十月一日。
この日は音羽《おとは》と音陽《ねひ》の誕生日。
「お姉ちゃん! 今日は私とお姉ちゃんの誕生日だね!」
「うん。そうだね」
朝からハイテンションな音陽《ねひ》が背中からギューッと抱きしめられた音羽《おとは》も心から嬉しそうに頬を赤く染めて寄り添う。
「ふふっ、今日はなにをする?」
「ん〜、あっ、駅前にできたクレープ食べたい。ネットですごく人気あるみたいだからずっと気になってたんだよね〜」
「へえー、そうなんだ。じゃあ、着替えたらそこに行こうか」
「うん! 今日はお姉ちゃんを独り占めできるから嬉しい!」
歌姫になってからお姉ちゃんは他の歌姫と王子様のところに行って私は一人になる時間が増えた…けど、今日は誰にも邪魔されない。
だって、今日は私とお姉ちゃんの誕生日なんだから!
今まで寂しい気持ちを抱えて一人の時間に飽きて嫉妬やヤキモチを焼いていた音陽《ねひ》だったが、今日は予め音羽《おとは》にこう言っていた。
『誕生日は誰とも連絡しないで』
せっかくの誕生日を、それも双子だからこそできることを他人に邪魔されたくない音陽《ねひ》の気持ちは分からなくもないだろう。
「お姉ちゃん、早く着替えて行こう」
「うん」
今日はお揃いの秋らしい橙色の紅葉が描かれた茶色の長袖ワンピースに髪型は三つ編み。
兄妹でお揃いのワンピースを着られる光景は滅多にない。
でも、この兄妹は普通とはかけ離れているので大丈夫だろう。
「よし」
軽く両手で頬を叩く音陽《ねひ》の姿を、音羽《おとは》は少し面白くクスッと笑った。
「ふふっ、音陽《ねひ》、気合い入ってるね」
そう言われた音陽《ねひ》は寂しかったのか、またギュッと抱きしめて甘える。
「だって、やっとお姉ちゃんを独り占めできるのが嬉しいから」
甘えられた可愛さとちょっと震えた声が音羽《おとは》にもよーく伝わって抱きしめ返す。
「ありがとう。今まで寂しい想いをさせてごめんね。今日は二人の時間を楽しもう」
「うん。お姉ちゃんは私の大切な人だから、他の人には渡さない」
「ふふっ、大丈夫だよ。わたしも音陽《ねひ》が大切だから安心して。ほら、行こう」
「うん」
抱きしめ会った腕を離してリビングに行くと、クラッカーの音が耳の奥まで響いて一瞬倒れそうになった二人を両親が笑顔で祝福してくれた。
「ハッピーバースデー!」
「二人共、十三歳の誕生日おめでとう!」
毎年恒例のサプライズに慣れてもいいはずなのに、毎年忘れていた二人はお互いを見つめ合った後、満面の笑みで喜ぶ。
「お父さん、お母さん」
「ありがとう」
今日の主役の二人の姿を見て、両親も笑顔で頷いた。
「今日も似合っているよ」
「ええ、お母さんたちは料理の準備をするからその間、二人で楽しんでね」
思いやりのある大切にしてくれる両親に感謝して二人は笑顔で家を出る。
「はぁ~、びっくりした」
「うん。でも、毎年嬉しいね。お父さんとお母さんがお祝いしてくれるだけでわたしは幸せだよ」
幸せそうに笑う音羽《おとは》に、音陽《ねひ》も笑顔で手を繋いで歩いて駅へと向かう。
「今日を迎えられて嬉しい」
駅に着いた。
駅の目の前にある人気のクレープ屋に着いたのは良かったが。
「え〜、すごい人」
「うん、すごく人気があるんだね」
待ち時間一時間かかるほど人気が高いお店に来てしまった。
ここはキッチンカーではなく、一つのカフェのような感じで中で食べられるようだが、客席の数は三十で全て満席。
どの年齢でも人気のあるこのカフェはネットやテレビで紹介されたことで平日も待ち時間が長く中に入るだけでも難しそう。
