか?」
私は一度もそら様の本当の姿を見ていない。
まだ私はそら様に信頼されていないからか…。
諦めたように暗く落ち込んだ顔をする楽《がく》の姿を見たそらはゆっくり深呼吸をして覚悟を決める。
「分かりました。楽《がく》さんがそこまで言うならもう迷いません。でも、これだけは言わせてください。『私を嫌いにならないで』くださいね。約束ですよ」
そう言って、そらは眼鏡を外すと。
「うふふふふっ、あっははははは! 我のステージを見たい奴がいるなら今日立ってやろう。我のステージを見て心奪われて我の下僕になるといいだろう。楽《がく》、お前には永遠の責任を取ってもらうぞ。我を覚醒させたのはお前だ、絶対に逃がしはしないからな!」
穏やかな笑顔が一瞬で壊れて、怪しく麗しく微笑む闇のような暗い姿に移り変わったそらに、楽《がく》は感動したのか? 涙を流しながら拍手をした。
「ありがとうございます。やっと本当のあなたを見られました。ええ、あなたを呼び起こした責任は永遠に取ります。だから、安心して今日のステージに立ってください」
私だけに見せなかったそら様の本当の姿。
もう落ち込むことはない。
私はあなたを永遠に守り、幸せにする。
「さあ、ドレスに着替えて行きましょう」
「ああ」
用意された部屋にあるドレスに着替えたそらは主体となるドレスの色は真っ黒で闇っぽくし、紫色のビーズでドクロを飾り、胸元には同じ紫色の宝石が飾られた最高の一着。
あとはティアラを頭に飾り準備完了。
「どうだ?」
これが本当の姿となったそらの姿に、楽《がく》は満面の笑みで頷き手を握った。
「とてもよく似合っています。あなたの姿にふさわしいデザインにしましたが、これで合っています」
「そうか。これはお前がデザインしたのか」
「はい。そら様には少し派手すぎますが、今の空様にはとても似合っていて、本当に良かったです」
このドレスを着てステージに立つ空様をずっと想像していた。
私は美術の成績はそこまで良くないが、大切な人のために一生懸命考えて作った努力が報われた。
この方しかいない。
私はあなたが心から笑ってくださるなら全てを捧げます。
「きっとこのデビューステージは間違いなく成功します。行きましょう」
三ヶ月経ってやっとやる気になってくれたのだから、私も迷わずエスコートする。
手を握り扉の中に入り生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
この日は永遠に忘れることのない特別な一日。
空も楽《がく》もこの日からお互いを受け入れて支え合って三年経った今でも仲良くしている。
時は現在となり空の館で一息ついた二人。
「楽《がく》さん。私いつか、音羽《おとは》さんとステージに立ちたいです」
穏やかに温かみのある笑顔を見せてくれるそらに、楽《がく》も笑顔で答えた。
「はい、そら様にその気があるのなら、私は精一杯応援します。」
手を重ねておでこを擦り合わせて愛し合うそらと楽《がく》。
「音羽《おとは》さんは我を受け入れてくれました。私と我の態度が違っていてもなにも驚いたり距離を置かずに優しい笑顔で会話を広げてくれる…本当に、素敵な人と出会えて私たちは幸せです」
今まで誰も私と我を受け入れてはくれなかった。
態度も言葉遣いも全く違う。
その「違い」が人にとっては面倒だったり引かれたりして辛かったけど、楽《がく》さんや音羽《おとは》さんたちとであって、私は我を隠すことをやめた。
「うふっ、今日は二人で食事をしませんか?」
「えっ、いいのですか?」
「はい。だって楽《がく》さんは私の結婚相手ですから、将来一緒になる人と仲良くなりたいと思うのは普通のことですよ」
「そら様…そうですね、私たちも将来世界で一番幸せな二人になりましょう」
「はい!」
穏やかに笑う。
怪しく麗しく微笑む。
正反対でも楽《がく》はそらと空を心から受け入れた。
選ばれた者同士、お互いを大切にし分かり合えれば仲は深まる。
人と人の人生はそうやって繰り返されて繋がっていく。
「私たちは楽《がく》さんが好きです。今までもこれからもずっと好きです」
そっと抱きしめてくれるこの手の温かさをくれるそらに、楽《がく》は顔を真っ赤に染めるほど嬉しそうにその手に頬を擦り寄せて頷いた。
「はい、私もそら様と空様が好きです。まだまだ未熟な私ですが、これからもよろしくお願いいたします」
こんなにお互いの価値観や生き方を受け入れてくれる関係は羨ましいと言える。
これが二人の幸せの「形」。
決して壊れることのない強く結ばれた関係。
いつまでも、二人の幸せが世界へと広がっていきますように。
「はい、行きますね」
今回のステージテーマは「尊敬」。