それも今日は日曜日なのでより一層人が多いのも納得できる。
けれど、せっかく来たので、二人は行列に並ぶ。
「音陽《ねひ》、ここって事前予約とかできないの?」
「うん、店主がネットが苦手でそういうのはないみたい。不便だよね~」
「うん、でも仕方ないよ。誰だって苦手なことはあるから、それを責めたり悲しむことはないと思うよ」
「そうだね、お姉ちゃんの言う通りだよ」
本当にお姉ちゃんはいつだって人の気持ちを理解して言ってくれる優しく人。
私とは大違い。
双子でも性格は全く同じではなさそう。
でも、それも個性の一つ。
約三十分待ったところで店員に席に案内された二人はメニューを開いた。
「わあ~、どれもおいしそう」
「うん、種類がたくさんあって迷っちゃうね」
フルーツにアイス、他にも季節限定の物まで幅広くあるメニューの中から選んだのは。
「お待たせしました」
音羽《おとは》が選んだのは。
「マロンクリームがたくさん」
秋限定のマロンクリームたっぷりの栗。
音陽《ねひ》が選んだのは。
「こっちもおいしそう」
生クリームとチョコレートクリームたっぷりのイチゴ。
二人共好みの味を選び、一口食べたら可愛らしく微笑んでおいしそうに食べている。
「ねえ、お姉ちゃん。一口交換しない?」
「うん、いいよ」
そう言って、お互いクレープを交換して一口食べたらまた微笑んで満足そう。
「ん〜、やっぱり甘い物は最高」
「そうだね。たまにはクレープもアリだね」
クレープなんて久しぶりに食べた。
ふふっ、音陽《ねひ》は色々なことを知ってるから勉強になる。
音陽《ねひ》がわたしの妹に生まれて来てくれて嬉しい。
お互いの存在がどれだけ幸せを感じさせられることか。
ただの兄妹だったら興味も関心も違うけれど、一つなにかを変えたら興味も関心なんて一瞬で壊れる。
自分だけでも、人となら価値観だって変わる。
それがどんな関係性に変わったとしても、お互いを大切に想い合えるならなんでもいい。
「ふー、ごちそうさま」
「おいしかったね」
「また来よう」
「うん、今度はタルトの専門店にも行きたいな〜」
「ふふっ、音陽《ねひ》は甘い物が好きだね」
「うん、あっでも、一番好きなのはお姉ちゃんが作るお菓子だよ。これは絶対だから!」
「ふっ、ありがとう。そう言ってくれるのは音陽《ねひ》だけにしたい」
わたしが作ったお菓子は最初から上手だったわけじゃない。
分量も焼き加減も下手で失敗ばかりだったけど、「食べたい」と言ってくれる人がいるから頑張れた。
「音陽《ねひ》、いつもありがとう」
「え? なにが?」
「うふっ、なんでもない!」
今の関係がずっと続きますように。
帰宅後。
「さあ、パーティーの始まりだ」
「遠慮しないでたくさん食べてね」
今年は今までと違ってシンプルだ。
唐揚げにパンにポテトサラダ。
まるでピクニックのようなメニューだが、主役の二人は瞳をキラキラと輝かせてとても嬉しそう。
「お父さん、お母さん」
「ありがとう。毎年こういう感じがいい」
笑顔で両親の手を握る二人の可愛らしい姿を見た両親も笑顔で頷いた。
「分かった」
これでいいならいいか。
「来年もこんな感じにするから楽しみにしててね」
簡単な物でも喜んでくれるなら嬉しいわ。
「お姉ちゃん、食べよう」
「うん」
四人向かい合って椅子に座り
「いただきます」
と、言って食べたら四人共満面の笑みでおいしそうに食べている。
「ん〜、お父さんが作るパンは本当においしい」
「そうか? 嬉しいな」
「お母さんが作るこの唐揚げもおいしい」
「うふふっ、褒めてくれるの? 嬉しいわ」
家族で一緒にご飯を食べて会話をする。
こんな当たり前の日常が続くといいのだが…。
「じゃあここからはプレゼントだ」
「今年もすごいわよ」
「えー、なんだろう?」
「ふふっ、楽しみ」
今年の両親からのプレゼントは。
「えっ、可愛いい!」
「こんなに素敵な物、嬉しい」
今年も決まってお揃いのワンピースだが。
真っ白な雪の結晶、冷たい空気が漂うような青色の長袖ワンピース。
「今年の冬はこれを着たらいい」
「ええ、あなたたちはお揃いのほうが嬉しいと思って」
双子だからこそなのかは分からないが、両親は二人にたくさんの愛情を注ぎ込んで毎年お揃いのワンピースをプレゼントしている。
それも音羽《おとは》の全てを理解した上でそうしているのだ。
「ふふふっ」
嬉しい、お父さんとお母さんはわたしが髪を伸ばすこと、スカートやワンピースを着ることをなにも反対しなかった。
むしろ、喜んでいた。
本当のわたしの姿が見られて嬉しいって応援もしてくれる。
わたし、この家族に生まれたことがなによりも嬉しい。
「わたしを産んでくれてありがとう」
つい言葉にするほど音羽《おとは》は一番両親に感謝している。
なにも変に思ったり怒ったりしなかった優しい家族に恵まれたこの幸せは永遠に忘れることはないだろう。
それは両親も分かって。
「音羽《おとは》、お前は、お前たちは私たちの大切な子供だ。子供を大切にするのは親として当然のことだ」
「そうよ。なにか悩んだり不安なことがあるならちゃんと言いなさい。親っていうのはそのためにいるんだから」
優しい両親に抱きしめられたこの手の温もりと
「お姉ちゃん、私もいるよ」
音陽《ねひ》の愛のこもった言葉が音羽《おとは》のこれからの人生をさらに良くしてくれる。
「ふー、お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん。そろそろわたしたちもプレゼント、交換しよう」
「わあ~、うん!」
プレゼント交換。
毎年楽しみにしていたこと。
今年は一体どんなプレゼントなのか?
「せーの!」
同時に袋を開けたら。
「えっ、これは」
「嘘、こんなことって」
なんと中身は色違いのリボンだった。
音羽《おとは》は紫色で黄色のビーズが飾られて。
音陽《ねひ》は黄色で紫色のビーズが飾られて。
二人共考えていることは同じみたいだった。
「ふふっ」
「あははっ、私たちって、本当に双子だね!」
「うん! 一緒で嬉しい!」
早速手に取って髪につけたらお互い似合っていて笑いが止まらない。
「ふふふふっ。本当にすごい」
「あはっ、やっぱり私たちって、似た者同士だね!」
こんなにお姉ちゃんが笑う姿見るのは久しぶり。
普段は落ち着いてて笑っても大声を上げるほどじゃない。
私、お姉ちゃんの妹になれて本当に良かった!
兄への感謝と生まれた喜びを精一杯心にしまって前を向く。
「お姉ちゃん、ありがとう」
満面の笑みで心に手を当てて大切にリボンを掴む音陽《ねひ》の姿は音羽《おとは》にはとても愛おしくて抱きしめて頭を撫でたくなるほど「好き」なのだろう。
「うん。音陽《ねひ》、これからもよろしくね」
「音羽《おとは》ちゃん、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、奏《かなで》」
翌日の夜、駅近くの公園で奏《かなで》と待ち合わせをしていた音羽《おとは》は天使の微笑みでプレゼントを受け取り、その中身は?