先輩、友達、師匠。
誰かの心にある「尊敬」があるように、もちろんそらを支える楽《がく》もまた「尊敬」する人がいる。
「そら様、今回のドレスはこちらの部屋にご用意しております」
私はそら様を「尊敬」している。
年下のそら様は私よりもずっと大人で賢く冷静で常に落ち着いている。
私には足りない物をそら様は既に持っておられる。
こんなに近くにいるのに、私はまだまだ未熟で頼りない。
だが。
「楽《がく》さん、今回のドレスはどうですか?」
主体となる色は薄紫色。
四角のパステルカラーのビーズやリボンで形を整えて飾ったら完成した。
とても簡単で「尊敬」とはこのドレスに込められた特別な意味にもなる。
満面の笑みで満足そうにドレスを見つめるそらの姿に、楽《がく》も少し嬉しそうに笑って頷いた。
「はい。今回のドレスは空音《そらね》様には少し可愛すぎると思いますが、きっとステージに立てば印象も変わると思います」
完璧な褒め言葉とクスッと楽しそうに笑う楽《がく》を見て、そらは頬を赤く染めるほどに嬉しそう。
「うふっ、そんなに褒められると照れてしまいますね。ありがとうございます」
時々王子様というより本音で褒めてくれる楽《がく》がそらにとってはついつい頭を撫でたくなるほど嬉しそうに微笑む。
この撫でられた感触がどれほど楽《がく》にとって喜ばしいことか。
クスッと楽しそうに笑うことでその光景を永遠に忘れることはない。
「私はただ事実を言っただけですよ。そら様に喜んでいただけるのなら、もっと素敵な言葉を用意します」
こんな些細な言葉でも、そら様は私を見て喜んでくださる。
でも、今はそれよりも先に。
「さあ、ドレスに着替えてステージに行きましょう。皆様待っておられますよ」
楽《がく》に差し伸べられた手を握るのはそらだけ。
「はい。頑張りますね」
そう言ったそらが部屋に入りドレスに着替えてティアラを頭に飾り部屋から出てきた感想は。
「やはりそら様に似合わない物はありません」
これは王子様としてではなく、個人的な感想を述べただけ。
それを聞いた空音《そらね》は怪しく麗しく微笑み。
「うふふふっ、あっはは! そうだろう、そうだろう! 我に似合わない物など存在しない。楽《がく》が一番分かってくれて我は嬉しいぞ」
ティアラを頭に飾った瞬間から空音《そらね》に切り替わる。
「ええ、私は本心を言ったまでです。そのようにお褒めいただき光栄です」
切り替わった空音《そらね》に態度を変えることなく褒められた時は素直にお辞儀をして喜びを感じる楽《がく》。
「空音《そらね》様、行きましょう」
「ああ」
ゆっくり手を取り合い繋いで扉の中に入り生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
「空音《そらね》様!」
「待っていました」
「今日も楽しみです」
今回の会場の規模は五百人程度。
大会と違って、ソロでステージに立つ場合は規模の大きさが限られてくる。
多くて千人。
今回は少し小さめの会場だが、いつも通りチケットは即完売。
みんな空音《そらね》のステージを待っていたのだ。
「うふふふっ、あっはは! お前たち、我を待ってくれて感謝する。お前たちの心に届く最高のステージを作ってやろう!」
そう言って、空音《そらね》は一度深呼吸をする。
「ふー、尊敬とは礼儀でもある。だが、礼儀であろうと、相手の心に手を伸ばすことも良いこと。尊敬がやがて幸せになれるのなら、我もその尊敬とやらに手をつけよう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「私はあなたを尊敬しています。その姿勢、言動、行動全てが私の全てを叶えてくれる。ただ尊敬しているわけじゃない。ちゃんと愛情と正しさが心にあるから、私はあなたを一生尊敬します」
ドレスに飾られている四角のビーの分身がが空音《そらね》の周りを覆い、次第にそれがステージ全体を取り囲み一瞬ステージが真っ暗になった瞬間から泡が弾けていつの間にかステージに真っ赤な太陽が描かれている。
「そう、この太陽は私の心に明かりを灯した証。晴れた空でも雨に濡れた空には遠く及ばないこの太陽こそが私があなたに対する尊敬。太陽みたいに眩しく輝くあなたのそばにいさせてください」
空音《そらね》が思うこの太陽は心の中に明かりを灯し、その明かりをくれた「尊敬」という言葉にたどり着いた結果に誰もがそう感じた。
「うっふふ、どうだ? 我のステージを見て感動しただろう?」
今回のテーマは悩んだ。
我は正直「尊敬」している人はただ一人だけだから、その人に対する「尊敬」を我が思う形でこのステージを作り上げた。
「分かるだろう?