「あっ、指輪?」
そう、結婚するわけではないが、奏《かなで》にはなにか考えがあるそう。
「これはただのアクセサリーとして使ってほしい。この前天声《あまごえ》様から指輪もらったでしょ? だからこれは、結婚とかそういうのじゃなくてただのアクセサリーだからなにも気にしないで使ってね」
本当は結婚指輪を買おうと思ったけど…さすがにまだ早すぎるから我慢した。
うん、僕、頑張ったよ!
奏《かなで》の頑張りはともかく、音羽《おとは》はとても嬉しそうに満面の笑みで指輪を見つめ、その姿に心惹かれた奏《かなで》は右足を地面について両手を伸ばす。
「音羽《おとは》ちゃん、君が大人になったら僕と結婚してください」
突然のプロポーズに驚くはずが、音羽《おとは》はその言葉に期待していたようでギュッと抱きしめて頷いた。
「はい、よろしくお願いします」
この二人の行く末がとても楽しみですね。
「はぁ~」
「なんすか、そのため息?」
「は? 分からないの?」
「っす、全然」
「はあー、何故私が君に会いに来ないといけなかったの…響《ひびき》?」
今音陽《ねひ》と話しているこの少年の名は響《ひびき》。
姿は街灯が少ないため、よく見えないが、明らかに口調からすれば年下になる。
二人の関係は一体なにか?
「ちぇー、せっかくプレゼント持って来たのにその態度はなんすか?」
「もう、君のその口調は好きじゃない。なんか不良みたいで嫌」
「えー、そんなの言われても、元がこれなんすから分かってくださいよー」
「…ああ、もう」
仲が悪そうな会話でも、この関係は崩れることはない。
何故なら。
「あなたは歌姫なんすから、王子様のボクにもっと頼ってくださいよー」
「ちっ、うるさいよ」
そう、音陽《ねひ》も歌姫に選ばれていた。
その種類は誰も手が届かず恐れられる一番の存在。
「はぁ~、陽の歌なんて消えればいいのに…」
そう、音陽《ねひ》の正体は「陽」の歌姫。
ここから「陽」が向かう先はもうそこまで来ている…。
この日は音羽《おとは》と音陽《ねひ》の誕生日。
「お姉ちゃん! 今日は私とお姉ちゃんの誕生日だね!」
「うん。そうだね」
朝からハイテンションな音陽《ねひ》が背中からギューッと抱きしめられた音羽《おとは》も心から嬉しそうに頬を赤く染めて寄り添う。
「ふふっ、今日はなにをする?」
「ん〜、あっ、駅前にできたクレープ食べたい。ネットですごく人気あるみたいだからずっと気になってたんだよね〜」
「へえー、そうなんだ。じゃあ、着替えたらそこに行こうか」
「うん! 今日はお姉ちゃんを独り占めできるから嬉しい!」
歌姫になってからお姉ちゃんは他の歌姫と王子様のところに行って私は一人になる時間が増えた…けど、今日は誰にも邪魔されない。
だって、今日は私とお姉ちゃんの誕生日なんだから!
今まで寂しい気持ちを抱えて一人の時間に飽きて嫉妬やヤキモチを焼いていた音陽《ねひ》だったが、今日は予め音羽《おとは》にこう言っていた。
『誕生日は誰とも連絡しないで』
せっかくの誕生日を、それも双子だからこそできることを他人に邪魔されたくない音陽《ねひ》の気持ちは分からなくもないだろう。
「お姉ちゃん、早く着替えて行こう」
「うん」
今日はお揃いの秋らしい橙色の紅葉が描かれた茶色の長袖ワンピースに髪型は三つ編み。
兄妹でお揃いのワンピースを着られる光景は滅多にない。
でも、この兄妹は普通とはかけ離れているので大丈夫だろう。
「よし」
軽く両手で頬を叩く音陽《ねひ》の姿を、音羽《おとは》は少し面白くクスッと笑った。
「ふふっ、音陽《ねひ》、気合い入ってるね」
そう言われた音陽《ねひ》は寂しかったのか、またギュッと抱きしめて甘える。
「だって、やっとお姉ちゃんを独り占めできるのが嬉しいから」
甘えられた可愛さとちょっと震えた声が音羽《おとは》にもよーく伝わって抱きしめ返す。
「ありがとう。今まで寂しい想いをさせてごめんね。今日は二人の時間を楽しもう」
「うん。お姉ちゃんは私の大切な人だから、他の人には渡さない」
「ふふっ、大丈夫だよ。わたしも音陽《ねひ》が大切だから安心して。ほら、行こう」
「うん」
抱きしめ会った腕を離してリビングに行くと、クラッカーの音が耳の奥まで響いて一瞬倒れそうになった二人を両親が笑顔で祝福してくれた。
「ハッピーバースデー!」
「二人共、十三歳の誕生日おめでとう!」
毎年恒例のサプライズに慣れてもいいはずなのに、毎年忘れていた二人はお互いを見つめ合った後、満面の笑みで喜ぶ。
「お父さん、お母さん」
「ありがとう」
今日の主役の二人の姿を見て、両親も笑顔で頷いた。
「今日も似合っているよ」
「ええ、お母さんたちは料理の準備をするからその間、二人で楽しんでね」
思いやりのある大切にしてくれる両親に感謝して二人は笑顔で家を出る。
「はぁ~、びっくりした」
「うん。でも、毎年嬉しいね。お父さんとお母さんがお祝いしてくれるだけでわたしは幸せだよ」
幸せそうに笑う音羽《おとは》に、音陽《ねひ》も笑顔で手を繋いで歩いて駅へと向かう。
「今日を迎えられて嬉しい」
駅に着いた。
駅の目の前にある人気のクレープ屋に着いたのは良かったが。
「え〜、すごい人」
「うん、すごく人気があるんだね」
待ち時間一時間かかるほど人気が高いお店に来てしまった。
ここはキッチンカーではなく、一つのカフェのような感じで中で食べられるようだが、客席の数は三十で全て満席。
どの年齢でも人気のあるこのカフェはネットやテレビで紹介されたことで平日も待ち時間が長く中に入るだけでも難しそう。
それも今日は日曜日なのでより一層人が多いのも納得できる。
けれど、せっかく来たので、二人は行列に並ぶ。
「音陽《ねひ》、ここって事前予約とかできないの?」
「うん、店主がネットが苦手でそういうのはないみたい。不便だよね~」
「うん、でも仕方ないよ。誰だって苦手なことはあるから、それを責めたり悲しむことはないと思うよ」
「そうだね、お姉ちゃんの言う通りだよ」
本当にお姉ちゃんはいつだって人の気持ちを理解して言ってくれる優しく人。
私とは大違い。
双子でも性格は全く同じではなさそう。
でも、それも個性の一つ。
約三十分待ったところで店員に席に案内された二人はメニューを開いた。
「わあ~、どれもおいしそう」
「うん、種類がたくさんあって迷っちゃうね」
フルーツにアイス、他にも季節限定の物まで幅広くあるメニューの中から選んだのは。
「お待たせしました」
音羽《おとは》が選んだのは。
「マロンクリームがたくさん」
秋限定のマロンクリームたっぷりの栗。
音陽《ねひ》が選んだのは。
「こっちもおいしそう」
生クリームとチョコレートクリームたっぷりのイチゴ。
二人共好みの味を選び、一口食べたら可愛らしく微笑んでおいしそうに食べている。
「ねえ、お姉ちゃん。一口交換しない?」
「うん、いいよ」
そう言って、お互いクレープを交換して一口食べたらまた微笑んで満足そう。
「ん〜、やっぱり甘い物は最高」
「そうだね。たまにはクレープもアリだね」