我の「尊敬」」している人は楽《がく》、お前だけだ。
このステージを作り上げた空音《そらね》にたくさんの拍手が贈られ、空音《そらね》は手を振りながらステージを降りて館に戻った。
「ふー、今日も疲れました」
早速私服に着替えたそらはソファに座り休憩をする。
「お疲れ様です。今回も素晴らしいステージでした」
いつものフルーツジュースをそらに渡す楽《がく》。
「うふっ、私は多分このジュースを飲むためにステージに立っているかもしれないですね」
「そうですか?」
「うふふっ、だって、こうして楽《がく》さんにほめてもらえて好物のジュースを飲める一時は私にとってはとても嬉しいことですね」
心からそう思って笑顔で伝えてくれた温かい言葉は楽《がく》の心にもちゃんとよく届いてしっかり離すことなく手を掴む。
「そう思ってくださるだけで私はこれからも頑張れます。本当に、あなたと出会えたことは永遠に心に残り続けます」
そら様と空音《そらね》様。
二人は性格も言葉遣いも全く違う。
初めてお会いした時は驚いた。
三年前の冬。
王子様に選ばれた当時中学三年生だった楽《がく》は早速そらに会いに行っていた。
行きつけの街にある小さなカフェで一人佇む当時中学二年生だったそらは写真とは全くの別人だった。
丸眼鏡に髪を一つ結びにしている落ち着いた子。
実際に届いた写真は真っ暗なワンピースに黒ネイルに黒の小さな王冠型の髪飾り。
表情は怪しく麗しく微笑むちょっと不思議な人に思えるはずが、実際は。
「あなたが私の王子様ですね。今日からよろしくお願いします」
礼儀正しく挨拶をするそらに、楽《がく》もお辞儀をして挨拶を交わす。
「楽《がく》です。今日からあなたの王子様として、あなたを精一杯お支えします」
まあ、どんな方でも私の結婚相手は変わらない。
全て上手くすればこの方も私も納得できる未来が待っている…はず。
時は過ぎて春になる頃。
「そら様、ご準備はいかがですか? 今日はステージに立てますか?」
「え、え、っと、そうですね…また今度にしますね」
そらは歌姫に選ばれてからもう三ヶ月経ったというのに、まだデビューステージを果たせていない。
楽《がく》はそれについて少し怒っていた。
「はあっ」
そら様は一体いつになればステージに立ってくださる?
私はドレスも曲も完璧にご用意したのに…まるで私が浮かれていたみたいじゃないか?
王子様に選ばれたことは今でも嬉しく思っている。
こんなに光栄なことはないと思っている。
だが、そら様は一度も私にあの写真の姿を見せてはくれない。
何故だ?
心の怒りは自分一人だけが感じる物。
けれど、その意味を伝えるのも大切な一歩となる。
さあ、どうする?
「あ、あの」
「はい」
「私のままステージに立った方が皆さん受け入れてくれますか?」
「えっ」
それはどういう意味で?