クレープなんて久しぶりに食べた。
ふふっ、音陽《ねひ》は色々なことを知ってるから勉強になる。
音陽《ねひ》がわたしの妹に生まれて来てくれて嬉しい。
お互いの存在がどれだけ幸せを感じさせられることか。
ただの兄妹だったら興味も関心も違うけれど、一つなにかを変えたら興味も関心なんて一瞬で壊れる。
自分だけでも、人となら価値観だって変わる。
それがどんな関係性に変わったとしても、お互いを大切に想い合えるならなんでもいい。
「ふー、ごちそうさま」
「おいしかったね」
「また来よう」
「うん、今度はタルトの専門店にも行きたいな〜」
「ふふっ、音陽《ねひ》は甘い物が好きだね」
「うん、あっでも、一番好きなのはお姉ちゃんが作るお菓子だよ。これは絶対だから!」
「ふっ、ありがとう。そう言ってくれるのは音陽《ねひ》だけにしたい」
わたしが作ったお菓子は最初から上手だったわけじゃない。
分量も焼き加減も下手で失敗ばかりだったけど、「食べたい」と言ってくれる人がいるから頑張れた。
「音陽《ねひ》、いつもありがとう」
「え? なにが?」
「うふっ、なんでもない!」
今の関係がずっと続きますように。
帰宅後。
「さあ、パーティーの始まりだ」
「遠慮しないでたくさん食べてね」
今年は今までと違ってシンプルだ。
唐揚げにパンにポテトサラダ。
まるでピクニックのようなメニューだが、主役の二人は瞳をキラキラと輝かせてとても嬉しそう。
「お父さん、お母さん」
「ありがとう。毎年こういう感じがいい」
笑顔で両親の手を握る二人の可愛らしい姿を見た両親も笑顔で頷いた。
「分かった」
これでいいならいいか。
「来年もこんな感じにするから楽しみにしててね」
簡単な物でも喜んでくれるなら嬉しいわ。
「お姉ちゃん、食べよう」
「うん」
四人向かい合って椅子に座り
「いただきます」
と、言って食べたら四人共満面の笑みでおいしそうに食べている。
「ん〜、お父さんが作るパンは本当においしい」
「そうか? 嬉しいな」
「お母さんが作るこの唐揚げもおいしい」
「うふふっ、褒めてくれるの? 嬉しいわ」
家族で一緒にご飯を食べて会話をする。
こんな当たり前の日常が続くといいのだが…。
「じゃあここからはプレゼントだ」
「今年もすごいわよ」
「えー、なんだろう?」
「ふふっ、楽しみ」
今年の両親からのプレゼントは。
「えっ、可愛いい!」
「こんなに素敵な物、嬉しい」
今年も決まってお揃いのワンピースだが。
真っ白な雪の結晶、冷たい空気が漂うような青色の長袖ワンピース。
「今年の冬はこれを着たらいい」
「ええ、あなたたちはお揃いのほうが嬉しいと思って」
双子だからこそなのかは分からないが、両親は二人にたくさんの愛情を注ぎ込んで毎年お揃いのワンピースをプレゼントしている。
それも音羽《おとは》の全てを理解した上でそうしているのだ。
「ふふふっ」
嬉しい、お父さんとお母さんはわたしが髪を伸ばすこと、スカートやワンピースを着ることをなにも反対しなかった。
むしろ、喜んでいた。
本当のわたしの姿が見られて嬉しいって応援もしてくれる。
わたし、この家族に生まれたことがなによりも嬉しい。
「わたしを産んでくれてありがとう」
つい言葉にするほど音羽《おとは》は一番両親に感謝している。
なにも変に思ったり怒ったりしなかった優しい家族に恵まれたこの幸せは永遠に忘れることはないだろう。
それは両親も分かって。
「音羽《おとは》、お前は、お前たちは私たちの大切な子供だ。子供を大切にするのは親として当然のことだ」
「そうよ。なにか悩んだり不安なことがあるならちゃんと言いなさい。親っていうのはそのためにいるんだから」
優しい両親に抱きしめられたこの手の温もりと
「お姉ちゃん、私もいるよ」
音陽《ねひ》の愛のこもった言葉が音羽《おとは》のこれからの人生をさらに良くしてくれる。
「ふー、お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん。そろそろわたしたちもプレゼント、交換しよう」
「わあ~、うん!」
プレゼント交換。
毎年楽しみにしていたこと。
今年は一体どんなプレゼントなのか?