あの写真ではなく、穏やかに笑う普通の子としてステージに立つことを願うそらに、楽《がく》は大雨に打たれて風を引いてしまうほどの冷たい空気に耐えることができずにこう言ってしまった。
「何故あなたは本当の自分を隠すのですか? 何故あなたは平気な顔をしているのですか?」
私は一度もそら様の本当の姿を見ていない。
まだ私はそら様に信頼されていないからか…。
諦めたように暗く落ち込んだ顔をする楽《がく》の姿を見たそらはゆっくり深呼吸をして覚悟を決める。
「分かりました。楽《がく》さんがそこまで言うならもう迷いません。でも、これだけは言わせてください。『私を嫌いにならないで』くださいね。約束ですよ」
そう言って、そらは眼鏡を外すと。
「うふふふふっ、あっははははは! 我のステージを見たい奴がいるなら今日立ってやろう。我のステージを見て心奪われて我の下僕になるといいだろう。楽《がく》、お前には永遠の責任を取ってもらうぞ。我を覚醒させたのはお前だ、絶対に逃がしはしないからな!」
穏やかな笑顔が一瞬で壊れて、怪しく麗しく微笑む闇のような暗い姿に移り変わったそらに、楽《がく》は感動したのか? 涙を流しながら拍手をした。
「ありがとうございます。やっと本当のあなたを見られました。ええ、あなたを呼び起こした責任は永遠に取ります。だから、安心して今日のステージに立ってください」
私だけに見せなかったそら様の本当の姿。
もう落ち込むことはない。
私はあなたを永遠に守り、幸せにする。
「さあ、ドレスに着替えて行きましょう」
「ああ」
用意された部屋にあるドレスに着替えたそらは主体となるドレスの色は真っ黒で闇っぽくし、紫色のビーズでドクロを飾り、胸元には同じ紫色の宝石が飾られた最高の一着。
あとはティアラを頭に飾り準備完了。
「どうだ?」
これが本当の姿となったそらの姿に、楽《がく》は満面の笑みで頷き手を握った。
「とてもよく似合っています。あなたの姿にふさわしいデザインにしましたが、これで合っています」
「そうか。これはお前がデザインしたのか」
「はい。そら様には少し派手すぎますが、今の空様にはとても似合っていて、本当に良かったです」
このドレスを着てステージに立つ空様をずっと想像していた。
私は美術の成績はそこまで良くないが、大切な人のために一生懸命考えて作った努力が報われた。
この方しかいない。
私はあなたが心から笑ってくださるなら全てを捧げます。
「きっとこのデビューステージは間違いなく成功します。行きましょう」
三ヶ月経ってやっとやる気になってくれたのだから、私も迷わずエスコートする。
手を握り扉の中に入り生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
この日は永遠に忘れることのない特別な一日。
空も楽《がく》もこの日からお互いを受け入れて支え合って三年経った今でも仲良くしている。
時は現在となり空の館で一息ついた二人。
「楽《がく》さん。私いつか、音羽《おとは》さんとステージに立ちたいです」
穏やかに温かみのある笑顔を見せてくれるそらに、楽《がく》も笑顔で答えた。
「はい、そら様にその気があるのなら、私は精一杯応援します。」
手を重ねておでこを擦り合わせて愛し合うそらと楽《がく》。
「音羽《おとは》さんは我を受け入れてくれました。私と我の態度が違っていてもなにも驚いたり距離を置かずに優しい笑顔で会話を広げてくれる…本当に、素敵な人と出会えて私たちは幸せです」
今まで誰も私と我を受け入れてはくれなかった。
態度も言葉遣いも全く違う。
その「違い」が人にとっては面倒だったり引かれたりして辛かったけど、楽《がく》さんや音羽《おとは》さんたちとであって、私は我を隠すことをやめた。
「うふっ、今日は二人で食事をしませんか?」
「えっ、いいのですか?」
「はい。だって楽《がく》さんは私の結婚相手ですから、将来一緒になる人と仲良くなりたいと思うのは普通のことですよ」
「そら様…そうですね、私たちも将来世界で一番幸せな二人になりましょう」
「はい!」
穏やかに笑う。
怪しく麗しく微笑む。
正反対でも楽《がく》はそらと空を心から受け入れた。
選ばれた者同士、お互いを大切にし分かり合えれば仲は深まる。
人と人の人生はそうやって繰り返されて繋がっていく。
「私たちは楽《がく》さんが好きです。今までもこれからもずっと好きです」
そっと抱きしめてくれるこの手の温かさをくれるそらに、楽《がく》は顔を真っ赤に染めるほど嬉しそうにその手に頬を擦り寄せて頷いた。
「はい、私もそら様と空様が好きです。まだまだ未熟な私ですが、これからもよろしくお願いいたします」
こんなにお互いの価値観や生き方を受け入れてくれる関係は羨ましいと言える。
これが二人の幸せの「形」。
決して壊れることのない強く結ばれた関係。
いつまでも、二人の幸せが世界へと広がっていきますように。