「せーの!」
同時に袋を開けたら。
「えっ、これは」
「嘘、こんなことって」
なんと中身は色違いのリボンだった。
音羽《おとは》は紫色で黄色のビーズが飾られて。
音陽《ねひ》は黄色で紫色のビーズが飾られて。
二人共考えていることは同じみたいだった。
「ふふっ」
「あははっ、私たちって、本当に双子だね!」
「うん! 一緒で嬉しい!」
早速手に取って髪につけたらお互い似合っていて笑いが止まらない。
「ふふふふっ。本当にすごい」
「あはっ、やっぱり私たちって、似た者同士だね!」
こんなにお姉ちゃんが笑う姿見るのは久しぶり。
普段は落ち着いてて笑っても大声を上げるほどじゃない。
私、お姉ちゃんの妹になれて本当に良かった!
兄への感謝と生まれた喜びを精一杯心にしまって前を向く。
「お姉ちゃん、ありがとう」
満面の笑みで心に手を当てて大切にリボンを掴む音陽《ねひ》の姿は音羽《おとは》にはとても愛おしくて抱きしめて頭を撫でたくなるほど「好き」なのだろう。
「うん。音陽《ねひ》、これからもよろしくね」
「音羽《おとは》ちゃん、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、奏《かなで》」
翌日の夜、駅近くの公園で奏《かなで》と待ち合わせをしていた音羽《おとは》は天使の微笑みでプレゼントを受け取り、その中身は?
「あっ、指輪?」
そう、結婚するわけではないが、奏《かなで》にはなにか考えがあるそう。
「これはただのアクセサリーとして使ってほしい。この前天声《あまごえ》様から指輪もらったでしょ? だからこれは、結婚とかそういうのじゃなくてただのアクセサリーだからなにも気にしないで使ってね」
本当は結婚指輪を買おうと思ったけど…さすがにまだ早すぎるから我慢した。
うん、僕、頑張ったよ!
奏《かなで》の頑張りはともかく、音羽《おとは》はとても嬉しそうに満面の笑みで指輪を見つめ、その姿に心惹かれた奏《かなで》は右足を地面について両手を伸ばす。
「音羽《おとは》ちゃん、君が大人になったら僕と結婚してください」
突然のプロポーズに驚くはずが、音羽《おとは》はその言葉に期待していたようでギュッと抱きしめて頷いた。
「はい、よろしくお願いします」
この二人の行く末がとても楽しみですね。
「はぁ~」
「なんすか、そのため息?」
「は? 分からないの?」
「っす、全然」
「はあー、何故私が君に会いに来ないといけなかったの…響《ひびき》?」
今音陽《ねひ》と話しているこの少年の名は響《ひびき》。
姿は街灯が少ないため、よく見えないが、明らかに口調からすれば年下になる。
二人の関係は一体なにか?
「ちぇー、せっかくプレゼント持って来たのにその態度はなんすか?」
「もう、君のその口調は好きじゃない。なんか不良みたいで嫌」
「えー、そんなの言われても、元がこれなんすから分かってくださいよー」
「…ああ、もう」
仲が悪そうな会話でも、この関係は崩れることはない。
何故なら。
「あなたは歌姫なんすから、王子様のボクにもっと頼ってくださいよー」
「ちっ、うるさいよ」
そう、音陽《ねひ》も歌姫に選ばれていた。
その種類は誰も手が届かず恐れられる一番の存在。
「はぁ~、陽の歌なんて消えればいいのに…」
そう、音陽《ねひ》の正体は「陽」の歌姫。
ここから「陽」が向かう先はもうそこまで来ている…。


